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物的証拠⑦
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「雨花様」
「……」
「雨花様?」
「……」
「雨花様!」
「うわあっ!な、な、なにっ?!」
どこか遠くでオレの名前を呼んでるなぁ……と思っていたら、目の前であげはが首を傾げてこちらを見ていた。
あ。朝ご飯の時間だったんだっけ。
ぼうっとしたまま席について、箸も持たずにご飯を見つめてしまっていた。
「雨花様、寝不足ですか?」
あげはがニヤニヤしている。
「え……う?」
うんともううんとも言えない返事を返した。
寝不足ですかって……間違いなく寝不足ですけど。
そんなことを言ったらまた、あげはに変なことを言われそうだし。
「若様って、雨花様が寝不足になるくらいすごいんですか?」
あげはが声を潜めて聞いてきた。
「なっっっ?!」
なんてことを!あげは!!
「すご、すごいって……なに言ってんのっ!」
オレがワタワタすると、あげはは難しい顔をして、更に声を潜めた。
「若様のいびきがひどいらしいって本当なんですか?だから若様は、人前では絶対に寝ないって。そんなすごいんですか?」
「いびき?!……う、うん!ひどい!ホントひどくて眠れない!」
「うわぁ。あんなカッコイイのに、いびきがひどいとか……」
あげははものすごく嫌そうな顔をした。
いや、皇、いびきなんてかかないけど。
そういうことにしておかないと、これ以上掘り下げられても、返事に困る。
「あれ?」
あげはが急にオレの首元に視線を落として、また首を傾げた。
「え?何?」
「どうしたんですか?そこ。赤くなってますよ?」
あげはがオレの首元を指差した。
「え?」
「こら、あげは!」
後ろでふたみさんと一緒に、朝ご飯を見守ってくれていたさんみさんが、あげはを咎めるように声を掛けた。
「そういうことは、聞かなくていいんです」
「え?何でですか?何かご病気だったらって、心配でお伺いしただけなのに」
首元が赤く……?
「っ?!」
オレは夕べのことを思い出して、急いでシャツのボタンを一番上まできっちり留めた。
夕べ、散々……皇にキスされた。
思い出すと、また勃ちそうになる。
ダメ!ダメ!
ち、違うことを考えないと!
でもそう思えば思うほど、皇の唇を思い出す。
首元の赤いのって……皇が、強く……吸ったから?
キッ!キスマークってやつ?!
うおおおおおお!
首元なんて自分で見れないよ!
顔を洗うのもぼうっとしてて、そんな……キスマークが残ってるなんて、気付かなかった。
それをあげはに指摘されて、さんみさんに止めてもらうとか……。
少なくともそこに立ってるふたみさんとさんみさんには、キスマークだってバレてるってこと?
ああ、もう部屋に帰りたい。
っていうか、今日は学校が休みだからいいけど、月曜日まで残ってたら、体育とかどうすんの?!キスマークっていつ消えるの?!
うおおっ!
「大丈夫なんですか?雨花様?」
心配顔のあげはに、何て言ったらいいんだよー!
「あ、うん!大丈夫!……ダニ?ダニかも」
「えっ?ダニ?……ダニって何ですか?」
「……」
うん、そっか。こんな小さいうちから、曲輪勤めなんてしてるあげはは、ダニなんか知らなくても仕方ないよね。あう。
「雨花様、お早くお召し上がりいただきませんと、冷めますので」
ふたみさんが笑いながら声を掛けてくれて、助かった。
「あ!はい!いただきます!」
「ええっ、ダニって何ですか?」
「あげは、ダニは自分でお調べなさい」
「……はぁい」
さんみさんにそう言われて、口を尖らせたあげはがご飯を食べ始めた。
「……」
首元が……熱い。
皇に、何度もキスされた昨夜の記憶が……蘇ってくる。
抱きしめられた腕の中で、勃ち上がっていくそれを、皇に知られまいと必死だった。誤魔化そうと体を捩ったせいで、ずり上がったシャツの中に、皇の手が入った。
つうっと、肌をなぞって這い上がった指が、左胸の中心で、オレの乳首に当たって動きを止めた。
「んんっ!」
一気に勃ち上がったものを隠すように、皇に背を向けて体を丸めると、皇はそっと、後ろからオレを抱きしめた。
うしろから回された皇の腕におずおずと触れると、皇はオレの頭にキスをして、『少しずつで良いゆえ……そなたを知りたい』と、囁いた。
そのまま……皇はそれ以上何もしないで、朝まで、オレをうしろから抱きしめたまま、だった。
オレは一睡も出来なくて……頭の上で、いつの間にかすうすう言い始めた皇の寝息を、一晩中聞いていた。
何であいつ、あんな状態で寝られるんだよ。
「……」
もう!
思い出しちゃったじゃん。
皇に触られた、左胸が……疼いて……。
「あ、あの!ごちそうさま!」
オレは逃げるようにダイニングを出て、急いでトイレに駆け込んだ。
「……んっ」
皇……。
「す、め……はぁっ……」
ほんの少しの刺激で、手の中に放たれた……白い、粘液。
「はぁ……」
初めて……皇の手を想像しながら……シて、しまった。
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