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物的証拠⑧

軽い自己嫌悪に陥りながらベッドに寝そべると、昨日のことをまた思い出してしまった。 時間をかけるって……言ってくれた。 オレのこと……実家に返さないって。 「はぁ……」 オレの言葉で、不安になったって。 誰にも、触らせるなって。 「はぁ……」 何でオレ、あんなにぐちゃぐちゃ悩んでたんだろう。 「……」 ベッドから急いで降りて、冷蔵庫を開けた。 『あなたの存在に感謝する』と書いてあるこのプレートを見ると、いつでもすごく……嬉しい気持ちで、胸が満たされる。 オレに今わかるのは……自分の気持ちだけ。 気持ちすら、不安でわからなくなりそうだったけど……。 皇への気持ちは、このプレートが証明してくれてる。 ……皇が、好き……だよ。 オレ……ホントに単純だ。皇に優しくされただけで、不安が飛んだ。 はっきりした証拠が欲しいなんて思うくらい不安だったのに、夕べの皇を思い出すだけで、そんなのもう、気にしないでいられる。 皇の背中のあったかさとか……すっぽり包んでくれる胸の広さとか……オレに優しく触れる大きな手とか……痛いくらい求めてくる唇、とか……。 行動は、嘘をつけないんだよね? ……だったら。 きっと皇は、オレを大切に……思ってくれてる。……きっと。 だって、ホントにもう、思い出すと恥ずかしさで消えたくなるくらい……皇のキスは……優しかった。 「うっ……」 思い出すと、また勃ちそう。 皇が誰を選ぶのかは、やっぱりわからないけど……少なくとも、絶対オレは選ばれない!とか、言い切らなくても、いい? 柴牧の母様は、わからないことを悩んでも無駄!って、よく言ってた。やってみなくちゃわからないって。 オレ、皇に選ばれるために、頑張っても、いい? お昼ごはんを食べたあと、この前断ってしまったネットゲームをカニちゃんと一緒にやっていると、部屋のドアをノックされた。 「はーい!」 「あげはです。入っていいですか?」 「いいよ」 『旅の仲間』のカニちゃんに『ちょっと離脱』と伝言して、パソコン画面からドアに目を向けた。 「雨花様、失礼しまぁす」 「どうしたの?」 時計を見ると、もう少しで三時になろうとしているところだった。 「新嘗祭の時の写真をいただいたんです」 「へぇ」 そう言えば、家臣さんたちから送られてきた手紙にも、何枚か写真が入っていたっけ。 『これが雨花様が写っているものです』と、あげはが写真を何枚か渡してくれた。 「側仕えの中では、一位様が一番人気みたいですね」 「え?」 あげはの話では、家臣さんたちの間で奥方候補の側仕えは、雲の上の存在なんだそうだ。 候補はなんだかんだいって、行事ごとに家臣さんたちの前に出てくるけど、側仕えさんたちは、候補の初行事参加の時の練り歩きくらいしか、表立って出ることがないので、練り歩きは、側仕えさんたち見たさに来る家臣さんたちもたくさんいるんだそうだ。 そんな側仕えさんたちの写真が、一枚何円とかで売られているって噂があるらしい。 「去年の練り歩きからだいぶ間があいたので、家臣は皆楽しみだったようですよ。しかも、前評判が残念な梓の丸の側仕えですからね。どんな輩が揃ってるのかって、興味深々だったみたいで」 そう言ってあげはがふふっと笑った。 「前評判が残念って……」 「ごめんなさい。あははっ。でもそんなんだから、余計皆ビックリしたみたいですよ」 「え?」 「梓の丸の使用人たちが、あんまりにもカッコいいって、見ていた方たち、驚いたようです。柴牧家様からいただいた黒い袴姿、ビシッと揃ってて、皆さん本当にカッコ良かったです!」 「あげはも一緒に出られたら良かったね」 あの時二人は、一緒に練り歩くのを許されなかった。まだ元服していない二人が、人の気に当たるのは危険だと、母様に止められたと聞いている。 「本当ですよ!僕もあの黒い袴集団の仲間でいたかったなぁ。すっごくカッコ良かったもん。あーあ。雨花様の練り歩きなんて、あとはご成婚の時くらいしかないんじゃないですか?」 「ご成婚の時?……じゃあ、もう二度とないかもしれないね」 「え?何言ってるんですか?雨花様が今、奥方候補ナンバーワンなのに!」 「え?」 「皆が、雨花様こそが最遠の方様だろうって言ってますよ?」 「え?」 最遠の方様って……悪口……だよね?たまきちゃんが、そう言ってたよ?

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