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学祭騒動⑦
皇に手首を掴まれたまま、舞台から引きずるように下ろされた。
「え?!ちょっと!皇!」
オレの呼びかけは完全無視で、皇はオレの手首を掴んだまま、どんどん歩いていく。
皆がザワザワ言っている。
当然だよ!なんなの?!
その時、舞台から飛び降りて来た本多先輩が皇の前に立ちふさがった。
「学祭を壊す気か?」
「……通してください」
皇の声は、ものすごく……冷たい。
「いくら寄付金の多い君でも、ここは通せないよ」
本多先輩は冷静だ。
「消えたくなければ通してください」
「は?」
「私は、あなたの存在だけでなく、存在していたという事実すら消すことが出来る。……邪魔をするなら容赦しない」
本多先輩の息を飲む音が、聞こえるようだった。
皇ほどじゃないにしても、そうそう表情を崩すことがない先輩の顔が、明らかにひきつっている。
皇はオレの手を強く引いて、本多先輩の脇を通った。
本多先輩はもう何も言わず、その場に立ち尽くしていた。
「お兄ちゃん!」
コンテスト会場から付いてきたたまきちゃんが、さっきから何度も呼びかけているのに、皇は一向に足を止めず、歩き続けていた。
「皇!」
「……」
オレが呼んでも、何の反応もしてくれない。
歩いているというよりは、走っているといったほうが近いくらいの早足のせいだけじゃなくて、心臓が、バクバクいっていた。
皇が、何で怒っているのか、わからない。
でも、怒っていることだけはわかる。
校舎からだいぶ離れた森の中に入ると、皇はようやく足を止めた。
こちらに振り返った皇の顔は、想像していた通り、明らかに怒っていた。
「何で……怒ってるんだよ」
恐る恐るそう聞くと、皇は『そなたは取り返しのつかないことをするところだった!』と、乱暴にオレの手首を放した。
「え?」
「あの舞はサクヤヒメ様に奉納する舞!サクヤヒメ様だけに奉納されるべきもの!それをあのような場で、余興として舞おうなど、サクヤヒメ様を冒涜する行為だ!」
ザアッと、一瞬で血の気が引いた。
「なにゆえあのような真似をした?!」
皇の後ろで固まっているたまきちゃんに視線を送ると、ついっと目を逸らされた。
たまきちゃんは、あの舞をあの場で舞ったらいけないって、知って……た?……そんなわけないよね?
「珠姫!」
「え……」
「お前……やけにあの場に行くことを勧めたな。雨花が舞うのを知っていたのか?」
「え?」
「たまきちゃんは関係ない!オレが勝手に……」
「そなたは黙っておれ!……珠姫!」
「私は……知らない!」
たまきちゃんは、走って行ってしまった。
「珠姫の差し金か?」
皇はそう言って、ため息をついた。
「ちがっ……違うよ!」
さしがねだなんて……たまきちゃんに言われて舞ったのは事実だけど……舞おうって決めたのは、オレ自身だ。無理矢理舞わされたわけじゃない。オレは喜んで、舞おうって思ったんだから。
「ではなにゆえ、あのような真似を……」
「そんな大変なことだって、思ってなくて……」
オレは、大変なことをしてしまったんだ。
ものすごく……怖い。
オレがあんなことをしてしまったがために、サクヤヒメ様が鎧鏡家を守ってくれなくなったらどうしよう。
オレのせいで、鎧鏡家が潰れちゃったら、どうしよう。
「オレ……オレのせいで、鎧鏡家が大変なことになったら……どうしよう」
「何故あの場で舞おうなどと思ったのだ?!」
「……皇に……見てもらいたくて……。そんな風に思ったらいけないことだなんて、全然……頭の中になくて……。ごめん……オレ、サクヤヒメ様に許してもらえるなら、なんでもする!……何でもするから!どうしたら……」
皇は、何も答えず近寄ってきた。
オレは怖くて、後ずさると、後ろにあった大きな木に、背中をぶつけた。
皇……オレのこと、どうするの?
膝がガクガクいって、体が、小刻みに震えた。
何……何か言ってよ!
オレの肩を掴んだ皇は、オレを引き寄せ、抱きしめた。
「っ?!」
どう、して?
怒ってるんじゃ、ないの?
震えながら皇の腕にしがみついて見上げると、皇もオレをじっと見つめた。
「そなたは……うつけだ」
「……」
「これからは、生徒会で何をするのか、事前に余に報告致せ」
「え……オレ……どうしたらいいの?鎧鏡家……どうにかなっちゃったら……」
皇は、オレを強く抱きしめると『実際に舞ったわけではない』と言った。
「え?!……それって、大丈夫ってこと?」
「もし罰がくだるなら……」
皇は、オレを見つめて頬を撫でると、唇を重ねた。
「っ?!」
「そなたは……余のもの。そなたの罪も……余のものだ」
「え……」
「そなたに罰が下るなら……余が受ける」
皇はそう言って、オレをまた強く抱きしめた。皇の胸の中のオレは、きっと涙で、顔中ぐちゃぐちゃだったと思う。
あたりはすっかり闇に包まれていた。
星は見えるのに……月が見えない。
そう言えば、今夜は新月だって、先輩が、言ってた。
そんなことを思いながら、オレはまぶたを閉じて、皇の、キスを受けた。
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