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物的証拠①

11月8日 晴れ 今日は、11月になって初めて、皇の渡りが告げられた日です。   新嘗祭のあと、学祭の準備で忙しくしていたオレのところに、皇はずっと渡らずにいた。 学祭が終わって今日初めて、朝ご飯を食べている時に、皇が今夜渡ってくると、いちいさんから知らされた。 「朝からお渡りの伝達があるなんて、珍しいですね」 ご飯を食べながら、あげはがそう言ってニヤニヤしている。 「……そう、だね」 いつもは学校から帰ってきた頃とか、夕飯の時なんかに伝えられることが多い。 これから学校で皇と顔を合わせるっていうのに……。 ニヤニヤするあげはの視線が痛くて、朝ご飯があまり食べられなかった。 何だか物足りなかったけど、支度をして学校に向かった。 学祭の日の夜。 梓の丸まで来てくれた皇は、怒ったみたいにぷいっと帰ってしまったけど、次に学校で会った時には、普通に挨拶してくれた。 また怒らせたのかもしれないって心配してたけど、そうじゃなかったみたいで安心した。 多分、怒ってない……よね。皇の態度は、変わってないと思うから。 いや、変わってないって言うか。 よくよく思い返せば、席替えで皇と席が離れてから、オレは生徒会に入って忙しかったし、皇も決算時期とかで忙しそうで、学校で皇と話す機会は、そうそうなかったんだっけ。 あんまり接点がないんじゃ、態度が変わったかどうかもわからない気もする。 でも少なくとも……怒っては、いないよね? この前『おはよう』って言ったら『ああ』って言ってくれたし。 ただ、皇は変わっていないかもしれないけど、周りの皆の、オレたちを見る目は明らかに変わっていた。 女装コンテストの舞台で、皇がオレを連れ去ったのは余興だったってことになったはずなのに、皆の中では何故か、オレと皇とふっきーが、三角関係で揉めているという話になっているらしい。 で、さらに……。 「あ……」 学校について下駄箱を開けると、手紙が何通か入っていた。 学祭休み明けから、オレの朝の下駄箱はこんな状態が続いている。 下駄箱に手紙とか……漫画の世界みたい。 こんな風に何通も手紙が下駄箱に入るようになったのは、オレが原因だとサクラに言われた。 一番最初にもらった一通に、懇切丁寧に返事なんか書いたからだって。そんな対応をするから、どんどん増えていくんだよって。 だって手紙をもらったら、返事を書くのは当然じゃん。 「はぁ……」 「モテモテですなぁ、ばっつん」 後ろから急に声を掛けられて、心臓が一気にバクバクした。 「うわっ!田頭か。はぁ、ビックリした。おはよ」 「おはよ。また付き合ってくださいってか?」 田頭が手紙の一つをつまんだ。 「返せ。読んでないからわかんないけど、どうせ半分は嫌がらせだよ」 今までもらった手紙は『付き合ってください』っていう内容と『鎧鏡くんと別れろ』って内容が半々だった。 「ばっつんが女装で人気度アップしたのはわかるけど、がいくんまで大人気になるとはビックリしたな」 「……」 皇はもともと人気があったけど……人気に拍車をかけたのは、皇がオレを舞台から連れ出したあと、本多先輩を黙らせたなんていう話が、ものすごい勢いで広まったかららしい。 誰だよ!そういういらない情報流すヤツ! 皆にも、あれは余興だって説明したはずじゃなかったのかよ、田頭ー! 「で?ばっつんは本当にがいくんと付き合ってるのか?」 「え……付き合っては……」 ……いない?付き合ってるとは、言わない、よね。皇との関係はさ。 「じゃあ、やっぱりがいくんはふっきーと付き合ってるのか?」 「……さぁ。本人に聞けば?」 それはオレだって知りたいよ。 本人に確認取れたら、オレにも教えて、田頭。 「がいくんに?聞けるかっての!あ、生徒会室に行かんといけないんだった。俺、先行くわ。あとでな、ばっつん」 「うん」 下駄箱の手紙をカバンに入れていると、一通ひらりと床に落ちていった。 拾おうとすると、先に手紙を拾ってくれた人がいた。 「あ……」 皇だ。 「おはよう」 「……ああ」 やっぱり、怒って……ないよね? 皇は宛名と差出人を見ると、おもむろに手紙を開け始めた。 「ちょっ!何すんだよ!」 「そなたは余のもの。そなたへの手紙も、余のものだ」 「ジャイアンか!お前は!」 「ジャイアン?」 「……」 若様はジャイアンを知らないんですかー。 そんなことをしている間に、皇は手紙を読んでいた。 「ちょっ!ホントお前、それは人としてどうかと思うぞ!」 「付き合ってください、だそうだ。……どう致す?」 どうする?って……付き合いたかったら、付き合っちゃっていいわけ? 皇はオレが手紙を受け取るまで、ずっと目を逸らさず、オレを見ていた。 お前が睨むと、相当怖いって知ってる? もしオレが、その人と付き合うって言ったら……皇、どうするんだろう? 何も言わないオレを見て、皇が盛大にため息をついて手を出した。 「なに?その手」 「全て出せ」 「は?」 「手紙だ。全て出せ」 はい?

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