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学祭騒動①
11月2日 晴れ
今日から二日間、神猛学院高等部は、学園祭です。
「とうとうこの日を迎えた!皆、気合い入れていくぞ!」
「おおおおおお!!」
田頭の掛け声に合わせて、学祭実行委員のみんなと一緒に、重ねた手を天に向けた。
今日のために、とにかく頑張ってきた。
あとは何の事件も起きずに、終わってくれるのを祈るばかりだ。
会計は学祭の途中でも、両替だのお金が足りないだのなんだのって、ちょいちょい用事を言いつけられる。
「ふわあ、お腹すかないか?青葉」
「すきましたね。何か買ってきますよ。先輩、何がいいですか?」
本多先輩からの引継ぎは、学祭二日目の明日が最後だ。
途中色々とあったけど、およそ2ヶ月の引き継ぎを受けた本多先輩の印象は、優しくて頭が良くて、頼りがいのあるすごくいい先輩……ってことで着地してる。
「ここは会長たちに任せて、一緒に回らないか?最後だし」
「あ、はい」
今は、『最後』なんて言われた言葉に、少し寂しさを覚えるくらい、本多先輩のことは、先輩として慕っている。
「本格イタリアンだって」
「あ、いいですね」
神猛学院は金持ち学校なだけあって、学祭の中味が違う。
オレは本多先輩と一緒に、本格イタリアンと看板を掲げている3年生の教室に入った。
今日は生徒だけの公開だけど、明日は家族を招待してもいい日になっている。
家族と言っても、どこからかチケットを入手した、家族ではないだろう女の子たちがわんさか来ると、カニちゃんが言っていた。
鎧鏡家は女人禁制なのに、そんな学祭に出ていいのか不安になって駒様に確認したら、『今の世の中、女性と接触しないで生活なんてできません。心を奪われるようでは困りますが、接触くらいはお気になさらず』と、鼻で笑われた。
オレ、女の子と接触しちゃいけないのかと思ってた。だって駒様、最初にそんなこと言ってなかったっけ?
まぁとりあえず、安心したけど。
学祭に出られないなんてことになったら、本多先輩に負担をかけちゃうもんね。
本多先輩と入ったクラスで、ランチセットを頼んで食べた。
「明日は今日以上に忙しいぞ、きっと」
「先輩、ホントにやるんですか?」
「ん?」
「……女装」
「ああ、ははっ。やるよ。伝統だしな」
うちの学校は学祭二日目の最後に、女装コンテストがある。
男子校あるあるなの?これ。
でもこれがすごく盛り上がるんだそうだ。
その女装コンテストで、オレたち生徒会役員が全員女装して審査員を務めるのが、ここの伝統だという。
……ありえない。
女装はいいのかそれも駒様に確認を取ったところ『新嘗祭の衣装もある意味女装のようなものですからね』と、あっさり言われて許可が出た。
確かに、巫女みたいな衣装だったけどさ。
一日目の売上が生徒会にあがってきて、本多先輩と二人、処理に追われ、気付くと夜の10時を回っていた。
「もうあとは明日にして、今日は帰るか」
「あ、はい」
本多先輩と一緒に外に出ると、細い月が空に出ていた。
「明日は新月だったな」
「そうなんですか」
本多先輩がふと足を止めて、オレを見た。
何だろう?と思っていると、本多先輩に肩を掴まれた。
「え?」
「学祭が終わったら、本当に引き継ぎが終わりだ」
「あ、はい。ありがとうございました」
「ああ」
オレの肩から手を離して、本多先輩はまた空を仰いだ。
「青葉」
「はい?」
「本当に、鎧鏡くんと付き合ってるのか?」
「え?」
何?急にそんな質問……。
「鎧鏡くんが、勝手にあんなことを言っているだけなら……」
本多先輩は、そこでオレをジッと見た。
「え?」
本多先輩が、ふっとオレにキスをした。
「っ?!」
え……何?今の。
「……また明日な」
本多先輩は、オレの頭をポンっとすると、迎えの車に乗って、帰ってしまった。
「……」
嘘……今の、何?どういうこと?
その場に立ち尽くしていると、ふわりと背中にあたたかい感触が乗った。
「っ?!……ぼたん?」
振り向くとそこに、小姓のぼたんがいた。
「お迎えに、参りました」
「え?」
どうして、ぼたんが?
さっきの……見られた?
「ぼたん……いつから、いたの?」
「少し、前から」
「さっきの、見た?」
「……はい」
「あ……」
どうしよう。あんなところを、見られた!
「誰にも……言いません」
そんな風に言われると、すごく悪いことをした気分になる。
悪いこと?
自分からキスしたわけじゃない。
でも……皇は、先輩に気をつけろって、言ってたのに。
オレは、気をつける必要なんかないって、思ってた。
一度目のキスは、オレを泣き止ませるためにって理由があってのことだしって、思ってて。
先輩を変に警戒するなんて、逆に、そっちのほうが悪いことだって、思ってたんだ。
こんなこと、皇が知ったら、どうなるんだろう?
何かあったら、ただでは済まさないって、皇、言ってた。
まさかオレ、実家に返される?
そんな……。
「……雨花様」
……離れたくない。
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