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学祭騒動③

✳✳✳✳✳✳✳ 「えっ?なんですか?これ?」 学祭二日目の朝、生徒会室は、女性物の服やら小物やらで溢れかえっていた。 昨日10時過ぎまでここにいたのに、いつの間に搬入されたの? 「今日俺たちが着る衣装だよ。ばっつんは、どれがいい?俺が見繕ってやろうか?ん?」 「……いえ、結構です」 旧生徒会長の鏑木(かぶらぎ)先輩が、にやにやしながらオレの肩に腕を置いた。 「やーめーろ」 本多先輩が鏑木先輩の腕を取った。 「おっ!本多くんは俺よりばっつんが大事なんだね?うぅ……そうか、オレも田頭可愛がっちゃおうかな」 「気持ち悪いっす、先輩」 田頭がイヤそうな顔をすると、鏑木先輩はもっとイヤそうな顔をした。 「お前を可愛がるとか、むしろ俺のほうが気持ち悪いわ!」 「先輩、自分で言ったくせに、ひでーっす」 「あ。ちょっとそういうとこ可愛いな、田頭」 「気持ち悪いっす、先輩」 「お前が可愛いとか、俺のほうが気持ち悪いわ!」 エンドレス、続きそう。新旧会長のこの二人のやりとり。 それにしても……。 隣に立つ本多先輩をチラリと窺った。 「……ん?」 「あ……いえ。先輩はどれを着るんですか?」 「どれを着たって、僕とばっつんとサクラ以外は気持ち悪いだけだよ」 「あ、原先輩」 旧書記の原先輩は、サクラ以上に見た目が女子で、サクラ以上に毒舌キャラだ。 「確かにな」 昨日あんなことをしたのに、本多先輩はいつもと全然変わらない。 どういうつもりなんだろう? そんなことを考えながら、ぼうっとしていたら、原先輩にピンクの振袖を渡された。 「え?」 「僕がチアガールで、サクラが神猛学院女子部の制服。で、ばっつんが和装でもう完璧!」 「は?」 オレは自分の意思とは関係なく、ピンクの振袖を着ることに決まったらしい。 チアガールと女子部の制服に比べたら、振袖で良かったけど。 あんな短いスカートを履くくらいなら、振袖のほうがてんでいいに決まってる。 聞いていた通り、学祭開始のだいぶ前から、校門前は女の子で溢れかえっていた。 いつもはホモばっかりだと思っていたこの学校のそこここで、浮き足立った空気が流れている。 何かオレ、ちょっと安心したよ。 ホントはみんな、女の子が好きなんじゃん! そうだよ。普通に女の子と恋愛しろ! っていうか、皇も、女の子を見てウハウハしてたりして! ……いや、まさか! 急に心配になって、自分の教室に駆け込むと、梅ちゃんが皇の腕を取って、甘えるように何かを話していた。 梅ちゃんは、女の子と比べたって可愛い。 お盆の時、どうして二の丸のほうに梅ちゃんがいたのかは、結局未だに聞けないでいる。 皇はすでに奥方様を梅ちゃんで決めていて、鎧鏡家の人間として、お盆の儀式に出席させていた……とか? あんな二人を見ていると、そんな風に考えてしまう。 そんなふうに思いながら二人を見ていると、梅ちゃんがオレに気付いて『あ!』と、手を振った。 オレも手を振り返そうとした時、ガラリと教室のドアが開いた。 「あ、いた!」 背の高い女の子が、手を振りながら教室に入って来た。 「うおおおおおっ!」 モデルさんみたいに背の高い美人だ。教室にいた男子共が、ものすごい雄叫びを上げた。 うん……気持ちはわかる。 しっかしあの子……オレより背、高いかも。 その子はズカズカ進んできて、皇たちの前で止まった。 えっ?! 「探しちゃった」 「生徒以外はまだ入れない時間のはずだ」 え?皇が……女の子と普通に話してる?! えっ?!誰?! ……だれーっ?! 「みよし」 女の子がにっこりした。 みよし? ……みよし? 「その子がいくんの知り合い?」 「紹介して!紹介!」 男子共がわらわらと女の子を囲み始めると、梅ちゃんがその子の前に立って、両手を広げた。 「先輩方、この子はダメですよ」 「え?みっちゃんの知り合いなの?」 「あ!」 そうだ!深英(みよし)!みよしって、梅ちゃんの本名じゃん! え?なに?梅ちゃんの知り合い?ホント誰? 梅ちゃんよりも背の高いその子は、梅ちゃんの肩を掴んでにこにこしている。 やっぱり、すごい美人だ。 っていうか、誰かに似てる? くっきり二重なのに涼しげな目元とか。 日本人じゃないんじゃん?ってくらい高い鼻とか。 大きめの口とか。 あの、笑った顔、とか。 「あ」 皇だ。 皇に似てるんだ。 「とにかくまだ入るな」 その子の手を取って、教室から出そうとする皇に『私はお兄ちゃんに会いに来たんじゃないの!』と言って手を振りほどいたその子は、梅ちゃんの後ろに回った。 2年A組の教室が『えっ?!』一色に染まった。 お兄ちゃん?!

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