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予感④

はーちゃんとは、ネットでたまにやり取りしてるから、すごく会ってないって感じはしないけど。 一昨日も『happy new year』って、彼氏ときゃいきゃいしている動画が、送られてきたばかりだ。 はーちゃんに帰ってきてもらわないとって母様は言ってたけど……はーちゃんの今の彼氏、イングランドの人だったよね?確か。 オレが万が一、皇の嫁になれたとして、姉上、日本に帰ってこられるのかな? あ、そういえばすっかり忘れていたけど、二月の修学旅行がパリに決まったってはーちゃんに言ったら、宿泊先まで会いに行くって言ってたっけ。ロンドンから三時間くらいで行けるからって……。 その時、はーちゃんに皇のこと、紹介出来るかな。はーちゃんに、皇のこと、紹介したいんだけどな。 「あっくん、午後は何か用事はあるの?」 「え?別に何の用もないけど」 「じゃあ、ご飯を食べたらママのお手伝いして。今日の夜、親戚の人たちがたくさん集まってくれるって言うから、お料理仕込まないと」 「うん、わかった」 午後はみっちり母様の手伝いをさせられて、夕方からは、集まってきた親戚の人たちの相手をするように言われていた。 だけど、親戚の人たちが集まってくるかなってあたりから、何だか、寒くて寒くて仕方なくて……。 母様にそう伝えると、母様はすぐにおでこに手を当てた。 『やだ!あっくん!熱があるわよ!』と驚いた母様に、すぐに部屋で寝るように言われた。 体温を計ると、38度5分もある。 うわぁ、完全に発熱! 「風邪かしら?」 「お正月、ずっと寒いところにいたからかも」 「ああ、新年の挨拶な」 「うん」 三が日、ずっと座っていたところ、結構寒かったんだよね。 父上も挨拶に来てくれたけど、恥ずかしくてろくに話も出来なかったのを思い出して、ちょっと気まずく思った。 「もう寝なさい。お薬飲んでおく?」 「うん」 風邪薬を飲んでそのまま寝た。明日までに、何とか熱を下げないと帰れない。 翌朝、昼前からまた熱が上がってしまい、仕方なくいちいさんに電話で事情を話すと、新年会には出なくても大丈夫なので、そのまま実家で寝てくださいと言われた。 父上に連れて行ってもらった病院で、普通の風邪だと診断された。 熱も高めだし、もしかしたらインフルエンザ?と疑ってたけど、違ってた。 普通の風邪だったら、新年会に出ても大丈夫だったかもしれないけど、もう出ないって言っちゃったし……。 ……皇に、会いたかったな。 「はぁ……」 「辛いのか?」 「ううん、大丈夫」 「そうか。だけどね、青葉」 「はい?」 「私は少し、喜んでいるんだ」 「え?」 運転している父上を見ると、ちょっと笑っていた。 「それだけ、青葉がうちに長くいるってことだからね」 「父上……」 「久しぶりに、そう呼ばれたな」 「え、だって父上がそうするように言ったんじゃないですか」 父上は『そうだった』と、笑った。 「あちらでも、青葉は大切にされているようで、安心しているよ」 「……はい」 泣きそうになったのを、グッとこらえた。 オレは確かに、あそこで大事にされてます!父上! 「そうだ。先日、お毒見役を交代したんだが……それが許されるのであれば、次の私のお毒見役番の時も、青葉に私の代わりをさせてもらいたいと、若様に申し出てある」 「え?!」 「お前の立場上、私が頂いている特権をそのように使うのは、卑怯かもしれないと思う」 そこで父上が、ちいさく息を吐いた。 「卑怯だろうが、お前に若様との時間を譲れるなら、そうしてやりたいと思ってね」 「父上……」 「新嘗祭後、お前の人気が上がっていると耳にする機会が増えてね」 「あ!あの時父上が、うちの側仕えさんたちに袴を揃えてくれたんですよね?ありがとうございました」 「ああ、若様より頂いた支度金があったからね」 「あ……」 そうだった!すっかり忘れてたけど、オレが候補に決まった日、六千万円の小切手を、父上は受け取ったんだった! あの時、オレは親に売られたんだって、ガックリきたけど、あのお金で、側仕えさんたちに袴を作ってくれたの?! すごく品がいいから、結構値段もはっただろうって、とおみさんが言ってたのを聞いて、ちょっと心配してたんだ。 父上にお金を使わせちゃったって。 そっか。 あの袴、皇からもらった支度金で、作ってくれていたんだ……。 「今は、お前が奥方様になる可能性が高いと言われているようだが」 「え?」 「今年の四月には、また展示会が開かれる。来年の四月もだ。若様が二十歳の誕生日を迎えるその日まで、いくら周りにおだてられようが、お前が奥方様に決まったとは言い切れない。そう思うと、少しでも長くお前に、若様との時間を持たせてやりたいと思ってね」 四月に……また展示会がある? そんなこと、考えもしなかった。 これ以上、候補は増えないと思いこんでた。だってもう5人もいるのに……。 「展示会って、毎年やるんですか?」 「若様の19歳の誕生日まではあると聞いているよ」 皇が奥方様を決める二十歳まで、まだあと二回誕生日が来る。 新しい候補が、あと二人増えるってこと? 去年はオレ一人だったけど、一昨年は四人入ってる。 じゃあ今年だって、一人だけじゃないかもしれない。 皇が二十歳の誕生日までに、二人どころか、もっと、候補が増えるのかもしれない。

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