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生徒会始動②
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生徒会の会計になってから、休み時間に教室にいることが、ほとんどなくなった。
引き継ぎが始まって早々『会計の引継ぎが一番過酷だよ』って、本多先輩がニヤリと笑った。
「うう……ホント過酷ですよ」
本多先輩から引き継がれたのは、パソコンの会計ソフトの他に、手書きの帳簿類がわんさかと、請求書と領収書の山だ。
ちょっと帳簿を見てみたけど、生徒会の会計が、こんなにお金を動かしてるなんて思ってもみなかった。
百万単位がざらに出入りしてる。
ビックリしていると、本多先輩が『うちの学校は特殊かもな』と、笑った。
「部活と生徒会の活動費は、主に親の寄付金なんだ。ああ、そう言えば、青葉たちが役員に決まった日、鎧鏡くんのうちから、多額の寄付金が生徒会に入ったんだ。役員の誰かと仲がいいのかな」
「え……」
「鎧鏡家は、今まで体育会系の部活に寄付してくれてたんだけど、今回は体育会系部への寄付金の他に、生徒会のほうにも、驚く額が入ったんだ」
本多先輩が、会計ソフトをクリックして『ほら』と、指差したところに、本当にびっくりする額の寄付金が記入されていた。
「うわっ!」
「だろ?今度の学祭、盛大に出来そうだな」
母様が、入れてくれたのかな?お館様?それとも……皇?
オレが会計になってから、皇とはほとんど会話らしい会話をしていない。
9月……皇は、誰にも一度も渡らないまま、一ヶ月が過ぎていった。
「青葉!」
「あ、本多先輩」
昼休み、本多先輩が教室までオレを呼びに来た。
会計の仕事にも慣れてきた頃、こうやって、本多先輩がこの教室にオレを呼びに来るのは、いつものことになっていた。
「またイレギュラーな支払いが出たから、教えておきたいんだ」
「あ、はい。すぐ行きます!」
ふたみさんが作ってくれたお重弁当を、急いで包んで手に持つと、オレは本多先輩と一緒に廊下に出た。
神猛学院高等部敷地内の、ど真ん中最上階にある、生徒会室に向かった。
生徒会室直結のエレベーターを待っていると、すぐ隣にある階段の上の方から『あっ』という声が聞こえた。
反射的にそっちを見ると、そこに、皇の背中が見えた。
「あ」
皇の向こう側に、誰かいる。
誰かの足が、見える。
皇は、その誰かの肩を、掴ん、でる?
皇は『すまぬ』と言うと、その人をそっと離した。
「っ?!」
皇の肩越しに見えた、向こう側にいた人は、ふっきーだ。
皇に向けてにこりと笑ったふっきーが、オレに気付いて『あ!』と小さく声を上げると、『雨花ちゃん!』と、オレに笑いかけた。
「エレベーター来たよ」
「あ、はい」
本多先輩に呼び掛けられて、オレはふっきーに何のリアクションもしないまま、エレベーターに乗ってしまった。
「誰かいた?」
「あ……いえ、大丈夫です」
「そっか」
「……」
皇とふっきー、あそこで、何、してたの?
皇の顔は、見られなかった。
皇の背中が見えただけで、一緒にいるのがふっきーだってわからなかった時は、疑いもしなかったけど……。皇が肩を掴んでいた相手がふっきーだってわかったら、あの体勢って……キス?してた?
オレに笑いかけたふっきーの顔が、勝ち誇っているみたいに思えてきて、何だか……すごく……苦しい。
勝ちとか、負けとかじゃ、ないけど。
皇の気持ちは、そんな、勝ち負けじゃ……。
「青葉?」
「あ……」
「どうした?」
「いえ……なん、でも……」
エレベーターの鏡に映る、情けない顔をしたオレが、泣いていた。
はっとして、涙を拭こうとした手を、本多先輩に取られた。
「っ?!」
「こすると、赤くなる」
本多先輩はハンカチを出して、オレの涙を拭いてくれた。
だけど、あとからあとから、溢れてくる。
「青葉……」
「すいませ……」
「そんな顔で泣かれると、本当に……困る」
本多先輩の手が、オレの頭をそっと撫でた。
「え……」
「泣かないでくれ」
「先輩……?」
こんな時、皇ならきっと『泣くな』って、命令するみたいに、言うだろう。
「もう、泣かないでくれ」
「すい、ません」
「……俺が、我慢出来なくなる」
「え?」
何が?と思い顔を上げると、本多先輩の顔が、近づいた。
「っ?!」
重なった本多先輩の唇は、冷たい。
オレの肩を掴んだ本多先輩の手も、冷たく感じた。
「もう、泣くな」
本多先輩が、オレを抱きしめた。
ふっきーの肩を掴んだ皇の手は、どんなだったんだろう?
皇に、最後に抱きしめられたのは、いつだっけ?
……皇の体温を、思い出せない。
「す……」
「ん?」
「……」
皇……。
「なに?」
「……」
皇。
皇。
皇は、オレを選ばない。
持っていた弁当をその場に落として、本多先輩の、シャツを掴んだ。
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