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…承……④
「何で、母様が……」
「千代から……青葉を無理矢理……って、聞いて……」
「っ?!」
「理由を聞いても、千代は何も話さない」
母様はそう言うと、オレの手を取って、顔を伏せてしまった。
「言い訳するなって、そう育てたのは私なんだ。だけど……どんな言い訳でもいいから、聞きたかった。何の理由もなく、人を傷付けるような子だなんて……思いたくなくて……。だけど、どんなもっともらしい理由があろうと、千代が青葉を傷付けたことに変わりない。……ごめん、青葉。私がいくら謝っても……あの子の罪は消えないけど……ごめん……青葉。あんな風に育てた、私の責任だ。」
違いますって、すぐに言葉が出てこなかった。
優しかった皇が、あんなに冷たくなっちゃったのは、オレのせいかもしれないって、思い始めてた。
先輩のことが好きだって思われるような態度を、オレがしていたのかも、って。
だけど母様が、母様の責任だって言うなら、そういうことにしてしまいたかった。
だってそしたら、どんなに楽かわかんない。
だけど……。
「ごめんなさい」
母様に、謝るのが精一杯だった。
「何で青葉が謝るの?!」
「ごめんなさい」
母様のせいなわけない。
オレが全部、悪いんだ。
「青葉、やめて」
「ごめんなさい……」
母様のせいなんかじゃない。
皇があんなに怒ったのは、オレのせいなんだ。
……もうそれでいい。
「青葉!」
母様に抱きしめられて、また泣いた。
もう何にも、考えたくない。
誰のせいでこうなったとか、責任の擦り付け合いで、またこれ以上傷付くのも、傷付けるのも、イヤだ。
オレが悪いってことで終わるなら、もうそれでいい。
今はただ……何にも考えないで、眠りたい。
母様はそれ以上何も言わず、泣き止んだオレに、ホットミルクを入れてくれた。
ベッドで体を起こしたオレの頭をそっと撫でて、母様は『一つだけ聞いて』と、オレを見た。
「千代に……青葉を大事に出来ないなら、柴牧家殿にお返しすべきだって、話したんだ」
「え……」
「だけどそれを決めるのは青葉だって……それは青葉もわかってるって、千代が言ってた」
すぐにチョコプレートが浮かんだ。
皇は『余のものになる気がないならプレートを捨てろ』って、言った。
「そういう約束があるの?」
小さく頷いたオレの手を、母様は『そうか』と言って、優しく包んだ。
「……少し熱がある。たくさん寝たほうがいい」
「はい」
母様との話を聞いていたかのように、そこでシロがベッドに乗ってきて、オレに擦り寄った。
「ここは特別室だから、シロがいても大丈夫。シロが青葉のことを守ってくれる。ゆっくり寝るんだよ」
「……はい」
母様は病室を出ていった。
母様に、お礼も言えなかった。
ここに、プレートはない。
あったとしたら……どうしただろう?
しばらくシロと一緒にベッドに横になって目をつぶっていたけど、眠れない。
ここを、出て行く?
今、オレがそれを望めば、いつでも出て行ける状況、なんだ。
もう母様も、前みたいにオレを引き止めないだろうし、側仕えさんたちも、オレが嫁にならなくても、全員解雇にならないことはわかっている。
父上だって、こんなことになったって知ったら、何も言わずに迎えてくれるだろうし……もうこのうちに、オレを縛り付けてるものなんて、何にもない。
あ。シロ!
……シロは、実家に連れて行けばいい。
もう悩むのも、苦しむのも、痛いのも、辛いのも、我慢するのも……疲れちゃった。
なのに、皇の冷たい目が、頭から離れない。
あの冷たい視線。
オレのこと……軽蔑したの?
そう思うと、泣けてくる。
好きだと思ってた皇が、別人みたいだった。
でもオレが好きだった皇って……どんな皇だって言うんだろう?
よくよく考えたら、あんな風に無理矢理強姦まがいのことをしたって、平気でいて当たり前なんじゃないの?殿様なんだから。
今までそうしなかった皇のほうが……おかしかったんだ、きっと。
おかしいんだろうけど……それだけオレのことを大事にしてくれてたって、ことなんじゃないの?
『余のもの』とか言うのも、物扱いかよ!なんて最初は腹が立ったけど、ちょっと、嬉しかったりしてたんだ。
それだけ皇、オレのこと、好きなのかな、なんて思って……。
だけど、さっきの皇は、オレの気持ちとか、全然聞こうとしてくれなかった。そんなの、言葉そのまま『物』扱いだ。
気持ちなんかない『物』みたいに……扱われた。
「……っく……」
あんなことをしたくせに、どうするかオレに選ばせるなんて……ズルイよ。
お前が出ていけって言うなら、お前のことうんと恨んで、嫌いになって、可愛い女の子と結婚して、柴牧を継いで……そしたらはーちゃんだって、イングランドから戻らずに済むだろうし、その方が世間的にも認められた結婚だし……それに……それに……。
「……」
オレに、どうしろっていうんだよ、皇……。
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