８月１３日　晴れ 今日から鎧鏡家は、お盆期間……だそうです。 　 『お盆はごくごく身内の行事ですので、候補様はご参加なさいません』って、駒様からこの前説明を受けた。 もともとオレは、行事参加は出来ませんけどね？ で。 さっき、朝ご飯前に駒様がやって来て『今日は絶対に二の丸に近付いてはいけませんよ』と、くどいぐらい繰り返し言われた。 もともと二の丸に行ってはいけないと言われているし、行くはずないですよ、駒様。 っていうか。 逆に『今日は絶対に行ったらダメ』とかそんなに何度も言われちゃうと、むしろ行けってことですか？とか思っちゃうじゃん。 ……まぁ行かないけどさ。 今日は鎧鏡家の先祖の霊を迎える儀式が二の丸であるため、昨日から準備でバタバタしているんだそうだ。 先祖の霊を迎える『儀式』だなんて、ここんちのことだから、何だかすごそうな気がする。 駒様は『そういうことですので、今日から奥方教育もお盆休みです』と、ニッコリしながら部屋を出て行った。 ドアが閉まってすぐ、ガッツポーズをしたオレを見て、いちいさんが苦笑いした。 あ、すいません。つい喜びが態度に出てしまいました。 だって今日は久しぶりに、何の予定もない日になったんだもん。 　 「今日、二の丸は華やかみたいですね」 朝ご飯を食べながら、あげはがニンマリしている。 「華やか？」 「はい。今日は若様の実のご両親である弐川田(にかわだ)様ご夫妻と、ご令妹(れいまい)の珠姫様がお見えになるそうです」 「ごれいまいのたまひめさま？」 誰？それ？ 「はい。若様の実の妹君の珠姫様です」 「ああ、ごれいまいって何かと思ったら……って、ええっ？！皇、妹がいるの？」 「はい。あれ？知りませんでした？」 知らないよ！駒様ってホント、基本情報を教えてくれないんだから！……あ、いや、これもオレが聞き漏れてただけ、かも。 皇がお館様の実の妹夫婦の実子っていうのは、駒様から聞いていたけど、皇に妹がいるなんて話は聞いてない！……と思う。 あげはの話では、その下に弟もいるんだそうだ。 珠姫様は、皇の"息子"になる男の子と、その息子の息子を産むことになる女の子、さらには珠姫様の婚家を継ぐ子を産むことになる……って、え？ややこしいなぁ。 とにかく三人、子供を産まないといけないってことらしい。 「産まなきゃいけないって、そんなこと言ったって、そればっかりはわからないよね」 産もうと思って出来るものじゃないじゃん。 「そこはサクヤヒメ様のご加護のおかげで、そうなるんだそうです」 「は？」 あげはの話だと、サクヤヒメ様から繁栄を約束されている鎧鏡家は、子孫の繁栄も約束されているんだそうだ。 だから絶対に三人の子供が出来るという。 「鎧鏡家って、外見も優秀に生まれることが約束されているみたいに、歴代のご当主様方、皆カッコイイですよね。だけど特に今の若様は、一番カッコイイんじゃないかって、皆が言ってます！」 「……」 確かに……皇の見た目は、カッコイイ。 最初見た時、ハーフのモデルさんかと思ったし。身長高いし、鼻も高くて、とにかくなんていうか、恐ろしく整ってるんだ、顔が。 でも歴代の中で一番って……だってお館様だって、すごくカッコいいじゃん。中身は全然違うような気がするけど、見た目だけなら、お館様と皇は、似てると思うし。 「どうしたんですか？雨花様？」 「……ううん」 歴代一番かどうかは置いておいて、皇は誰から見ても、カッコイイ……とは、思う。 だからすごく、モテるんだ、あいつ。 男からモテてるところしか知らないけど。 でも、皇は男と結婚するんだし、男に好かれたほうが嬉しいってこと？なの？ ふっとこの前、あげはに耳打ちしていた皇を思い出した。 「あのさ、あげはも皇のこと、カッコイイって思う？」 「え？もちろんですよ！」 あげははオレを見ながらニヤニヤした。 「なに？」 「いえ。＂あげはも＂ってことは、雨花様も若様のこと、カッコイイって思ってるんだなぁって思って」 「なっ！ち……一般論だよ！」 「真っ赤ですよ、雨花様。いいじゃないですか。若様は本当にかっこいいんですから」 「……」 顔がすっごい熱い。 「え？なんでわざわざそんなこと聞くんですか？あ、もしかして疑ってるんですか？」 「は？！なんでオレが皇とあげはのこと、疑わなきゃいけないの！」 「え？雨花様、そんなこと疑ってたんですか？」 「えっ？！」 「雨花様は僕の話をいっつも疑うから、若様が歴代の中で一番カッコイイって話も、疑ってるのかと思いました。でもそれを疑ってるわけじゃないんですね？」 う。 穴がなくても入りたい！ なに？このワタワタしてる感じ。 皇とあげはのことを疑うとか、ありえない！ 目の前であげはが『僕が若様とどうこうなんてあるわけないじゃないですかぁ』と言いながら、爆笑し続けている。 うっ。確かに。そんなことあるわけないじゃん。 何疑ってんの？オレ。 恥ずっ！