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生徒会始動⑤

✳✳✳✳✳✳✳ 「雨花様、今日は早めに帰ってこられますか?」 10月に入ってますます忙しくなった生徒会の仕事は、いつもの夕飯の時間に間に合わないくらい、放課後遅くまでかかる日が多くなった。 11月の学祭に向けて、とにかくやることがたくさんある。 梓の丸に着いてご飯を食べて、シロの散歩に行って、舞の稽古をして宿題をすると、夜中の12時をまわってしまう日が、ここのところずっと続いている。 でも……つらいとか、思ったことはなかった。 すごく、充実してる。 「あ、何か用事ですか?」 後ろに立っているいちいさんを振り返ると、朝食を食べるオレを見て、いつものようにほんわかほほえんでいた。 「今日は最終衣装合わせです」 「え?ついこの前、衣装合わせしましたよ?」 一週間前、新嘗祭で着る衣装の、衣装合わせをしたばかりだ。 例の帯飾りが出来上がってきたってことで。 あの帯飾りに合わせて、着物と袴と帯を、とおみさんがコーディネートしてくれた。 とおみさんって、洋服だけじゃなくて、着物のコーディネートまで出来るんだ!って、尊敬した。 「今日が最後の衣装確認です。そのあと、本番の衣装で、舞の最終チェックを御台様がしてくださいます」 「あ、はい」 「私共も怠り無く、行事参加の準備を進めております。雨花様は何の心配もなさらず、サクヤヒメ様に舞を奉納することだけを、お考えください」 「はい!ありがとうございます」 「生徒会のほうも忙しそうだけど、体調は大丈夫?」 舞の最終稽古を始めるため、側仕えさんたちがいなくなった時、母様がそう聞いてくれた。 母様との交換日記は未だに続いていて、最近は生徒会のことばっかり書いていた。 だから母様はそう聞いてくれたんだと思う。 「あ。あの日記、本当は皇のことを教えてって言われてるのに、オレのことばっかり書いててごめんなさい」 「あ、言われてみればそうだったね。あははっ……忘れてた。でも千代の話なんてそうそうないでしょう?今、あんまり学校行っていないだろうしね」 「あ……仕事、すごく忙しいんですか?」 「決算のまとめ時期だからね。王羽もあんまり家に帰って来ないよ」 「あ、あの」 「ん?」 「新嘗祭も忙しくて、皇が出席しないとか……ありますか?」 「え?いや、それはないと思うけど」 「あ」 あ。めちゃくちゃ喜んだ顔しちゃった。 「ふふっ、大丈夫だよ。候補様の行事デビューに、千代が出席しないなんてありえないから」 「え?」 「ほら、最後に練り歩きがあるから」 「えっ?!」 ねりあるき?! ……って、何ですか?それ? 「あれ?聞いてない?あれ……言っちゃいけなかったかな?」 「え?」 「梓の丸の側仕えは、青葉を驚かすのが好きみたいだからね。内緒だったかな?」 「え?」 「大丈夫。何の心配もいらないよ。のんびり見えて、梓の一位はやり手だから」 「あの!母様?ねりあるきって、何ですか?」 「うーん」 母様は少し考えると『一位には知らないふりをしておいてね。いやでも、本丸から梓の丸まで、皆で歩くってだけなんだけど』と、笑った。 ……絶対、その説明、大幅にカットされてる気がする。 「舞はもう大丈夫だね。動きは仕上がってる。あとは、サクヤヒメ様に、日頃の感謝を込めて舞ってくれたら、もう完璧!」 「はい!」 「……青葉」 「はい?」 「当日、体調が悪いとか、少しでもおかしいと思ったらすぐ言って」 「え?」 母様は口をきゅっと結んで『心配だな』と言った。 「え?」 オレの舞が、心配なのかな? 「今まで半年も表に出てこなかった"雨花様"が出てくるってことで、新嘗祭には家臣たちがすごく集まると思うんだ」 「え?はい?」 「人の気ってね、すごく……厄介だったりするんだよ」 「気?」 「そう。そうでなくても青葉は、千代が変則的に候補にしちゃった、とかで、変な噂がたってるし……」 「え?」 「人の気に当たって体調を崩すことって、結構あるんだ。青葉は、余計心配で……」 母様がオレの手をきゅっと握った。 気に当たる?なにそれ? でも、母様の顔は真剣だ。 「母様……」 「ああ、ごめんごめん。とにかく、何かおかしいなって思ったら、とりあえず……笑っておくといいかも」 「え?」 とりあえず笑う? 「青葉の笑顔は格別だからね」 そう言って母様が笑うので、オレもつられて笑ってしまった。 「ほら、格別」 『そうやって笑っていれば、気も跳ね返すだろうし大丈夫。千代もいるしね』と言って、母様はオレを抱きしめると『舞は完璧だから自信持って!』と、またオレの手を握った。 「はい!頑張ります!」 ここまできたら、何があろうとやるだけだ! オレの行事デビュー、新嘗祭は、明後日……。

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