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学祭騒動⑥
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午後三時から着替えが始まり、振袖のオレは、一番最後に仕上がった。
鏡に映るオレは『女の子』に見える。うーん、化粧の力ってスゴイなぁ。
今日女装することを話したら、ななみさんととおみさんが学校に来てくれることになって、着付けとヘアメイクをしてくれた。
ってことで、嬉しいんだか悲しいんだか、女装としては素晴らしい出来栄えだと思う。
「出来ましたよ、雨花様」
「スゴイですね、ななみさん」
「七位はハリウッドでも通用するメイクの腕前ですからね」
とおみさんがそう言ってウインクした。
「雨花様ならすっぴんでもいけたでしょうが」
いや、完全に特殊メイクの域ですよ、これ。
笑いながら皆の前に出て行くと、一瞬の静寂のあと、雄叫びが生徒会室に響いた。
「おおおおおっ!!」
「ばっつん?!」
「え……はい」
「ばっつんだあああっ!」
群がってくる皆を押しのけて、ななみさんが『それ以上触らないでいただけますか?』と言うと、皆がすぐにおとなしくなって、ちょっと笑えた。
ななみさんは顔が端正だから、凄むと怖いんだろうな。
ななみさんととおみさんが出て行ってしまうと、田頭が『あの人たち、何者?』と、こっそり聞いてきたので『近所のお兄さん』と、言っておいた。
もっとうまい言い訳があったよなぁって思ったのに、田頭は『すげーご近所さんがいるんだな』って、素直に納得してくれた。
相当無理のある説明だったと思うんだけど、田頭って、本当にいいやつだなぁ。
女装コンテストのオープニングが始まった。
オレたちは舞台袖で出番を待っていた。
ものすごい緊張感だ。
たまきちゃん、本当に皇のこと、連れて来てくれたのかな?
ちょっと心配になって、こっそり客席を覗いたら、皇は相変わらず無表情で、一番前の列のど真ん中に座っていた。
たまきちゃんと梅ちゃんと、ふっきーも一緒に座っている。
「ふぅ……」
それを見てさらに緊張してきた。
すっごい緊張してるけど……皇に……見てもらいたい。
頑張れ!オレ!
「行くぞ」
鏑木先輩が小さく皆に声を掛けた。
一人ずつ順番に出て行って、ちょっとしたパフォーマンスをすることになっている。
新会計のオレの順番は、本多先輩の次で、なんと大トリだ。
に、しても。
原先輩が言っていた通り、原先輩とサクラ以外の皆の女装は、なんていうか、えっと……怖い?に近い。
生徒会役員が舞台に上がって行くたび、歓声というより笑い声が聞こえてくる。
オレも笑ってもらったほうが気楽だなぁ。
皆がどんどん舞台に上がり、舞台袖に本多先輩と二人になると、急に昨日のことを思い出してしまった。
「青葉」
「はい?!」
「……キレイだな」
「え?」
本多先輩は『こんなんで言ってもカッコつかないな』って、ふっと笑った。
今、本多先輩はごつい『女医』さんだ。
「青葉人気に拍車がかかりそうだ」
「え?」
「……昨日、俺が言ったこと……覚えてるか?」
「……」
「鎧鏡くんが勝手に、付き合ってるって言ってるだけならって、話」
「……」
そこで、本多先輩を呼ぶアナウンスが入った。
「化粧を取ったら、続きを話そう」
本多先輩はオレの頭をポンっとすると、ニッコリ笑って舞台に出て行った。
「……」
本多先輩……オレのこと、好き、なのかな?
「……」
だけど、オレは……。
「皇……」
オレは今、本多先輩にあんなことを言われても、皇のことばっかり頭に浮かんでて……。
本多先輩がどんなつもりでも、オレの気持ちは、決まってる。
本多先輩にハッキリ言われたら、オレもハッキリ伝えよう。
皇と付き合ってるわけじゃないけど。
だけど。
本多先輩と付き合う気はありませんって。
オレを呼ぶアナウンスが入った。
「はぁ……」
生徒会に入ってから、何度も人前に立つ経験をしてきたし、新嘗祭のほうがたくさんの人がいたと思う。
でも、今までにないくらい緊張していた。
上手に舞って、皇に『すごい』って思われたい。
そんな風に思うから緊張するんだ。
上手じゃなくたっていい。
皇はきっと、上手じゃなくたって、精一杯舞えばきっと、喜んでくれる。
そう自分に言い聞かせて、オレは舞台に上がった。
観客のヒューヒュー言う声が止むのを待って、座礼で自己紹介をした。
「一差し、舞わせていただきます」
神楽は流れなかったけど、新嘗祭の舞を舞い始めたその時……。
「ちょっ!がいくん!」
田頭が叫びながら見ている方に視線を向けると、皇が舞台に上がってきていて……。
え?!
オレのところまでやって来た皇に、手首を掴まれた。
な、に……何っ?!
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