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学祭騒動⑩
「梅!」
話を続けようとする梅ちゃんを皇が睨み付けた。
え?どうして?
っていうか、それより……梅ちゃんが、ものすごく男前に見える。
そうだ。樺の一位さんを怒鳴りつけた時みたいな感じ。
あの時も、いつもは可愛らしい梅ちゃんが、今みたいに、すごく凛々しく見えた。
「これ以上、珠姫を苦しめないでください」
「え?」
梅ちゃんはたまきちゃんを見つめると、たまきちゃんの頭を『よしよし』と撫でた。
梅ちゃんのほうが、背は低いんだけど……。
って……えっと。
えっと……?
仲良し過ぎない?
いくら自分を推してくれてる、皇の妹って言ったって……。
「慎め、梅」
「いえ。珠姫が苦しむなら、ボクは全力で雨花ちゃんを守ります」
「は?」
え?なに?何でオレがそこに出てくるの?
「雨花ちゃんがさっきのことで命を落とすことになったら、珠姫が苦しみます。そんなことにはさせません」
梅ちゃんは、皇を睨んでいるように見える。
ちょっ……え?どうなってんの?
「余に歯向うか」
皇はそう小さく呟くと、鼻で笑った。
何か……皇、喜んでる?
「雨花が舞うのを、余が寸での所で止めてやったのだ。お前ら感謝するがいい」
「え?!それって、雨花様は大丈夫ってこと?」
梅ちゃんの袖を握っていたたまきちゃんが皇に一歩近づくと、皇はたまきちゃんのおでこをピンっと指で弾いた。
「痛っ!」
「うつけが!雨花の命は取らぬ。だがサクヤヒメ様を冒涜しようとしたことにかわりない。お前の軽率な行動が、鎧鏡を潰しかねぬと言うたはず」
「ごめんなさい!あんな場で、舞を披露したらいけないのは、わかってたけど……そんな、命を持ってお詫びしなくちゃいけないくらい大事だなんて……思ってなくて!ただちょっと……みよしが……雨花様のこと、ガッカリすればいいのにって……思って……」
「え?」
みよしが?みよしがガッカリって言った?
皇じゃなくて?
オレが呆然としていると、皇が『二人は幼馴染みなのだ』と言った。
「え?」
梅ちゃんとたまきちゃんは、しらつき病院で、ほぼ同時刻に生まれたんだと、皇が話し始めた。
そんなんでお母さん同士が仲良くて、小さい頃からちょくちょく一緒に遊んできたんだって。
だからこんなに仲良しなのか……。
「皇も小さいうちから、梅ちゃんのことを知ってたってこと?」
「いや。余は鎧鏡家の人間として生を受けた。実の母といたのも、しらつき病院での一週間足らずと聞いておる。余は幼き頃に梅と会ったことはない」
「そう、なんだ」
皇って本当に、複雑な生い立ちなんだなぁ。
梅ちゃんとたまきちゃんが幼馴染みなのはわかったけど……。
「あの」
「ん?」
「梅ちゃんに、オレをガッカリさせたかったって……どういうこと?」
二人が幼馴染みで仲良しなのはわかったけど、どうしてそこでオレが出てくるの?
ガッカリさせたかったって……。
こう言っちゃなんだけど、オレは最初っからガッカリレベルなんだから、改めてガッカリとかしないでしょ。
「だってみよし……雨花様のことばっかり褒めるから」
「へ?」
「珠姫……」
「みよし……雨花様のこと、好きなのかと、思って……」
「は?」
梅ちゃんがオレのことを好き?
そんなことあるわけないじゃん。
梅ちゃんは皇の奥方様候補だよ?
「幼馴染みを取られるとでも思うたのであろう。愚かな」
皇はそう言うと『急がねば学祭が終わる』と、オレの背中を押した。
「あ……うん」
生まれてすぐから仲が良い幼馴染みって、そういう感覚になるものなのかな?
オレは小さいうちから引越し続きで、ずっと近くで育ってきた幼馴染みなんていないし、その気持ちはよくわかんないけど……。
でも梅ちゃんを取られちゃうって思ったんなら、そこは皇に妬くとこなんじゃないの?
だって梅ちゃんが好きなのは皇じゃん。
「……」
ん?いやでも、たまきちゃんは、幼馴染の梅ちゃんが、皇の嫁になればいいって思ってるのか。
梅ちゃんが皇以外の人を好きになるのがイヤってこと?
「たまきちゃん、心配しなくても大丈夫だよ。梅ちゃんはちゃんと皇のことが好きだよ。ね?」
梅ちゃんに同意を求めると、たまきちゃんが『え?』と、驚いた声を上げた。
え?何?オレ、変なこと言った?
わけがわからないでいると、すぐ横で皇が小さく吹き出した。
「何笑ってんの?」
「いや。そなたの思考回路はどうなっておるのかと思うてな。まぁ良い。それよりそなた、真、間に合わぬぞ」
「あっ!そうだった!」
その場を去ろうとすると、たまきちゃんに腕を引かれた。
「うわっ!」
バランスを崩したオレの耳元で、たまきちゃんが囁いた。
『みよしは私のものなの』って。
……えっ?!
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