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学祭騒動⑬

「何だ?」 すぐ真下に戻って来た皇がオレを見上げた。 うっ……照れる。 いや、照れてる場合じゃない! 聞きたいことがあるんだった。 「あ……たまきちゃんがさっき、みよしは私のものって、ふぐっ!」 話の途中で皇の手が、オレの口を覆った。 「誰かにその話をしたか?」 オレが頭を小さく何度か横に振ると、皇はオレの口から手をどかした。 「はぁ……え?どういうこと?」 「……そなたが誰かに聞き回るのも、時間の問題だな」 皇は大きくため息をつくと、オレに顔を近づけた。 えっ?!キス?! 身構えたのに、皇はオレの耳元に口を寄せた。 「梅は珠姫の許婚だ」 「……い?」 イイナズケ? ……許婚っ?! 「いいっんぐっ!」 オレの叫びは、また皇の手で押さえられた。 「大声を出すでない!」 「ふぐっ!」 苦しいっ! 「ああ、すまぬ」 「ふぁっ……って……え、ど……」 どういうこと? 何がど、え? オレがおたおたしていると、皇はまたオレをぐいっと引いて、耳元で囁くように話し始めた。 「梅は、珠姫の許婚なのだ」 「え……」 梅ちゃんはたまきちゃんの許嫁? 皇の、奥方候補……じゃ、なくて? 「あの……」 「聞かれてはならぬ。余の耳元で話せ」 「あ、うん」 オレは皇の耳元に口を寄せた。 「梅ちゃん、たまきちゃんと結婚するの?」 皇がまたため息をついて、オレの耳元で『ああ』と囁いた。 梅ちゃんがたまきちゃんと結婚する相手だと、サクヤヒメ様からご宣託があったのは、梅ちゃんが生まれる前だったと、相変わらず耳元で囁くように、皇がそう話してくれた。 そんな梅ちゃんがどうして皇の奥方候補になったのか聞いたら、皇の本当の奥方候補を守るためのフェイクに梅ちゃんがもってこいだったからだと答えた。 「もってこい?」 さっぱり話が見えない。 「梅は珠姫の旦那として、鎧鏡一族同様、生まれる前からサクヤヒメ様の加護を受けておる。さらに梅はああ見えて、腕っ節が強いのだ。余とて本気の梅には勝てぬかもしれぬ」 「ぅえっ?!」 あのかわいい梅ちゃんが? 「余の嫁候補はいつどこから狙われるかわからぬ。その点、梅なら誰に狙われようが案ずることはない。梅が余の嫁になると思われておれば、他の候補は狙われぬであろう。そう思い、候補とした」 そんな理由が……。 「梅については今まで通り、知らぬふりを致せ。良いな?家臣はみな、珠姫と梅はただの幼馴染と認知しておる。梅の側仕えたちすら、真の関係を知らぬゆえ」 「わかった。……あ、あのさ、梅ちゃんの側仕えさんたちは、どうなるの?」 「あ?どうなるとは?」 「奥方様になれない候補の側仕えさんたちは、解雇されるって、聞いたから」 「どこからの情報だ?……余がそのような薄情な真似をすると思うておるのか?」 「大丈夫って、こと?」 「当然であろう」 「はぁ……良かった」 オレが皇の嫁になれなくても、とりあえずうちの側仕えさんたちは、大丈夫ってことだ。 「何故そなたが喜ぶ」 「え……オレが奥方にならなくても、うちの側仕えさんたちも大丈夫なんだなって思って……」 「……」 皇は小さく息を吐いて、オレからふいっと離れた。 「そなたは……未だ余の嫁になる気はないのだな」 「え……」 皇は『もう遅い。早く寝ろ』と言うと、近くに繋いであった馬に乗った。 どういうこと? 戸惑う間に、皇の姿は見えなくなった。 シロが心配しているとでも言いたげに、オレの頬をべろりと舐めた。 「シロ……」 皇の気持ちが、わからない。 嫁になる気はないのだな、なんて……。 何だよ、それ。 そんな風に言われたら……皇は、オレを嫁にする気があるのかな、とか、思っちゃうじゃん。 期待しないようにしなくっちゃって、思ってるのに。 そんな風に言われたら……イヤでも期待しちゃうじゃん。 そうじゃなくたって、あの二の丸の塀で見た時から大本命だと思ってた梅ちゃんが、本当は候補じゃない、とか……内心、ものすごい、喜んじゃったっていうのに。 だけど、オレ以外の候補は、梅ちゃんだけじゃない。ふっきーも駒様も、誓様もいる。 冷静に考えれば、ふっきー……かな? ふっきーを知った時から、ふっきーが一番、皇の嫁に相応しいんじゃないかって、思ってた。さっきもオレのこと、助けてくれたし。ふっきーは、本当にいいやつで……ふっきーに勝てる要素なんか、何一つ思い浮かばない。 「はぁ……」 ハッキリ聞いてしまいたい。 誰を選ぶのか。 皇が嫁を決める二十歳の誕生日まで、こんな気持ちが続くの? 「あああっ!」 もうヤダ! 期待とかしちゃうからダメなのに!ほんの少しの希望で、ものすごく、期待しちゃったりして。 でも。 皇に選ばれるかもとか、少しでも期待するのが、どうかしてるじゃん。 だって、オレがもう少しでサクヤヒメ様を冒涜するところだったのは、ついさっきのことなのに。 「……」 そんなヤツ、誰よりも鎧鏡の殿様でいたい皇が……選ぶわけないじゃん。

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