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制御不能⑤
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皇は言っていた通り、二日後にモナコから戻って来た。
日が傾いてきた頃、オレは白いベールをかぶらされて、他の候補様たちと一緒に、皇を出迎えるため本丸の玄関に並んだ。
「おかえりなさいませ」
「おかえりなさいませ」
駒様の言葉に続いて、みんなが一斉に皇に向かって頭を下げた。
そこにいたのは皇一人だ。
お館様に、また会えなかった。
「皆、息災であったか?」
「はい。変わりありません」
駒様が答えた。
そりゃそうでしょ。
皇がまたモナコに行ってから、たかだか二日しか経っていないんだし。
たかだか……二日だよ?
だけど……ちょっとオレも……皇を見て、ドキドキしたり……してるけど。
なんか、あれみたいな。
夏休み明けに久しぶりに友達と会ったみたいな、感じ?
……たかだか、二日だけど。
皇は一人一人に声を掛けながら、お土産を渡している。
どれも大きな袋とか、大きな箱だ。
誕生日プレゼントに、ゲレンデをあげたりするようなヤツのお土産だし、すんごい物が入っていそう。
……オレには石って言ってたけど。
お殿様が考えることは、ホントよくわかんない。
ふっきーには、結局何を買ったんだろう?
「雨花」
皇はオレの前に立つと、小さな箱を差し出した。
「そなたには、これだ」
今までの候補様たちに比べたら、断然小さい箱だ。
……石だしね?
逆に大きかったらビックリだよ。なんならオレが思ってたよりは大きいくらいだよ。
後ろのほうから、クスクスという笑い声が聞こえてきた。
「……」
また笑われちゃった。
ごめんね、側仕えさんたち。
オレ、新嘗祭、ほんっと頑張るから!
それまでは耐えて!ごめんね!うう。
「開けてみよ」
「は?」
ここで?石を見ろって?
もっと笑われるじゃん!
「早く致せ」
皆が揃っているところで『若様』に逆らえるわけもない。
くっそー!皇のバカ!
オレはご丁寧にリボンまで付いている、その箱を開けた。
「……」
黄緑っぽい大きい石と、それより小さい白っぽい石が入っている。
「緑のほうが、そなたの誕生石だ」
「は?」
誕生石?
誕生石って……え?!宝石?
でもこれ、見た目、ホントにただの石だよ?
すっごい大きいし。
「どうだ?」
「え……」
どうだって言われても……これホントに誕生石なの?
「余の加工が好みに合わぬでは、そなたは喜ばぬであろうゆえ、原石のまま持ち帰った。加工は好きにするが良い。後で梓の丸に職人を遣わす」
「え?」
「それで、帯飾りを作れ」
「は?」
帯飾り?着物の?
「作った帯飾りを、新嘗祭で着けよ。良いな?」
新嘗祭で?
うわ。うわぁ!
皇、オレが新嘗祭で舞うこと、気にしてくれてたんだ。
うわ。すごい……頬が、緩む。
「そなたの誕生石だけでは、寂しい気がしたゆえ、小さいがダイヤも入れてある」
こっちの白っぽい石がダイヤモンド?
「え?あ、はい」
後ろの側仕えさんたちが、ザワザワ言ってる。
え?なに?
「約束の物は、後で届ける」
約束の物?あ!写真のこと、かな?
皇はそう言うと、本丸に入って行った。
駒様も続いて、本丸に入っていってしまった。
そのあと、候補は並んでいる順に、屋敷に戻って行くらしい。
最初に動き出した誓様が、オレの目の前を通った時、ふっと独特な香りがしてきた。
どこかで、嗅いだことがある、気がする。
どこでだっけ?
……思い出せない。
オレの横に並んでいた梅ちゃんが、オレの目の前を過ぎたあと、梅ちゃんの後ろについていた樺の一位さんが『若様の誕生石をいただくなど、どのような手を使われたのでしょうね』と、つぶやいた。
「なっ!」
どのような手って……。人聞き悪いなぁ。相変わらず、イヤな感じ!
そう思った時、少し前を歩いていた梅ちゃんが、大きな声で『一位!』と言いながら振り返った。
え?梅ちゃん……怒ってる?顔は見えないけど。
「梅様……」
樺の一位さんは、驚いた顔で立ち尽くしている。
オレもすごいビックリだよ!
顔は見えないけど、梅ちゃんから怒ってるオーラが出てる!
梅ちゃんは樺の一位さんの胸を、扇子でパンっと叩いた。
「お前、今なんて言った?」
「……」
小さい梅ちゃんが、大きく見える。
「お前が答えなくても、僕にもしっかり聞こえたよ!一位、お前の発言は、雨花様を侮辱しただけでなく、お前がつかえるべき、この僕の品位をも落とした!」
「はっ……も……申し訳ございません!」
樺の一位さんが、梅ちゃんに向かって土下座した。
「次は絶対に許さない!」
「はい!申し訳ございません!」
「……うん」
梅ちゃんは、いつもの可愛い声に戻ると、樺の一位さんの手を取って立たせた。
そのあと梅ちゃんは、オレの目の前まで来て、ガバっと土下座した。
「えっ?ちょっ……」
ええっ?!
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