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学祭騒動⑥

✳✳✳✳✳✳✳ 午後三時から着替えが始まり、振袖のオレは、一番最後に仕上がった。 鏡に映るオレは『女の子』に見える。うーん、化粧の力ってスゴイなぁ。 今日女装することを話したら、ななみさんととおみさんが学校に来てくれることになって、着付けとヘアメイクをしてくれた。 ってことで、嬉しいんだか悲しいんだか、女装としては素晴らしい出来栄えだと思う。 「出来ましたよ、雨花様」 「スゴイですね、ななみさん」 「七位はハリウッドでも通用するメイクの腕前ですからね」 とおみさんがそう言ってウインクした。 「雨花様ならすっぴんでもいけたでしょうが」 いや、完全に特殊メイクの域ですよ、これ。 笑いながら皆の前に出て行くと、一瞬の静寂のあと、雄叫びが生徒会室に響いた。 「おおおおおっ!!」 「ばっつん?!」 「え……はい」 「ばっつんだあああっ!」 群がってくる皆を押しのけて、ななみさんが『それ以上触らないでいただけますか?』と言うと、皆がすぐにおとなしくなって、ちょっと笑えた。 ななみさんは顔が端正だから、凄むと怖いんだろうな。 ななみさんととおみさんが出て行ってしまうと、田頭が『あの人たち、何者?』と、こっそり聞いてきたので『近所のお兄さん』と、言っておいた。 もっとうまい言い訳があったよなぁって思ったのに、田頭は『すげーご近所さんがいるんだな』って、素直に納得してくれた。 相当無理のある説明だったと思うんだけど、田頭って、本当にいいやつだなぁ。 女装コンテストのオープニングが始まった。 オレたちは舞台袖で出番を待っていた。 ものすごい緊張感だ。 たまきちゃん、本当に皇のこと、連れて来てくれたのかな? ちょっと心配になって、こっそり客席を覗いたら、皇は相変わらず無表情で、一番前の列のど真ん中に座っていた。 たまきちゃんと梅ちゃんと、ふっきーも一緒に座っている。 「ふぅ……」 それを見てさらに緊張してきた。 すっごい緊張してるけど……皇に……見てもらいたい。 頑張れ!オレ! 「行くぞ」 鏑木先輩が小さく皆に声を掛けた。 一人ずつ順番に出て行って、ちょっとしたパフォーマンスをすることになっている。 新会計のオレの順番は、本多先輩の次で、なんと大トリだ。 に、しても。 原先輩が言っていた通り、原先輩とサクラ以外の皆の女装は、なんていうか、えっと……怖い?に近い。 生徒会役員が舞台に上がって行くたび、歓声というより笑い声が聞こえてくる。 オレも笑ってもらったほうが気楽だなぁ。     皆がどんどん舞台に上がり、舞台袖に本多先輩と二人になると、急に昨日のことを思い出してしまった。 「青葉」 「はい?!」 「……キレイだな」 「え?」 本多先輩は『こんなんで言ってもカッコつかないな』って、ふっと笑った。 今、本多先輩はごつい『女医』さんだ。 「青葉人気に拍車がかかりそうだ」 「え?」 「……昨日、俺が言ったこと……覚えてるか?」 「……」 「鎧鏡くんが勝手に、付き合ってるって言ってるだけならって、話」 「……」 そこで、本多先輩を呼ぶアナウンスが入った。 「化粧を取ったら、続きを話そう」 本多先輩はオレの頭をポンっとすると、ニッコリ笑って舞台に出て行った。 「……」 本多先輩……オレのこと、好き、なのかな? 「……」 だけど、オレは……。 「皇……」 オレは今、本多先輩にあんなことを言われても、皇のことばっかり頭に浮かんでて……。 本多先輩がどんなつもりでも、オレの気持ちは、決まってる。 本多先輩にハッキリ言われたら、オレもハッキリ伝えよう。 皇と付き合ってるわけじゃないけど。 だけど。 本多先輩と付き合う気はありませんって。 オレを呼ぶアナウンスが入った。 「はぁ……」 生徒会に入ってから、何度も人前に立つ経験をしてきたし、新嘗祭のほうがたくさんの人がいたと思う。 でも、今までにないくらい緊張していた。   上手に舞って、皇に『すごい』って思われたい。 そんな風に思うから緊張するんだ。 上手じゃなくたっていい。 皇はきっと、上手じゃなくたって、精一杯舞えばきっと、喜んでくれる。 そう自分に言い聞かせて、オレは舞台に上がった。 観客のヒューヒュー言う声が止むのを待って、座礼で自己紹介をした。 「一差し、舞わせていただきます」 神楽は流れなかったけど、新嘗祭の舞を舞い始めたその時……。 「ちょっ!がいくん!」 田頭が叫びながら見ている方に視線を向けると、皇が舞台に上がってきていて……。 え?! オレのところまでやって来た皇に、手首を掴まれた。 な、に……何っ?!

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