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学祭騒動④
お兄ちゃん……ってことは、あの子が『たまひめ様』?!
驚いている間に、皇が女の子と梅ちゃんを連れて、教室から出て行ってしまった。
たまひめ様がなんでここに……いやいや、家族は入れるから……って、いやいや、でも『お兄ちゃんじゃなくてみよしに会いに来た』って、言ってたよ?
え?どういうこと?
グルグルしていると、田頭が『ばっつん!釣り銭用意してだって!』と言いながら、脳天気に入って来た。
「あ、うん。わかった、すぐ行く」
田頭と一緒にエレベーターに向かうと、エレベーター脇の階段のほうから、揉めている声が聞こえてきた。
「学校には来るなと言うたはず!」
「見たかったんだもん!」
「お前の軽率な行動が、鎧鏡家を滅ぼすことに繋がるのだぞ!」
皇とたまひめ様の声だ。
軽率な行動が、鎧鏡家を滅ぼす?
……何か、どっかで言われたようなセリフだなぁと思いながら、オレは田頭に釣り銭の説明をして任せると、階段を昇って行った。
「雨花!」
「あの……階段の下まで、揉めてる声が聞こえて……」
全て言い終わらないうちに、たまひめ様が『雨花?あなたが雨花様?』と、オレを指差した。
間近で立つとたまひめ様は、やっぱりオレより目線が高い。
「追いかけて参ったのか」
「違うよ!生徒会室に行くエレベーターに乗ろうとしたら、揉めてる声が聞こえてきてきたから」
別に追いかけて来たわけじゃ……。
「お兄ちゃん、紹介して」
「……嫁候補の雨花だ」
皇はぶっきらぼうにそう言って、オレの背中に軽く触れた。
「あ、あの……柴牧青葉です」
『雨花です』って言うのも何かおかしいかなって思って、オレは自分の名前を名乗って手を出した。
「妹の珠姫 だ」
「はじめまして。弐川田珠姫 です」
たまひめ様って、たまきって名前なんだ?
ニッコリしたたまひめ様は、オレが差し出した手を取ろうとしない。
あれ?
オレは、行き場をなくした手を引っ込めた。
「とにかくお前は帰れ」
「静かにしてるから」
「お前は目立つ。今すぐ帰れ」
「せっかく来てくれたのに……」
オレがそう口を挟むと、皇にギロっと睨まれた。
「なっ……そんなに怒ることじゃないだろ」
「そなたののんきさには、ほとほと呆れる。事情も知らぬに口を挟むな。そなたは早うここから去ね」
「なっ……」
揉めてるから心配して来たっていうのに!皇に猛烈に腹が立った。
「なんでオレはいたらダメなんだよ!」
「あ?」
梅ちゃんは普通にお前の隣にいるのに!梅ちゃんはいいのに、オレはダメなのかよ!
「……皇のバカっ!」
オレはたまひめ様の手を取って『おいで!』と、引っ張った。
「えっ?!」
「あんなヤツ、こっちから放っておけばいいんだよ!」
後ろから『雨花ちゃん!』という梅ちゃんの声が聞こえたけど、それを無視して、生徒会室直通エレベーターに乗った。
「あ……無理矢理連れて来てごめんね。でもあのままだったら、皇に学校から出されちゃうでしょ?」
「お兄ちゃんのこと、呼び捨てにしてるの?」
「え?……あ……学校、だし?」
本当はどこでも呼び捨てだけど。たまひめ様にも、それは言わない方がいいのかなって思って、嘘をついた。
「ふぅん。……あなたが、雨花様か」
「え?なに?」
「なんか、想像してたのと全然違うなって」
「え?」
たまひめ様はオレをジロジロ見ると、ふんっと鼻で笑って腕を組んだ。
え?何か、さっきと態度が随分違う。
「私のこと知ってる?」
「え?うん。皇の妹の、たまひめ様でしょ?」
そう言うとたまひめ様は、イヤそうな顔をして『たまきでいいわ』と言いながら、ジロリとオレを見下ろした。
あれ、なんか……すごい迫力がある子、なんですけど。
「私がどういう存在か知ってるかって聞いてるの」
「え?」
オレが答えないでいると『家臣たちの噂ってバカに出来ないわね』と、また鼻で笑った。
「私はお兄ちゃん夫婦の子供を産むことになるんだけど」
「あ、うん」
「お兄ちゃんの奥さんに、私が産んだ子供を預けることになるわけ」
「え?うん」
「自分の子供を預ける相手なんだから、私にもお兄ちゃんの奥さんを選ぶ権利があると思わない?」
「え……」
さっき梅ちゃんのことを『みよし』って呼んでいたことを思い出した。
この子は梅ちゃんを、皇の奥さんにしたがってるって、こと?
「あなた、自分が家臣たちからなんて言われてるか知ってる?」
「え?」
ちょっと前なら、色々言われてたかもしれないけど、今はオレを認めてくれてる人も増えたって、あげはが言ってくれてた……よね?
え?なんて言われてるの?
「最遠の方様だって」
「さいえん?」
「最も遠いって書いて最遠。表向きは本丸から一番遠い所に住んでるからってことらしいけど、本当は、お兄ちゃんの奥さんになるにはほど遠いって意味みたいよ」
心臓が、バクバク言い始めた。
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