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予感⑤
4月……また、展示会がある?
ドキドキが熱のせいなのか、心配のせいなのか、わからない。
オレは皇が好きなんだから、皇が誰を選ぶとか、そんなのその時考えればいいじゃん!って、吹っ切ったつもりでも、ちょっとしたことで、ふっきーを選ぶんじゃないかとか、本当は駒様が好きなのかもしれないとか……未だに気持ちはグラグラする。
また新しい候補が入って来て……その人のことを大事にする皇を、見る日が来るとしたら……。
「……」
ダメだ。
考えると、落ち込んじゃう。
薬を飲んで寝ていると、夜には随分体が楽になった。
これなら明日には、鎧鏡家に帰れるかもしれない。
今頃、まだ新年会は続いてるのかな?新年会のために出掛けて行った父上は、まだ帰って来ていない。
8日には生徒会の仕事始めがあって、生徒会役員の新年会が開かれることになっている。
仕事始めには行かないと……オレがいないと、金庫が開かない。
具合が悪ければ、金庫の鍵だけ渡して、帰って来てもいいけど。
皇は、明日から仕事が入ってるのかな?
次はいつ、皇に会えるだろう?
学校の始業式が10日だから、もしかしたらそれまで、会えないかもしれない。
風邪なんてひかなきゃ、今日会えたのに。
ガックリしていると、ベッドの脇に置いてあった携帯電話が震えた。
画面を見ると、登録されていない番号が表示されている。
「……もしもし?」
いつもは、登録されていない番号の電話に出ることなんてない。
だけど、なんでかわからないけど……なんとなく"予感"が、あったのかもしれない。
『雨花』
初めて……電話越しの声を聞いた。
初めて聞いたけど、電話の相手は皇だって、すぐにわかった。
皇しかいないもん。オレを『雨花』って、呼び捨てにする人。
「皇?」
『体はどうだ?』
オレの問いかけには答えず、皇は質問で返した。
「病院でもらった薬を飲んだら、楽になった」
『明日には戻れるか?』
「んー、多分。でも遅くても明後日には戻らないと」
『ああ、生徒会の新年会だったな』
「うん」
学祭のあと、一ヶ月ごとの生徒会の予定表を、皇に渡すことになった。
そこに新年会の予定も書いておいたから、皇が知っててもおかしくないんだけど……ちゃんと見てくれてるんだって、ちょっと、嬉しくなった。
『明日……』
「うん?」
『帰って参れ』
「は?え?だってわかんないよ。また熱が出たら……」
『帰って参れ。明日なら時間が取れる』
「え?」
『よいな?』
「ちょっ!」
そのまま電話は切れた。
マジですか?こんな一方的に電話を切られたの初めてなんだけど!あいつ、いっつもこんな風なの?殿様気質もたいがいにしろ!
っていうか、なんだったの?今の電話……。
「……」
意味わかんない。
……けど。
心配して、かけてきて、くれたんだよね?
あいつ、殿様気質のわりに、すぐ心配するんだから。
一方的に電話を切られるのはいい気持ちはしないけど……そこがまた皇っぽいっていうか……。
そう思うと、何か笑える。
『明日帰って参れ』なんて……オレの帰る場所は今、鎧鏡家、なんだ。誕生日の時も、皇はそう言ってくれた。
「……寝よ」
『若様』の命令だもん。明日には絶対帰らなくちゃ!
そういえば、時間が取れるって言ってたけど、何だろ?
明日、オレのところに……渡るって、こと?
そんな風に考えて、胸がいっぱいになった。
何、期待してんの?オレ。恥ずっ!
「あっくん!あっくーん!」
「ん……」
階段の下から、大きな声でオレを呼んでいる母様の声で目が覚めた。
まだ眠い目を、ようやく片目だけ開いて時計を見ると、まだ6時にもなっていない。
オレが返事をしないからか、母様は更に大きな声を張り上げた。
「あっくん!起きて!早くっ!」
「もー、病み上がりだっていうのに……」
頭を掻きながらブツブツ呟いていると、母様が階段を上ってくる足音が近付いてきた。
何なの?こんな朝早くから……。
バンっ!と扉が開かれたと思ったら、母様は『いつまで寝てるの!』と、何だかお怒りのご様子で……。
「いつまでって……まだ6時……」
「ママだってまだって感じだけど!早く!」
「は?」
「もうその格好のままでいいから!」
ヨレヨレのパジャマのオレをグイグイ引っ張って立たせると、母様は一階に降りるよう背中を押した。
「なんなんですか?」
「早く!リビング!」
「え?」
母様が何を焦っているのかわからない。
とにかくリビングに行けってことなんだろうけど……。
あくびをしながらリビングのドアを開けると、うちのソファに、腕を組んでドッカリ座り込んでいる皇がいた。
「……はっ?!」
え?!何してんの?!
ソファの隣の床の上で、父上が正座をしている姿も目に入ってきた。
え?なにこれ?
皇、いつの間に上がり込んでたの?
「帰るぞ」
オレを見るなり、皇がオレの手首を掴んだ。
「はいぃ?」
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