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制御不能③

✳✳✳✳✳✳ 梓の丸の屋敷に戻ると、すでに小さい冷蔵庫が、部屋の中に置かれていた。   「早っ!」 「冷蔵庫など部屋に置いてどう致す?」 「……内緒だってば」 「もうそなたの誕生日ではないぞ?」 時計はすでに、8月9日に変わっていた。 「そんなのずるい!」 「まぁ良い。余は明日早くまたモナコへ飛ぶ。そなた、何かモナコ土産で欲しい物があれば、今申せ」 「お土産は石なんだろ?」 「それ以外に、だ」 まぁ確かにさ。 土産は石って言われて、ビックリはしたけど……別に、これと言って欲しい物はない。 「あ。物っていうかさ。写真が見たい!」 「ん?」 「鎧鏡家の家族写真」 「あ?見たことがないのか?」 「うん」 「そうか。家臣はみな、鎧鏡一族の家族写真を家に置いておると聞いておったが、そういうわけではないらしいな」 「え?ホント?」 そんなの、見たことない。 「まぁ良い。写真か。それも土産ではないような気もするが」 「お土産だよ!」 「冷蔵庫といい、写真といい、そなたは金のかからぬ候補だな」 皇はそう言うと、オレにふっとキスをして、ベッドに横になって目をつぶった。 皇が完全に寝たのを確認して、オレはこっそりベッドを抜け出した。 早く『あれ』を取って来たかった。 皇を起こさないように、静かにドアを開けて、梓の丸の厨房に向かった。 柴牧の母様に礼を言えたのは、すごく嬉しいことだったし、皇に本当に感謝したけど。 誕生日で、オレがすっごく嬉しかったのは……。 「これかな?」 厨房の冷蔵庫に入っていた、金色の箱。 そっと取り出すと、ずっしり重い。 え?まさか、純金製?! 蓋を開けると、小さなチョコレートで出来たプレートが入っていた。 「あった!」 『うか あなたの存在に感謝する すめらぎ』 そう書かれているチョコレートで出来たプレート……皇からもらったケーキに乗せられていたこのプレートを、どうしても食べることが出来なかった。 こっそりふたみさんに、冷蔵庫で保管してもらうようにお願いしておいたんだ。 母様に礼を言えたのも嬉しかったけど、それより……。 皇がわざわざ、モナコからケーキを持って来てくれたことが、本当にすっごく……嬉しかった。 オレの存在に感謝する? 本当に? オレがいて、皇……嬉しいって思ってくれてるの? 「……」 とにかく早く戻って、部屋の冷蔵庫で保管しよう! 部屋のドアをそっと開けると、皇が仁王立ちで、こちらを睨んでいた。 「げっ!」 「何をしておった?」 「え……えっと……」 「渡りの意味を知らぬのか、そなたは」 「え?」 「そなたは今、余に抱かれているはずであろう?」 「はっ?」 「そんなそなたが、フラフラ出歩いては、夜伽をしていないことが、側仕えにわかってしまうぞ?」 「あ……」 そっか。全くそんなこと、考えてなかった。 「ごめん」 「何をしておった?」 「……」 いや、言えないし。 「隠しだてすると、手篭めにすると申したであろう」 「……うっ」 「ん?」 絶対言えないっ! お前にもらったケーキのプレートを、早く自分の冷蔵庫に入れたくて取りに行っていた、とか……。 いや、まずそんなプレートを取っておいたとか、恥ずかしくて言えないっ! 「手篭めにされたいようだな」 「うわっ!」 皇はオレをヒョイとかついで、ベッドにドサリと投げ出した。 プレートが割れるだろ!バカ! オレは箱を抱きかかえた。 「なんだ?その箱は?」 「えっ?!なっ……何でもない!」 隠そうとするオレの手をぐっと掴んで、皇はいとも簡単に箱を取りあげた。 「うわあああっ!見るなっ!」 取り返そうとするオレの背中を踏んづけて、皇が箱を開けた。 「ああああああ!」 「これは……」 「ちっ……違う!別に!そうじゃなくって!」 あたふたしているオレの背中を、皇は依然として踏みつけている。 「ちょっ……いい加減、足どかせ!」 「……」 何も言わず、ゆっくり足をどかした皇の手から、金色の箱を取り返した。 皇は表情を変えず、黙ったままベッドの上で立ち尽くしている。 え? ケーキのプレートを取っておくとか……引いた? ちょっとこれをとっておくとか、どうかなって、自分でも思ったけど。 とにかく早く、プレートを冷蔵庫に入れなくちゃ!溶ける! 立ち尽くしている皇はとりあえず放っておいて、オレは冷蔵庫に、金色の箱ごとチョコレートのプレートをしまった。 「……」 う……なんて言い訳しよう。 皇への言い訳を、冷蔵庫の前で考えあぐねていると、ものすごい勢いで後ろから、ぎゅうっと抱きしめられた。

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