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物的証拠⑤

✳✳✳✳✳✳✳ ふわっと体が浮く感覚で目が覚めた。 ぼんやり目を開くと、皇の顔がすぐ近くに見えた。 え?何?オレ、皇に抱き上げられてる? オレ……声を殺しながら泣き続けて……そのまま疲れて、寝ちゃってた? でも、どうして?皇、オレのこと無視してたじゃん! どうしたらいいのかわからなくて、気づかれないようにまた目を閉じた。   「……」 皇がオレをそっとベッドにおろして、オレから離れたのがわかった。 薄く目を開くと、部屋の隅のほうに歩いて行く皇の背中が見えた。 どこ行くの? そう思っていると、皇は部屋の隅の棚に置かれた冷蔵庫に手を伸ばした。 えっ?! 皇からもらったプレートしか入っていないのに!何する気だよ?! プレート……どうする気だよ。 ドキドキしながら見ていると、皇は冷蔵庫から、銀色の箱を取り出した。 「……」 割ったりとか、しないよね? 皇は箱を開けてしばらく見つめると、そのままそっと蓋を閉めた。 ……何、してるの? そのあと、皇の背中に隠れてしまって、何をしているのか見えなかったけど……銀色の箱を持っている皇が、背中を少し丸めたのがわかった。 「……」 抱きしめてる? そう、思った。 多分、オレの、プレートが入った銀色の箱を……皇、抱きしめてる。 どうして? 皇の行動の意味がわからない。 だけど……わからないけど……泣けてきて……。 声が漏れてしまいそうになって、歯をくいしばった。 皇はしばらく抱きしめていた箱を冷蔵庫に戻すと、冷蔵庫のすぐ隣に置いてある帯飾りが入っている箱を開けて、帯飾りをそっと撫でた。 皇が何でそんなことをしてるのかわからない。だけど今すぐ飛び起きて、皇に抱きつきたかった。 だけど……お前のものにならないなんて言ったオレが、そんなことしても、いいの? 行きたいのに……怖くて動けない。 心臓の音がうるさいくらい、ドキドキ鳴ってる。 目を開けられないままでいると、こちらに歩いて来た皇が、ベッドの脇に立って、オレの頬をそっと撫でた。 「……起きたのか?……何故泣く?」 「ど、して……」 優しい声に、涙がどんどん溢れた。 「ん?」 「……」 いいの?オレ……お前にまだ、優しくしてもらえるの? もうオレ、止まんないよ。 我慢出来ない。 皇の首にしがみついた。 あったかい皇の体温に、無性に安心して、また泣けた。 『ごめん』って伝えるのが、精一杯だった。 謝ってもいいでしょう? 傷付いてないなんて言わないでよ。 「そなたは……いつも余を惑わせる」 「っ……」 「もう……今日にでも、そなたを柴牧家殿にお返しせねばならぬと思うた」 「えっ?!」 「そなたは鎧鏡を知らず育った。どんなに時間をかけても、そなたが余を受け入れられぬなら……早いうちに手放さねばならぬと、思うた」 皇の腕が、強くオレを抱きしめた。 「だが、あれを思い出した」 「え?」 皇の視線の先に、冷蔵庫があった。 「そなたは、いつも生意気なことばかり申す。余のことなぞどうとも思うておらぬような口ぶりで……。だが御台殿はいつもおっしゃった。頭は嘘をつくが、体は嘘をつかぬ。言葉は嘘をつくが、行動は嘘をつけぬと」 母様はオレにも『頭は嘘をつくけど体は嘘をつけない』って言ってた。 「そなたの思いは、あそこにある」 皇は冷蔵庫のほうを見ると、オレの顔を上げさせて、ほんの少し触れるだけのキスをした。 「す、めらぎ……」 「そなたが誠、余のものになる気がないのであれば……余が贈ったあのプレートを、捨てよ。そなたがそうせぬうちは……柴牧家殿には返さぬ」 「……」 「……返せぬ」 小さく耳元で呟いて、皇はきつくオレを抱きしめた。 もう……頭の中が、ぐちゃぐちゃだ。 ぐちゃぐちゃで……。 皇が大好きってことしか、考えられない。 「ひどいこと、言って、ごめん」 「……許さぬ」 「怒った?」 「……不安、だった」 そう言った皇を、オレは強く抱きしめた。 この殿様な皇が、不安、だったなんて……。 「……ごめん」 「許さぬ」 皇の手が、オレの頬に添えられた。キス、される前に……オレから、した。 「……ごめん」 「此度ばかりは許さぬ」 皇の唇が、そっと重なった。 「ごめんなさい」 「許さぬ」 小さな音をたてて、何度か唇が重なった。 「……ごめんってば」 「許さぬ!」 皇の首にぎゅっとしがみつくと、そのままベッドに押し倒された。 皇の瞳を覗く間もなく、皇の唇がオレの口をしっかり塞いで……何も、言えなくなった。 「んっ、う……」 「……青葉……」 「っ!」 名前……。 「青葉……」  

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