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起………①

1月8日 曇り 今日は、生徒会役員の新年会です。 今日は生徒会の仕事始めのあと、田頭が主催する生徒会役員の新年会がある。 「いってらっしゃいませ、雨花様」 玄関で家臣さんたちに見送られて、車に乗り込んだ。 昨日一日シロと一緒にゆっくり寝ていたからか、体調はもう万全だ。 まだ新学期が始まっていないということで、今日は制服ではなく、新年会らしい私服で来るようにと、田頭から言われていた。 新年会らしい服ってどんなん? 全くピンとこないので、とおみさんに田頭から言われたままを伝えると、ものすごく張り切って、今日着ていく服をコーディネートしてくれた。 そう言えば、鎧鏡家に来てから私服で曲輪の外に出るのって……実家に行った時くらいじゃない? いつもより何割増か洒落た服を着せられて、学校へと向かった。 「おー、ばっつん!あけましておめでとうございます」 「うっわ!あけましておめでとうございます、田頭」 生徒会室のドアを開けると、そこには紋付袴の田頭がいた。 新年会らしい服って、そういうこと? 「なに?その張り切りっぷり」 だって新年会の前に、仕事始めがあるんだよね? って言っても、仕事始めから、実務をバリバリこなすことはないか。 「ばっつんこそ、なにそのオサレーな感じ!今までばっつんをそういう目で見たことなかったけど、そういう目で見ようと思えば……」 と、田頭が言ったところで、田頭の後ろからサクラがヌッと出てきた。 「うおっ!」 「ふうううううん。そういう目ってどういう目?」 サクラが田頭の目をグリグリ指で突いた。 「ぎゃあああああっ!」 サクラ……田頭、失明の危機だよ?それ。 「でもホントその服可愛いね。よく似合ってるよ、ばっつん」 田頭の手をつねりながら、ニコニコしているサクラがそう言った。 でも、目が笑ってない……よ?サクラ。 「あ、あはは……ありがとう」 サクラは大手アパレルメーカーの社長の息子だ。帰ったらとおみさんに、サクラに服を褒められたって教えてあげよう。きっと喜ぶだろうなぁ。 生徒会の仕事始めということで、三学期の予定についての会議をしていると、急にドアが開かれた。 驚いてそっちを見ると『まだ新年会には早かったか?』と、鏑木先輩が入ってきた。 「えっ?!」 鏑木先輩を見て、すっごく驚いてしまった。田頭が着ているのを見て吹き出した紋付袴を、鏑木先輩までもが着ていたからじゃなくて……。 新年会って、現役員メンバーだけでやるんじゃないの? 鏑木先輩も来るとか聞いてないよ!田頭! 田頭を見ると、オレに向かってニヤリと笑った。 それを見たサクラが、また田頭の目をグリグリし始めて……。 サクラ?ホント、田頭の目、ヤバイから。 「いや、いいっすよ!すぐ終わらせますんで」 田頭は『んじゃ、そんな感じで三学期もよろしくー』と言うと、めちゃくちゃ中途半端なところで、会議を終わらせた。 っていうか……。 鏑木先輩が来たってことは……本多先輩も……来るって、こと? 学祭以降、本多先輩とは一度も会っていない。 「……」 いや! 学祭の日、きちんと挨拶したつもりだし、別に気まずく思うことなんてないじゃん! でもやっぱり……気まずい。気まずいに決まってる! 皇の『髪一房たりとも触らせるな』って言葉が、すぐに頭に浮かんできた。 本多先輩は、髪一房どころか、キス、された相手だ。 出来れば……会いたくない。 先輩に会いたくないっていうか……先輩に会うと、皇に黙っていることがあるっていう罪悪感がわいてきちゃって……そっちのほうが、つらい。 皇に本当のことを全部話して、許してもらいたいって思っていたのに、結局未だに言えていないし。 皇に隠し事をしていると思うと、気持ちが重くなって……。 でも。 皇はあんなちょいちょいキスしてくるようなヤツだし、キスなんか挨拶だ、ぐらいに思っているとしたら、怒らないかも! ……それはないか。 髪一房たりとも触らせるな、とか、言うくらいだ。怒らないわけない……よね。 でもさ。 それって……なんで怒るの? オレのこと……好き……ってこと? 人に触らせたくないなんて……思うくらい。 「……」 最近の皇の態度を思い返すと……皇って、オレのこと、本当は好きなんじゃないの?とか……思いたくなる。 だって、すごく……優しいもん。 いや、でも……他の候補様たちにも、優しいのか。 オレにだけじゃないんだ、多分。 だって本多先輩に、初めてキスされた時、皇、階段でふっきーに……キス、してた。 そうだよ!そんなことがあって落ち込んでたから、本多先輩にキスされたんじゃんか! もともとは全部皇のせいだ! 「はぁ……」 皇のせいっていうか。 たくさんの嫁候補がいるってわかってて、皇を好きになっちゃったオレのせい……か。 胸がざわついて、仕方ない。 不安っていうか、緊張っていうか。 ああ、気持ち悪くなってきた。 本多先輩……ホントに来るの?

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