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学祭騒動⑨
「お兄ちゃん!」
コンテスト会場の明かりが見えて来たあたりで、暗がりの中からたまきちゃんが、梅ちゃんと一緒に現れた。
皇はため息をついて、オレを下ろした。
「まだおったのか?」
「あの……」
言い淀んでいるたまきちゃんの背中に手を置いて『ボクから言おうか?』と、梅ちゃんが声を掛けた。
たまきちゃんは梅ちゃんを皇の奥さんにしたいみたいだし、それだけ仲がいいんだろう。
そう思うと、胸が痛んだ。
お盆の時、梅ちゃんが二の丸にいたのは、やっぱり梅ちゃんが、奥方様になるから?
皇は……梅ちゃんが好きなの?
それとも……たまきちゃんが勝手に、梅ちゃんを推してるだけなの?
たまきちゃんが、勝手に梅ちゃんを推してるだけなら、いいのに……。
皇の気持ちが、まだ誰のものにもなっていなきゃ、いいのに……。
ふと『鎧鏡くんが勝手に言っているだけなら』と言った、本多先輩の言葉が頭に浮かんだ。
先輩も……こんな気持ちで、ああ言ってくれたのかもしれない。
梅ちゃんの申し出を、大きく首を振って断ったたまきちゃんは『お兄ちゃん、雨花様をどうするの?』と、皇に一歩詰め寄った。
心配そうに眉を寄せる様子が、やっぱり皇と似ている。
たまきちゃん、オレを心配してくれてるの?
あ、そっか。たまきちゃんはさっき、オレが大変なことをしでかしたってところまでしか話を聞いていないから、オレが大丈夫だって知らないんだ。
『大丈夫だよ』って言おうと口を開いた途端、皇の腕がオレを制した。
え?なんで?
「何故お前が雨花を気にする?」
「……」
「雨花が命を持ってサクヤヒメ様に詫びようと、お前には関係ない話であろう?」
え?!命を持って詫び?!
え?舞ったわけじゃないから大丈夫だって、お前言ったよね?
「そんな!あれだけのことで命を取るなど!」
「たわけがっ!雨花は取り返しのつかないことをしたのだ。命を持ってサクヤヒメ様に詫びるのは当然のこと。鎧鏡の生母となるお前が、あれだけのことなどと、軽率なことを申すでない!」
「でも!」
どういうこと?
やっぱり、罰を受けろってこと?
小さく体を震わすと、皇が背中でオレの手を握った。
「っ?!」
え?何?
斜め前に立っている皇を見上げると、皇は握った手に力を入れた。
え?オレ、大丈夫なの?
「雨花がどうなろうが、お前が気にすることではなかろう」
「違うの!私が!」
「……お前が?」
「私が、雨花様に……あの場で舞ったらって……言ったの」
「ちが……」
オレが『違う』と言おうと口を挟むと、皇がキッと睨んだ。
「そなたは黙っておれ!」
ちょっとひるんだけど……今『違う』って言わなきゃ、たまきちゃんが悪者になる!
「黙らない!たまきちゃんのせいじゃない!」
暗くて、たまきちゃんの顔はハッキリ見えないけど、さっきのたまきちゃんの声、震えてた。
オレ……たまきちゃんは、舞ったらいけないって知ってて、オレにわざと舞うように勧めたのかも……なんて、ちょっと、疑ったりしちゃったけど。
でも陥れようとしてたなら、あんなに震えた声で、オレを庇うようなこと言ってくれるわけない。
それに万が一、たまきちゃんがオレを陥れようとして言ったことだとしても、舞うことを選んだのは、オレなんだ。
たまきちゃんのせいじゃない。
「雨花様……」
「たまきちゃんのせいじゃない。オレが……舞いたかったんだ」
皇に舞を見てもらって……ふっきーがしてもらってたみたいに、嬉しそうに……迎えてもらいたかった。
そればっかり考えてて、あの舞はサクヤヒメ様に奉納する舞だってこと、頭からすっぽり抜けてたんだ。
皇が大切にしているもの……サクヤヒメ様や鎧鏡家を、オレはもう少しで、穢してしまうところだったんだ。
「ごめん……オレ……」
こんなんで、皇に選んでもらおうなんて……。
「……雨花」
皇に手をグッと引かれたと思ったら、次の瞬間オレは、皇の腕の中にいた。
ちょっ……梅ちゃんが!たまきちゃんもいるのに!
逃げようともがいても、皇の腕から逃げられない。
皇はオレを抱きしめたまま、たまきちゃんを呼んだ。
「珠姫」
「……はい」
「お前……雨花を陥れようとしたのか?」
「なっ……違うよ!」
たまきちゃんより先に、オレが答えた。
「何故そなたが否定する」
「だって!たまきちゃんは鎧鏡家の跡取りのお母さんになる人でしょう?そんなたまきちゃんが、サクヤヒメ様を怒らせるようなことをするわけないじゃん!たまきちゃんもあんな風に舞ったらいけないって、知らなかったんだよ。……そうだよね?」
「……」
皇もたまきちゃんも、何にも答えてくれない。
気まずい空気に耐えられない!と思った時、梅ちゃんが口を開いた。
「珠姫が雨花ちゃんにそんなことを言ったのは、ボクのせいなんだ」
「へ?」
……どういうこと?
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