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物的証拠⑥

『青葉』と呼ぶ皇の唇は、何度もオレの唇と重なった。 力の抜けた唇を割って、舌が口内に入ってくるのを、オレは待っていたように迎え入れた。 唾液の混ざる音に、体が熱くなって……皇の髪に差し込んだ指に、ねだるように力を込めた。 『許さぬ』なんて言ったけど、皇はもう怒ってないんでしょう? だって、恥ずかしいくらい、皇の唇は、優しくオレに触れてくる。 これで怒ってるって言うなら……もうずっと、怒っててよ……。 ふっと放された唇が寂しくて目を開くと、また泣きそうな顔でオレを見ている皇と目が合った。 「何故いつも……泣きそうな顔をする?余を、疎ましく思うておるのか」 「違っ……いつも泣きそうな顔してるの、皇のほうだよ」 だからオレも泣きたくなって……。 「あ?戯言を……余が泣くことなどない」 「ホントだもん」 「……黙れ」 目尻にキスされて目を閉じた。 皇の唇が、そのまま耳元にキスを落とす。 小さい吐息が耳に当たって、体がビクリと揺れた。 「怖いか?」 違う。でも。皇のキス……今までと……違う。 何度も首筋にキスされて、ドキドキがひどくなっていく。息が苦しくて口を開いた時、皇に耳を舐められた。 「んあっ!」 自分でもビックリするような声が出て、咄嗟に手で口を塞いだ。 「……怖いか?」 ちが、う? でも……この先……どうなるの? 「……こわ、い」 怖いっていうか……あんな声を出した自分がものすごく……恥ずかしい。 でも、恥ずかしいって言えなくて……怖いって言っちゃった。 皇にキスされただけで、あんな声、出して……もう、だってオレ……。 た……。 勃っちゃっ……てて……。 首筋にキスされるたび、ビクビク……反応してる。 「……」 皇はオレの頭を撫でると、軽いキスをして抱きしめた。 皇に勃っているのがバレないように腰を引いて、それでも、皇の背中に、腕を回した。 だって、離れたくない。 キスだけでこんなことになってて、そんなの皇に気付かれたらどうしようって思うのに、離れたくない。 これ以上されたらオレ……どうなっちゃうの? 「急がぬと、誓った」 そう言って皇は、オレのおでこにキスをした。 オレの髪をサラリと撫でると、急に何か思い出したように、顔をしかめてオレを睨んだ。 そんな顔も……すごく……カッコ良くて、ドキドキする。 「手紙の、ことだが」 「え?」 「受け取るだけなら、そなたの意思ではどうにもならぬとして許しても良い。……だが、そこまでだ」 皇の強い眼差しが、オレに反論を許さない。 「余以外に……触れさせてはならぬ」 「え?」 「この髪……一房たりとも……」 皇が、そっとオレの髪を手に乗せて、キスをした。 『触れさせてはならぬ』という言葉に、本多先輩とのキスが頭に浮かんだ。急に罪悪感に包まれて、気持ちが重くなっていく。 全て話したら……許してくれる? だってオレは……本多先輩にキスされた時だって、ずっと、皇のことを考えていたんだよ? 「……皇」 「ん?」 見上げると、射抜かれそうだと思った皇の瞳が、あんまりにも優しくなっていて、何も言えなくなってしまった。 皇が言った『不安だった』って言葉を思い出して、罪悪感とは違う痛みが、胸を襲った。 不安になってくれたなんて……。 皇を苦しめたいなんて、思ってない。 思ってないよ。だけど……どうしよう。 オレのせいで不安になったなんて皇の言葉に、胸が痛いくらい……嬉しくなってる。 「皇……」 また急に、ものすごく……皇が『好き』って気持ちが湧いてきて……皇の胸に顔を埋めた。 「どう致した?」 何も言えず、皇の胸の中で首を振ると『誰にも触れさせてはならぬぞ』と、頭にキスされた。 「ん」 「そなたもたまには素直に返事をするのだな」 オレを抱きしめている皇の腕が、更にオレを抱き寄せた。 オレだって……皇以外になんて……触られたくない。 「こうするのは……少しは、慣れたか?」 皇の指が、オレの唇を軽くなぞって、開かせる。 合わさった唇から舌が伸びてきて、しばらく口内で、オレの舌を弄んだ。皇と自分の吐息が熱い。 オレの顔を包んでいる皇の手の甲に指を伸ばすと、あまりに滑らかで……ドキドキした。 去ろうとする舌を追って伸ばした舌を、軽く吸い込まれて、またオレの中心が、ビクリと揺れた。 「少しずつ……慣れよ」 皇は、オレのシャツの衿をぐっと開くと、鎖骨に顔を埋めた。 「んっ!」 チクリとする痛みにそちらを見ると、皇の長い指が、オレの鎖骨を撫でていた。 「余も……少しずつ、知れれば良い」 「……」 「他の誰にも……そのような顔を見せてはならぬ」 また泣きそうな顔をした皇が、優しくオレの下唇を噛んだ。

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