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生徒会始動③

何で先輩のシャツとか、握ったり、してんの、オレ。 だって……もう色々ショックで、わけわかんないよ! 本多先輩は、シャツを握ったオレの手を取って『ほら泣き止んだ』と、体を離した。 「え?」 「驚いて涙も止まっただろ?」 「あ……」 そのために、あんなこと? 「驚いた?」 そう言いながら、先輩はオレのお弁当を拾って渡してくれた。 「あ、はい。……すごく」 「……俺も」 「え?」 本多先輩は、それ以上何も言わないで、オレの頭をくしゃくしゃっと撫でると、ニッコリ笑った。 そのあと何にもなかったみたいに、本多先輩から、普通に引き継ぎを受けた。   泣き止ませるために、キス、したってこと? そんな理由で、キス、とかする? でも、本多先輩ってちょっとわからないところがある人だから、ありえる、かも。   キスって……したいから、するんだと思ってた。それ以外の理由があるキスなんて、考えたこともなかった。 いや、したいからキスしたとか、先輩に言われても、困るけど。 ……皇、どうしてオレに、キスするんだろう? 奥方候補には、そうしないといけないから? 前に、オレとしたいのかって聞いた時、そんなこと、言ってたし。 候補には、そうしないと、いけないから? そんなキスなら……されたくない。 「青葉!」 本多先輩が、昼休みにまたオレを呼びに来た。 「はい!」 「昼食べながら、伝票整理手伝ってくれるか?」 「はい」 本多先輩と一緒に、教室を出た。 あれから、本多先輩とは何もない。 オレも極力考えないようにしてるし、先輩も、何も言ってこなかった。 「お?何かついてるぞ?」 「え?」 本多先輩が、オレの頭に向けて伸ばした手は、オレの頭に届く前に止められた。 「皇?!」 顔をしかめた皇が、本多先輩の手首を掴んでいた。 「これに気安く触らないでいただきたい」 「これ?!」 『これ』ってなんだよ!『これ』って!モノか! とか、思ったりしたけど……でも、ちょっと、その……なんか、嬉しい? 「おっ、鎧鏡くん。この前は多額の寄付金、ありがとう」 「いえ」 「……手を放してくれないか?」 「これに触らないでください」 「あれ?鎧鏡くんは確か、吹立くんと付き合ってるって聞いたけど?」 「……」 皇は、何にも答えない。 「そっちもこっちもはずるいんじゃないの?」 本多先輩は、皇の手を掴んで放させた。 「青葉、鎧鏡くんと付き合ってるの?」 「えっ?!」 とっさに皇を見ると、めちゃくちゃこっちを睨んでいた。 「来い!」 皇はオレの手首を持って、強く引っ張った。 「ちょっ……」 「待った!」 反対側の手を、本多先輩に掴まれた。 「その手を放してください」 皇が本多先輩をギロりと睨んだ。 「これから生徒会の仕事なんだ。君こそ青葉の手を放してくれないか?」 「青葉青葉と、気安く呼ばないでいただきたい」 「青葉と付き合ってるわけじゃないんだろ?君に言われる筋合いじゃないよ」 「青葉は、私のです」 「っ?!」 「へぇ。青葉はそう思っていないみたいだけど?」 ちょっ……なんでそんなこと言うんですか! うわ、どうしよう。 「いや、あの、先輩!早く行って仕事しないと、昼休みのうちに終わらないです!」 早くこの場を何とかしなくちゃと思って、そう言ったんだけど……。 「ああ、そうだな。じゃあね、鎧鏡くん」 皇が、オレの手を放した。 オレは本多先輩と一緒に、生徒会室直通エレベーターに向かった。 でもまだ、皇が後ろにいるのは、なんとなく、わかった。 皇、カバン持ってたし、また仕事で早退するのかも。 皇に掴まれた手首が、熱い。 『青葉は私のです』とか、そんなこと、先輩に言って、いいの? どうしよう。すごい、胸が、苦しい。 先輩と一緒に乗ったエレベーターから、扉が閉まる直前に、飛び降りた。 「先輩!オレ、忘れ物して!あとですぐに行きますから!」 「え?青葉!」 降りてすぐ、皇が立っていた場所を見たけど、皇はもういなかった。 オレは、急いで昇降口に向かって走り出した。 だって……オレの手を放した時の皇の顔、泣きそうに見えたんだ。 オレ、皇を傷つけた?   昇降口に着いた時、外に出て行こうとする、皇の背中が見えた。 「皇!」 振り返った皇は、オレを見たのに、ふいっと顔をそらして、歩いて行ってしまった。 「な……」 ……嘘。 「皇!」 大きな声で呼んだのに、今度は振り返りもせずに、どんどん歩いて行ってしまう。 「皇……」 ……イヤだ。 イヤだよ! 「皇っ!」 ピタリと止まった皇が、くるりと振り向くと、冷たくオレを睨んだ。 「……」 皇、怒ってるの? そう思うと怖くて……怖くて、足が震えて。 オレは、その場からピクリとも動けなかった。

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