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起………②
「本多くん、遅いなぁ」
大会議室に移動してすぐ、鏑木先輩が呟いたのを聞いて、オレはますます苦しくなった。
やっぱり、本多先輩も来るんだ。
皇に教えた生徒会の予定には『生徒会役員新年会』とだけ、書いてある。
旧役員も来るとは、書いてない。
だって旧役員が来ることは、オレもさっき知ったんだから、書けなくて当たり前だし!
だけど……皇に、言うべき?
今日も皇は仕事だろうし、わざわざ連絡して言うようなこと?
嘘を言ったわけじゃない。
先輩たちだって、引退したとはいえ、生徒会役員って言えば、そうとも言える。
『旧』が付くけど。
本多先輩には気をつけろって言ってた皇の言葉が、胸の奥に引っかかってる。
皇に連絡するべきかどうか悩んでいるうちに、本多先輩が開始予定時刻の5分遅れで、大会議室に入って来た。
「本多くーん、遅いぞ!」
本多先輩の姿を見ただけで、緊張で体が熱くなった。
大会議室に入ってすぐ、鏑木先輩と話し始めた本多先輩は、オレのことなんて、ちらりとも見てこない。
でも。それがむしろ……怖かった。
会いたくないとか言っても、無視されると怖くなる。
もしかしたら、まだ、怒ってるのかな?
本多先輩が皇に黙らされたなんていう学祭の時の噂は、もうだいぶ鎮火したように思っていたけど、噂されてる本人からしたら、まだ全然、終わってないのかも。
「さて。全員揃ったところで。皆様、あけましておめでとうございます」
「おめでとうございまーす!」
どこからともなくウェイターさんが入って来て、ジュースが入ったグラスを渡してくれた。
田頭はどこかのホテルのケータリングサービスを呼んだらしい。
乾杯前に一言……ということで、田頭が挨拶をし始めた。
田頭っていいヤツなんだけど、挨拶が長いのだけはいただけない。政治家の息子って、そういうもんなの?
でも今日は、そんな田頭の長ーい挨拶が、全く耳に入って来なかった。
さっきから気になっているのは、本多先輩のことで……。
もし先輩が怒っていたとしても、オレにはどうにも出来ないんだから、気にしても仕方ないって思うのに、どうしても気になってしまう。
だってやっぱり、あんなに可愛がってもらった先輩だし。急に無視されてしまうのは……すごく、悲しいじゃん。
受験に備えて休みになっていた先輩たちも、今日久しぶりに会ったようで、先輩同士盛り上がっていて、田頭の挨拶は全く聞いていないようだ。
本多先輩はさっきから、前副会長の阜路 先輩と話し込んでいた。
「田頭ぁ」
鏑木先輩が、延々と新年の抱負を話し続ける田頭に声を掛けた。
「お前、話がなげーんだよ。早く乾杯しようぜ。お前の新年の抱負は、あとでオレが適当に聞いてやるからさ」
「ええっ?!そりゃないっすよ、先輩」
「あははっ。ほら、かんぱーい!」
「かんぱーい!」
「えええええっ!?」
置いてけぼりの田頭は放ったらかしで、皆は乾杯し、料理に手をつけ始めた。
さすがホテルのケータリングサービス!学校の生徒会の新年会とは思えない、ものすごく豪華な料理だ。
今日は違うらしいけど、必要だったら料理人さんを呼んで、料理を作ってもらえるくらい立派なキッチンも、この会議室の奥にはついている。
ホンット、金持ち学校なんだよね、ここ。
ってか、いつそんなことが必要になるわけ?
料理を食べ始めてすぐ、ジリジリジリジリ……という、けたたましい防犯ベルの音が廊下に響いた。
「何っ?!」
驚いてキョロキョロすると、どこからか『カジデス、カジデス、ヒナンシテクダサイ』と
いう、人工的な声が聞こえてきた。
火事?!
「誤報か、いたずらだろ?」
先輩たちは、冷静だ。
「誤報は問題だな。いたずらって言ったって、今日はオレたちしかいないんじゃないのか?誰だよ、田頭ぁ!」
「俺ずっとここにいたじゃないっすか!」
今日はまだ学校も休みだ。先生方も数名しかいないはず。
「ここにオレたちがいるのは、警備室もわかってるだろ?いずれ警備員から連絡が入るさ」
「ああ、まあとにかく外に出るか。本当に火事なら逃げ遅れるぞ」
8人揃って外に出たけど、ここのエレベーターは6人が定員だ。
「詰めれば乗れるんじゃん?」
「まずさ、役員って新旧揃ったら8人なのに、6人乗りっておかしいよな」
「皆いっぺんに乗ることないだろ?普通」
「あ、いいですよ。オレ軽装なんで、階段で降ります。7人ならいけそうじゃないですか?」
紋付袴だのタキシードだのの皆に比べたら、オレが一番軽装だ。
階段も楽々降りられる。
「多分誤報だと思うからさ。悪いな、ばっつん。何かあったら、電話して」
「はい」
鏑木先輩の言葉に返事をしたところで、エレベーターのドアが閉まり始めた。
それを見送っていると、閉まる直前、本多先輩が『オレも降りるわ』と、降りてきた。
「えっ?」
「万が一のこともある。青葉一人じゃ心配だ」
「え、あ……すいません」
何故か……謝ってしまった。
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