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トクベツ②
「あ、あのさ。二人は今日何をするの?」
恥ずかしさをごまかすために、そんな質問をしてみた。
「僕はちょっとお出かけします」
「私は特に何も……」
「あ!じゃあ、ぼたんさ。一緒に出掛けない?」
「えっ?!」
せっかく何の用事もないんだし、たまには外に出掛けてもいいんじゃない?
買い物とか。
って、欲しい物は全部いちいさんが揃えてくれちゃうから、別に欲しい物はないんだけど。
でもちょっと、ぶらっと外に出てみたい。
鎧鏡家に来てからオレ、学校以外の外出って実家に行ったくらい……じゃない?
「外出はいけませんよ?雨花様」
すかさずいちいさんがそう言った。
「え?」
「学校以外は若様の許可がないと出られません」
また皇の許可……。
「皇と一緒ならどこにでも行けるんですか?」
「もちろんでございます。しかし今日、若様はそれどころではありませんので、ダメですよ」
「……はぁい」
結局、オレは一日中、パソコンの前にいた。
なんでかって、暇潰しにカニちゃんにメールをしたら、オンラインゲームをしようって誘われたからだ。
やり始めたら、やめ時がわからなくって、夕飯の時まで続けてしまった。
せっかくのお休みが、不健康におわっちゃったなぁ。
夕飯になっても、あげはは帰って来ていないと言うので、ぼたんと二人で夕飯を済ませた。
そのあといつものように、三の丸に向けて、シロと一緒に散歩に出掛けることにした。
「くれぐれも二の丸に近付かないでくださいね?」
「はい。でもなんでそんなにダメダメ言うんですか?」
お盆の行事に参加出来るのは、鎧鏡一族だけってことなんだろうけど、それにしたって、あまりにダメダメ言い過ぎじゃない?
いくらなんでもオレだって、一回駄目って言われたら、行かないのに。
それに、二の丸は場所的には梓の丸のお隣になるけど、屋敷は随分遠くに見える。わざわざあっちの方まで、行くわけないのに。
「今日は二の丸に、占者様がいらっしゃっているのです。占者様との対面を許されているのは、鎧鏡家の直系血族の方々のみです。本日は大老様も上臈である駒様でさえも、二の丸に入ることを許されておりません」
「はぁ」
そういうことか。
占者様ってどんな人なんだろう?
占い師さんなんて聞くと、おばあ様みたいな人が頭に浮かぶけど、鎧鏡家のことだから女性ではないだろうし。
仙人みたいなおじいさんかなぁ?
梓の丸の庭を出てすぐ、三の丸まで続く道は、片側に梓の丸を囲むお堀があって、反対側は高い塀が立っている。
その塀の向こうが、二の丸に続く深い森だ。
二の丸の屋敷が明るく光っているのを見たのは、初めてかも。
あそこに、鎧鏡家の皆が集まっているんだ。
皇も、あそこに……?
きゅうっと、心臓が熱くなった。
「はぁ……」
母様は、皇が好きじゃなきゃ、ケーキのプレートを取っておくなんてしないよねって言ってたけど……。
だって、そんなのありえない。
だって皇は……ふっきーを選ぶんじゃないの?
いや、もしかして梅ちゃんかも。
でも、オレじゃないことは確か、だと思う。
だって家臣さんたちだって、オレじゃない候補が奥方になるのを望んでる人が、多いんだろうし?
皇は、家臣さんの意向で嫁は決めない、とか言ってたけど……皇の意向で決めたって、ふっきー、なんじゃないの?
「……」
皇を好きになるとか……ありえない。
だって、もし皇を好きになっても……。
皇は、オレを好きになっては、くれないのに……。
シロが、オレの顔を、べロリと舐めた。
「うわっ!……ごめん、シロ」
シロとも、離れる日が来るんだ。
……オレには、どうにも出来ない。
外出も何もかも、皇の許可が必要で、自分の好きには、出来ない。
「ごめんね、シロ」
シロをぎゅっと抱きしめたその時、二の丸側の高い塀の上に『ガツっ』という、変な音が聞こえた。
「へっ?!」
なにっ?!
音の方を見てみると、塀の上に、月明かりに照らされて……手?が見えた。
えっ?!あの高い塀の上に、人?!
シロに掴まって見ていると、もう片方の手が見えて、ひょいっと頭が出てきた。
「あっ!」
梅ちゃん?!
梅ちゃんだ!どうして?!
「あ……」
梅ちゃんがあちゃあ……という顔をして、めちゃくちゃ高い塀から、ヒラリと飛び降りた。
「うわあっ!」
大丈夫なの?!
「梅ちゃん!大丈夫?」
っていうか、見るからにキレイに着地してるし。どんだけ運動神経いいんだよ、梅ちゃんって。
「雨花ちゃん!」
「えっ?!」
「お願いっ!ボクがここにいたこと、誰にも言わないでっ!」
梅ちゃんがオレに抱きついた。
「えっ、うん。言わない、けど。なに……」
『なにしてるの?』って聞こうとしたオレの言葉を遮って、梅ちゃんは『ありがとう!じゃあねぇ!』と手を振って、走り去ってしまった。
なに?
え?なに?
なんなの?
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