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デビュー⑤

✳✳✳✳✳✳✳✳ 「今日はこれだけの贈り物がございました」 「うわぁ!」 新嘗祭に出たあと、家臣さんたちからのプレゼントが連日届いた。『行事初参加祝い』なんだそうだ。 舞の稽古がなくなった分、自分の時間が取れると思っていたけど、そのプレゼントへのお礼状を書くので、前より寝るのが遅くなったくらいだ。 「お礼状は書かずとも良いのですよ?雨花様」 いちいさんはそう言うけど、気分的にそういうわけにはいかない。 「家臣さんたちの名前を覚えられるし、書きたいので書かせてください」 「そうですか?わかりました。でもちゃんと睡眠時間は取ってくださいね」 「はい!大丈夫です!」 あげは情報だと、家臣さんたちは、オレのこと、ちゃんとした奥方候補って認めてくれつつあるみたい。 いや、あくまであげは情報なんだけど。 それでも、やっぱり嬉しい。 皇が新嘗祭でしてくれたあの"宣言"は、本来なら、展示会の時にしておくものだったんだと、いちいさんが教えてくれた。 オレは展示会の時、皇に会ってすぐにお風呂に入れられたから、宣言もなく、いつの間にか候補になってるヤツ……みたいに思っている家臣さんたちもいたらしい。 皇に候補だって宣言されてないんだから、候補とは認められないって、言ってる人も少なからずいたようだと、あげはが珍しく遠回しな言い方で、そう教えてくれた。 そんなことになっているのを知った皇が、わざわざ新嘗祭で、みんなの前で宣言してくれたんだろうって……。 「……」 お館様が昼行灯とか噂されて、大変なことになった過去があるから、オレのそんな噂が、おかしな方向にいかないように、消しておきたかっただけかもしれない。 だけど、オレが家臣さんたちから、皇の嫁候補としてちゃんと認めてもらえるようにしてくれたんだって思うと、皇にどんな理由があったとしても……嬉しいって、思っちゃって……。 期待しちゃ駄目だって思うのに……皇に、近付けた気になってしまう。 駄目だって、思うのに……。 決算期ということで止まっていた皇の渡りは、10月の後半になって再開された。 オレのところには思っていた通り、渡りが再開されてから5日目に、皇が渡ると、通達が届いた。 「()ね」 付き添いの駒様が出て行ったあと、皇は正座をしているオレを立たせて、軽く口先にキスをした。 「決算、もう終わったの?」 「一段落はついた。そなたはますます忙しい最中か?」 「うん」 神猛学院の学祭『楓寿祭(ふうじゅさい)』が、あと一週間後に迫っていた。 「寝る時間もあまりないようだな」 「そんなことないよ」 「疲れておろう。もう寝るがよい」 皇の腕は、優しくオレを抱きしめた。 「……」 腕の中から皇を見上げると、気付いた皇が、ちょっと顔をしかめて、またキスをしてきた。 「ふっ……」 ふいに入ってきた皇の舌に、体がビクついた。 皇はそれを察したように、唇を離した。 「まだ、恐ろしいか」 皇はまたオレを抱きしめると、『寝ろ』と言って、ベッドに入ってしまった。 「……」 オレ……今のは、怖くてビクついたんじゃない。 さっきの、皇の舌の感触を思い出して、また体がゾクリと震えた。 怖い、わけじゃない。 でもそう言ったら……皇はオレをどうするんだろう。 皇は、候補とは体の相性を見るために、夜伽、を、してみないといけないって、言ってた。 もし……皇と、夜伽をしてみて……相性悪い、とか思われたら、どうなるんだろう。 そういうのに、相性、とか……あるの?そんなのオレ、わかんないよ。 オレは……好きなら……何でもいい気がする、けど。 皇が、どんなんでも……オレ……。 「……」 って!皇がどんなんでもって……。 気付けばオレ……皇のことばっかり、考えてる。 これ以上好きになったら、傷つくって、思うのに。 オレ以外の候補様たちがすごすぎて、どれだけ自分に都合良く考えたとしても、皇がオレを嫁に選ぶ未来にたどりつけない。 そんな可能性を、見つけられない。 だから……。 これ以上、好きになったら、駄目だって思うのに。 なのに今なんて、皇の背中にピッタリ張り付いて寝ているシロのこと、羨ましい、とか、思っちゃってる。 シロにまでヤキモチ焼くとか……。 「うっ……」 落ち着こう!と、明日の予習でもしようと机に向かってはみたものの……ベッドで寝ている皇のことばっかり、気になる。 熟睡、してる? オレは、全然眠れないっていうのに! 「はぁ……」 ため息ばっかり。 この前皇が、ここにいたら、ゆっくり寝かせられない、とか言ったのって……そういう、何ていうか、下ネタ的な、やつ、かと思ってた。 けど、今二人きりなのに、こんな風に寝てるってことは、やっぱりこの前のあれは、オレが考えていた、"今夜は寝かせない"みたいな、そんなんじゃ全然なかったってことで……。 恥ずっ。 一番最初、皇に襲われそうになって、泣きべそをかいたのは、まだ半年前のことなんだ。 最初は、キスをされるのも抱きしめられるのも、怖くて、怖くて仕方なかった。 なのに今は、オレから……そうしたい、とか、思ったり、して……。 ベッド脇に立って、寝ている皇の髪にそっと触れた。 こんな風に簡単に触れる距離にいたら、全部……自分のものみたいな気がしちゃうじゃん。 独り占めしたくて……たまらなくなる。 それが無理なのも……頭では、わかってるのに……。

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