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学祭騒動⑫
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「申し訳ありませんでした」
校庭に設けられた学祭実行委員会本部に着くなり、皇は鏑木先輩に頭を下げた。
えっ?!
責任者は誰だ!とか言ってたから、鏑木先輩に文句でも言うのかって、ちょっと心配してたのに。
あの皇が、謝ってる……。
あんまりビックリして、オレ自身が謝るタイミングを逃してしまった。
「ああ、鎧鏡くん!すごく盛り上がったよ!ありがとう!」
「え?」
鏑木先輩は嬉しそうに皇の手を握って、ぶんぶん振った。
えっ?!どういうこと?
咄嗟に田頭を見ると、オレの視線に気がついたようで、ウインクしてきた。
……キモっ。
いやいや、どうなってんの?田頭がどうにかしてくれたってこと?
鏑木先輩の話を聞いていると、どうやら皇がオレを連れ出したのは、女装コンテストを盛り上げるためのサプライズ演出的扱いになっているらしい。
皇が鏑木先輩との話を終えて、本部から出て行ってから、オレはこっそり、どういうことなのか田頭に確認した。
「ばっつんとがいくんが本多先輩と揉めてる間にさ、ふっきーがこの場をうまいことごまかしてくれって言いに来たんだ。ばっつんも心配だったんだけど、ふっきーが二人なら大丈夫だって言ってたから、とにかく先輩たちへは、送別サプライズですって言っておいたから」
「あ……ごめん。携帯持ってなくて、連絡もしないで……」
「いや。何?がいくんと何かあったのか?」
「え……」
『何か』はあり放題だよ。
『何か』を全部ぶっちゃけて田頭に話せたら、どんなに気が楽かわからない。でもそれを話すってことは、鎧鏡家について話すってことで……。
それはやっぱりダメだよね。
オレが困って口をつぐむと、田頭はニッカリ笑った。
「話したくなったら、話してくれればいいよ。とりあえず大丈夫なんだろ?」
「あ……うん。全然、大丈夫」
「それならいいさ」
そう言って田頭は、オレの肩にポンっと手を置いた。
田頭ぁ!お前って、ほんっっっと、いいヤツな!
それからふっきー……また、助けられちゃった。
着替えて後片付けを終えると、夜の10時を過ぎていた。
後片付けをしている間、本多先輩は一度もオレと目を合わせようとしなかった。
「……」
でも、避けられてちょっと、ホッとしていた。
化粧を落としたら続きを……なんて言われていたし。お芝居ってことになってるみたいだけど、さっきあんなことがあったし……。
それに、二人きりになって……万が一またキス、とかされたら……もうホントにホントに、自分が許せなくなる。
今日で生徒会の引き継ぎは終わりだし、この先、三年生は受験のために、学校にはあまり来なくなるらしいから、本多先輩と直接顔を合わせるのは、もしかしたら、今日が最後になるかもしれない。
「お疲れ様でした!」
「お疲れ様でしたああ!!」
田頭と鏑木先輩が抱き合って、学祭と、新旧生徒会役員の引き継ぎが終わった。
本多先輩と顔を合わせないまま終わりたい気もしたけど、このままなのは、あんまりにも失礼だと思った。
だってすごくお世話になったのは本当だ。
きちんとお礼を言わないと、あとできっと後悔すると思った。
オレは生徒会室を出て行こうとしている本多先輩に、声を掛けた。
「本多先輩」
「……ん?」
「あの、今まで、ありがとうございました」
「……ああ。頑張れよ」
「はいっ!」
本多先輩は、最後までオレと目を合わせず、生徒会室を出て行った。
曲輪に帰って、夕飯を食べて部屋に戻ると、シロが窓辺をカリカリ引っ掻いていた。
え?もしかして……。
走ってカーテンを引くと、思った通りすぐそこに、皇が立っていた。
「皇……」
窓を開けると『何もしておらぬのに余がいるのがわかったのか?』と、笑った。
「シロが気付いたんだ」
皇はふっと笑うと、窓に前足をかけているシロの頭を『お前は利口者だな』と言いながら、ガシガシ撫でた。
「学祭は無事終わったか」
「え?うん」
それを心配して来てくれたのかな?
この前ふっと来た時も、オレの体調を心配して来たって言ってたし。
……案外、皇って心配性?
皇は『そうか』と言って手を伸ばすと、オレの頭もポンポンっと撫でた。
窓の下にいる皇は、オレより低い位置にいる。
皇を見下ろすとか……新鮮。
「ん?」
「シロとオレの扱い、同じなんだなって……」
「違うほうが良いか?」
皇はオレの肩をぐっと掴むと、下からオレにキスをした。
「っ?!」
冷たい唇。
いつからそこにいたんだろう?
オレを見上げる皇から、目を離せなかった。
「ん?」
きっとオレ、真っ赤だと思う。
体が、熱い。
「何もなかったなら、それで良い」
皇が、背中を向けて歩き出した。
───帰らないで───
そう思った時、ふとたまきちゃんの言葉を思い出した。
「皇!」
呼び止めたのはオレなのに、振り向かれたら、無言になってしまった。
だって……振り向いた皇が、すごく、何か、カッコ良く、見えたから。
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