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制御不能⑤

✳✳✳✳✳✳✳ 皇は言っていた通り、二日後にモナコから戻って来た。 日が傾いてきた頃、オレは白いベールをかぶらされて、他の候補様たちと一緒に、皇を出迎えるため本丸の玄関に並んだ。 「おかえりなさいませ」 「おかえりなさいませ」 駒様の言葉に続いて、みんなが一斉に皇に向かって頭を下げた。 そこにいたのは皇一人だ。 お館様に、また会えなかった。 「皆、息災であったか?」 「はい。変わりありません」 駒様が答えた。 そりゃそうでしょ。 皇がまたモナコに行ってから、たかだか二日しか経っていないんだし。 たかだか……二日だよ? だけど……ちょっとオレも……皇を見て、ドキドキしたり……してるけど。 なんか、あれみたいな。 夏休み明けに久しぶりに友達と会ったみたいな、感じ? ……たかだか、二日だけど。 皇は一人一人に声を掛けながら、お土産を渡している。 どれも大きな袋とか、大きな箱だ。 誕生日プレゼントに、ゲレンデをあげたりするようなヤツのお土産だし、すんごい物が入っていそう。 ……オレには石って言ってたけど。 お殿様が考えることは、ホントよくわかんない。 ふっきーには、結局何を買ったんだろう? 「雨花」 皇はオレの前に立つと、小さな箱を差し出した。 「そなたには、これだ」 今までの候補様たちに比べたら、断然小さい箱だ。 ……石だしね? 逆に大きかったらビックリだよ。なんならオレが思ってたよりは大きいくらいだよ。 後ろのほうから、クスクスという笑い声が聞こえてきた。 「……」 また笑われちゃった。 ごめんね、側仕えさんたち。 オレ、新嘗祭、ほんっと頑張るから! それまでは耐えて!ごめんね!うう。 「開けてみよ」 「は?」 ここで?石を見ろって? もっと笑われるじゃん! 「早く致せ」 皆が揃っているところで『若様』に逆らえるわけもない。 くっそー!皇のバカ! オレはご丁寧にリボンまで付いている、その箱を開けた。 「……」 黄緑っぽい大きい石と、それより小さい白っぽい石が入っている。 「緑のほうが、そなたの誕生石だ」 「は?」 誕生石? 誕生石って……え?!宝石? でもこれ、見た目、ホントにただの石だよ? すっごい大きいし。 「どうだ?」 「え……」 どうだって言われても……これホントに誕生石なの? 「余の加工が好みに合わぬでは、そなたは喜ばぬであろうゆえ、原石のまま持ち帰った。加工は好きにするが良い。後で梓の丸に職人を遣わす」 「え?」 「それで、帯飾りを作れ」 「は?」 帯飾り?着物の?  「作った帯飾りを、新嘗祭で着けよ。良いな?」 新嘗祭で? うわ。うわぁ! 皇、オレが新嘗祭で舞うこと、気にしてくれてたんだ。 うわ。すごい……頬が、緩む。 「そなたの誕生石だけでは、寂しい気がしたゆえ、小さいがダイヤも入れてある」 こっちの白っぽい石がダイヤモンド? 「え?あ、はい」 後ろの側仕えさんたちが、ザワザワ言ってる。 え?なに? 「約束の物は、後で届ける」 約束の物?あ!写真のこと、かな? 皇はそう言うと、本丸に入って行った。 駒様も続いて、本丸に入っていってしまった。 そのあと、候補は並んでいる順に、屋敷に戻って行くらしい。 最初に動き出した誓様が、オレの目の前を通った時、ふっと独特な香りがしてきた。 どこかで、嗅いだことがある、気がする。 どこでだっけ? ……思い出せない。 オレの横に並んでいた梅ちゃんが、オレの目の前を過ぎたあと、梅ちゃんの後ろについていた樺の一位さんが『若様の誕生石をいただくなど、どのような手を使われたのでしょうね』と、つぶやいた。 「なっ!」 どのような手って……。人聞き悪いなぁ。相変わらず、イヤな感じ! そう思った時、少し前を歩いていた梅ちゃんが、大きな声で『一位!』と言いながら振り返った。 え?梅ちゃん……怒ってる?顔は見えないけど。 「梅様……」 樺の一位さんは、驚いた顔で立ち尽くしている。 オレもすごいビックリだよ! 顔は見えないけど、梅ちゃんから怒ってるオーラが出てる! 梅ちゃんは樺の一位さんの胸を、扇子でパンっと叩いた。 「お前、今なんて言った?」 「……」 小さい梅ちゃんが、大きく見える。 「お前が答えなくても、僕にもしっかり聞こえたよ!一位、お前の発言は、雨花様を侮辱しただけでなく、お前がつかえるべき、この僕の品位をも落とした!」 「はっ……も……申し訳ございません!」 樺の一位さんが、梅ちゃんに向かって土下座した。 「次は絶対に許さない!」 「はい!申し訳ございません!」 「……うん」 梅ちゃんは、いつもの可愛い声に戻ると、樺の一位さんの手を取って立たせた。 そのあと梅ちゃんは、オレの目の前まで来て、ガバっと土下座した。 「えっ?ちょっ……」 ええっ?!

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