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メッセージ⑧

「おめでとうございまーす!」 「うわぁ!」 パンパンっと盛大に鳴らされる、クラッカーの音! ドアを開けると、梓の丸は、パーティー会場になっていた。 「お誕生日、おめでとうございます!雨花様」 いちいさんは、満面の笑みだ。 「おめでとうございます!」 側仕えさんたちが、また一斉にクラッカーを鳴らした。 「う、わぁ……誕生日、知っててくれたんですか?」 「はい。もちろんでございます」 いちいさんの案内で、梓の丸のホールに連れて行かれた。 すっごい料理が、たくさん並んでいる。 「うわあ!」 「本日は、特別な日でございますので、私共側仕えも、ご一緒させていただきとう存じます」 「はい!ぜひ!うわぁ、本当に……ありがとう、ございます」 「……雨花様」 感動して、泣きべそをかいたオレに、いちいさんが、ハンカチを出してくれた。 だって……こんな風に祝ってもらえるなんて……思ってもなくて。 涙腺だって、緩んでも仕方ないじゃん。 「準備するの、大変だったんですよ!雨花様にわからないように、こっそり準備したんですから」 あげはが、何故か威張っている。 「え?そうなの?」 「はい!今日は、ずっと外に出されていたでしょう?雨花様」 「ああ!そういうことだったんだ?」 今日、やたらと外に出されてた理由が、今わかった。 「始めましょうか?」 「はい!」 「でも、ケーキがまだですよ?」 「ああ……」 ふたみさんが、目を泳がせた。 「ケーキがなくても、もうこれだけで十分ですよ?」 ケーキの準備を忘れちゃったのかも。それなら、そんなこと気にしなくていいのに……。もう、本当に十分だし。 「あ、いえ……」 ふたみさんが気にしないようにって思ってそう言ったんだけど、ふたみさんは、余計口ごもってしまった。 「え?」 なんで? 「ケーキは、若様の担当なんです」 シンと静まり返ったその場の妙な雰囲気を破ったのは、後ろのほうにいた駒様だった。 「え?」 「奥方様候補の、誕生祝いのケーキは、若様が贈るものと決まっております」 え?ってことは、皇、オレの誕生日、知ってるの? でも……今、モナコにいる皇が、ケーキを準備出来るわけ、ない。 ってことは……ない、って、ことだ。 「あ……いや、いいです!ケーキがなくたって、こんなにたくさん豪華な料理を作ってもらってるんだし!」 「……」 あ。何だかちょっと、みんながしんみりしちゃってる。 「あ、ほら!食べませんか?オレ、お腹すき過ぎて、気持ち悪いくらいです!」 「あ、はい!そうしましょう」 ようやくにっこりしてくれたいちいさんが、みんなにお皿を取るように促した。 今日は、立食パーティーらしい。 お腹が苦しいくらい料理を食べると、いちいさんが、たくさんプレゼントを運んで来てくれた。 「え?!」 本当に、ギョッとするくらいのプレゼントの山だ。 「雨花様への誕生日プレゼントです」 「こんなに?」 「はい。雨花様のご実家から。お館様と御台様から。他の候補様方から。私共、側仕えから。それ以外にも、多数送られて参りました」 面食らっているオレに、駒様が、『候補の誰が奥方様になるかは、鎧鏡家臣の、今一番の関心事です』と、言った。 『若様の奥方様は、いずれ御台所様となり、裏から鎧鏡家を動かすことになります。今から、目当ての候補様に、名前を覚えてもらいたい輩は多いのでしょう』って。そういう意味のプレゼントなんだって。 「……」 オレは、奥方様には、ならないのに。 何だか、申し訳ない気持ちになった。 プレゼントの名前を見ていると、携帯で話していた駒様が、『しばらく出て参ります』と言って、出て行ってしまった。 駒様が出てすぐに、あげはが大袈裟にため息をついた。 「はぁああ……駒様がいると、緊張します」 「え?あげはが?」 「はい。なんか、ちょっと粗相をすると、すぐに怒られそうな気がして、食べた気がしません」 「その割には、あげはが一番食べていたように見受けたぞ?」 やつみさんにそう突っ込まれて、あげはは『ええっ?!そんなことないですよ!』と、頬を膨らませた。 「あ!雨花様!若様からのプレゼントは、なんでした?」 頬を膨らませていたあげはが、思い出したように聞いてきた。 「え?」 「三月のお梅様の誕生日には、若様は春スキーが出来るゲレンデをプレゼントなさったと聞きました」 「げっ……」 ゲレンデ?! 「お詠様には、パソコンルームだったみたいです」 「へぇ……」 ゲレンデのあとだと、あんまり驚かないかも。 「雨花様には、何をプレゼントしてくださったんですか?」 ウキウキしているあげはには申し訳ないけど……全部のプレゼントを確認しても、皇の名前は、どこにもなかった。

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