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制御不能④

「雨花」 皇がものすごい力で、オレをぎゅうぎゅう抱きしめてきた。 「い、たい……よ」 「そなたのせいだ!」 「え?」 何怒ってんの? あ……もしかして、ケーキのプレートって、食べないといけない物だった、とか? でもふたみさん、何にも言わなかったし。 「このような……なにゆえそれを保管する?」 「……」 なにゆえって……嬉しいからに決まってんじゃん! このプレートに書かれていることが嬉しくて、食べるの、もったいなくて、とっておきたかったから……って!そんなこと言えるか!恥ずっ! 「雨花」 皇がオレをくるっと回して、正面からまたぎゅうっと抱きしめた。 「く、苦しいって……」 皇の胸に顔が埋まって、息が出来ない。 苦しさに顔を上げると、待っていたように皇が、キスをした。 「ちょっ……」 何か言おうとすると、そのたび皇がオレにキスをしてくる。 「なっ……んっ!」 何度か唇を重ねたあと、オレの唇を舐めた皇の舌が、口の中に入ろうと、オレの歯を開かせた。 「っ……」 オレの舌を探すように、舌を伸ばしてくる。 オレの舌をペロリと舐めて、舌の下側にすべり込ませると、オレの舌を軽く吸ってきた。 「っ!」 ちょっ……ちょっ……ヤバイ! ヤバイいいいいいい!! オレ、ヤバイ! でも、皇に抱きしめられていて、逃げられない! ……ヤバイ。 ヤバイってええええ!! その間にも皇は、オレの舌を吸ったり舐めたりしてきて……。 ダ、ダダ、ダ……ダメだって! ダメだってばあああ!! 泣きそうになったオレの口から、皇の舌がようやく出て行った。 「はっ……はぁ……はぁっ」 ホント……ヤバイ。 皇は、オレをまたぎゅうっと抱きしめると、頭にキスをして『寝る!』と、布団を頭まで掛けて寝てしまった。 え?怒ってるの? 「……」 いやもう、そんなことよりオレ……。 ……た……勃った。 男とキスして……勃つとか!もうオレ、終わった。 がっくり過ぎる。 「はぁ……」 ドキドキするのも、キシキシするのも、こんな……勃つのも、なんで? 止められない。 ……オレの体なのに。 オレの、なのに。 皇の寝息を聞きながら、全く眠れないオレは、もらったプレゼントを開くことにした。 実家の両親が贈ってくれたプレゼントは、コンパクトな書道セットだ。 『いつでも感謝の心を伝えられる人でありますように』って、カードにそう書かれていた。 「ありがとうございます」 それを見て、ふわふわしてた気持ちが落ち着いた。 オレはその書道セットで、プレゼントをくれた人たちに、礼状を書くことにした。 窓の外が明るくなってきた頃、ベッドがギシリと音を立てた。 「あ」 ベッドを見ると、皇が体を伸ばしていた。 「寝ておらぬのか?どうした?」 ベッドで横向きになってこちらを見た皇が、そう聞いてきた。 「ん?……別に」 「何をしておった?」 「え……」 礼状を書いていたって言うのも、何だか恥ずかしくて言えないでいると、皇がこちらにやって来た。 「礼状か?」 「……ん」 「そなたは……」 そう言った皇が、オレをまたぎゅうっと抱きしめた。 「ぐっ……ぐるじぃっ!皇っ!」 鼻が!鼻が皇の胸で塞がってるからっ! 死んじゃう! 死んじゃうってば! 「そなたは、字も綺麗なのだな」 ようやく息が出来るくらいに緩んだ皇の腕の中で、皇の顔を覗くと、ものすごいなんか……キラキラして見えた。 え?!なにこれ? 「あ……ありがと」 何、照れてんの?オレ! 「全員に書くつもりか?」 「あ、うん。……全部書いた」 「余にもか?」 「……ん」 皇がニヤリとしながら、手を差し出した。 「今、読まないでよ」 「なぜだ?」 「恥ずかしいだろ!」 「恥ずかしいことを書いたのか?」 皇が、渡した手紙を開けようとした。 「ちょっ!ホント!飛行機の中で読んでよ!」 「わかった。約束致す」 ふっと笑った皇は、オレの頭をポンポンっとした。 「っ!」 なんか……照れるし。ああ!もう! でもとりあえず皇、もう怒ってないみたいで……良かった。 そのあと『二日後には戻る』と言って、部屋を出た皇が、五分とせずに戻って来た。 「え?もう二日後?」 自分では洒落た冗談だと思ったのに、笑いもしない皇が、ぎゅうっとオレを抱きしめた。 「ぐあっ!」 「すまぬ。そなたとの約束を違えた」 「え?」 皇は、手の中の物をオレに見せた。 「なっ?!」 オレが書いた、皇への礼状だ。 「これは、真か?」 『皇が来てくれたことが、昨日一番嬉しかった、かも。ありがとう』 照れ隠しに『かも』とか付けちゃった、短い礼状だ。 「……皇の嘘つき!」 口を尖らせたオレに、皇が『許せ』と言いながら、キスをした。

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