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物的証拠②
昇降口でそんなことをしていると、みんなの邪魔になる。下駄箱から離れたところに皇を引っ張って行って、言われるまま、手紙を全部、皇に渡した。
「そなたがこのように手紙をもらうのは、隙だらけだからだ。候補としての自覚が足りぬ」
「隙って……だって別に、オレが手紙をくれとか言ってるわけじゃないじゃん」
「うつけが。付き合ってくださいなどという手紙をもらうということは、そなたが誰のものでもないと思われているということだ」
「は?」
「そなたに……その気がなかろうが、そなたが候補である限りは、余のもの。そなたにはその自覚が足りぬ」
オレにその気がなくても、皇のもの?
……そんな事を言っても、いずれお前は、違う誰かを選ぶくせに。
「お前……犬とか平気で捨てられる人?」
「あ?」
オレも梅ちゃんと同じなんだろ?奥方候補の中にいる、未来のお前の嫁が狙われないよう、目くらましのために選ばれたフェイクの候補なんだろ?
お前は二十歳の誕生日、候補の中から一人を選ぶ。
選ばれなかった候補は、そのあとどうしろって言うんだよ。
「あれだけいる候補の中から、お前は最終的に一人だけを選ぶんだろ?……選ばれない候補は皆、家に返されるんだろ?お前に捨てられるってことじゃん」
自分の言葉に、自分で傷付いた。
『捨てられる』なんて、酷い言葉だって思うのに、皇を責めるのを止められない。
「捨てるってわかってて、どうしてオレのものとか言えるんだよ」
梅ちゃんみたいに、最初からフェイクだってわかってるなら、傷付かないで済むだろうけど、お前のこと、好きになっちゃった候補は、お前に手放される時どうしたらいいんだよ!
「……お前、誰を選ぶの?」
教えてよ、今!
今オレを選ばないって言ってくれたら、お前の二十歳の誕生日までに、少しでもお前のこと、諦められるかもしれない。
そしたら、他の候補様たちみたいに、候補同士仲良くして、お前がオレじゃない誰かを選んでも『良かったね』って、笑えるくらいになれるかもしれない。
「それは聞いてはならぬと言うたであろう」
皇の答えは、思っていた通りのものだ。
オレはまた、期待と落胆を繰り返していくしかないの?選ぶ気がないなら、期待させるようなこと言うなよ!
もうこれ以上、期待して喜んで……落ち込むのはイヤだ。
お前は、どれだけ残酷なことを言ってるか、わかってないの?
「いずれ捨てなきゃいけないのがわかってるもの、自分のものにするか?普通」
「……」
ひどい言葉を投げたのに、皇は相変わらず無表情だった。
それが、余計オレをイライラさせた。
「実家で奥方教育を受けた人は、それが普通だって思ってるのかもしれないけど……オレは、捨てられるのがわかってて、お前のものになんかならない!」
そう言い捨てて、皇の顔も見ずに、一気に階段を駆け上った。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
結局、同じ教室に入るんだけど……今は、皇の顔を見ていたくない。
梅ちゃんがフェイクだって知ったあと、すごく……喜んだんだ。
だけどそのあと、喜ぶ自分が惨めになった。
梅ちゃんが一人減ったところで、皇がオレを選ぶわけないじゃん。何喜んでるんだよって……。
梅ちゃんはいいよね。最初からフェイクだってわかってるから、皇を好きになんかなるわけない。
皇を好きにならなきゃ、捨てられるなんて感覚、持たずに済んだのに。
フェイクならフェイクって教えてよ!そしたら皇のことなんか……好きにならなかったのに。
だって皇なんて!横柄で、横暴で、自分勝手で、一般常識からズレてて、変な喋り方だし、自分のことも自分で出来ないこと、いっぱいあるし、感情はわかりづらいし……見た目はカッコイイかもしれないけど、変なところで心配性で、細かいところまでうるさいし……それから、それから……皇のイヤなところなんか、山ほど言えるんだ!
なのに。
どうして、こんなに好きなんだよ……。
どこがそんなにいいの?あんなヤツ!人の手紙とか普通に読んでるし!ジャイアンも知らないなんて、話が合うわけ……。
「……」
皇がオレのところに渡って来た時、一緒にゲームとか勉強をしながら、鎧鏡家のこととか、自分たちの小さい頃のこと、うちの側仕えさんたちのこと、母様のこと……色んな話をした。
育った環境は違うと思うけど、皇と過ごしていて、話が合わなくてつまらないなんて、思ったこと、なかった。
皇のどこが好きかなんて、わからない。
だけど、いつの間にか……知らんぷり出来ないくらい、好きになってた。
皇と離れなきゃいけないって時、オレ、どうなるんだろう。
鎧鏡家に来たばかりの頃のまま、皇と結婚なんて絶対考えられない!なんて思っていられたら、喜んで実家に帰れたのに。
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