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…承……⑤
そのあと、オレの熱はどんどん上がって、一週間、三の丸に入院した。
その間、側仕えさんたちが身の回りの世話をしに来てくれたけど、怖くて、うまく話が出来なかった。
あんなことになったオレを、側仕えさんたちは、どう思ってるんだろう?
薬を盛られて、自分を見失うくらい……快楽に溺れた。
口を縛られていなかったら、もっと酷い声を、皆に聞かせていたかもしれない。
皆はどこまで知ってるの?
オレが夜伽をするのは初めてだったことも、わかったかもしれない。
そしたら、もう何度も夜伽をしていたみたいに、みんなに嘘をついていたこともわかったってことだ。
全然変わりなく接してくれるけど、本当は何もかも知っているのかもしれない。
そう思うと怖くて……側仕えさんたちにさえ、どう接していいのか、わからなかった。
退院して梓の丸に帰っても、オレはシロと一緒に部屋にこもったままでいた。
ご飯も部屋に運んでもらって、なるべく人と会わないように生活していた。
だけど一人でいればいるだけ、おかしな考えが浮かんでくる。
ぼたんが皇に話さないでいてくれたら……。
いちいさんがあの時皇を止めてくれていたら……。
田頭がオレのことをエレベーターに乗せてくれたら……。
化学部が実験を失敗なんかしなければ……。
そんな戻せない過去を悔やんで、誰かのせいにしようとしていた。
ぼたんが皇に話したかもわからないのに……。
いちいさんが"若様"に逆らったら、それこそ打ち首ものだ。あそこまで粘ってくれただけでも、すごく勇気がいることだったはず。
田頭だって、詰めれば乗れるって言ってくれたのに、断ったのはオレ自身で……。
化学部にいたっては、ただのとばっちりでしかない。
……どうしてこんなことになったんだろう?
オレのせいなの?
母様は何の理由もなく、そんなことをする子じゃないと信じたいって、言ってた。
じゃあどんな理由があったら、ああなるの?
優しかった皇が、どんな理由があったら、あんなに冷たくなれるの?
……オレの、せいなの?
わかんない。
わかんないよ。
三学期の始業式にも出ず、ずっと学校を休んでいる。
生徒会役員には特権があって、授業に出なくても休み扱いにはならずに済んでいた。
だけど出席日数や授業よりも、生徒会の仕事が心配だった。
田頭に『休んでてごめんね』ってメールを入れると、本多先輩がオレの代わりに会計の仕事をしてくれているから心配すんなと、返信が来た。
本多先輩が?!
名前を聞くだけで、まだ……怖くなる。
先輩の存在自体を消せるって、学祭の時、皇が言ってた。
だけど皇は、本多先輩に、何にもしていないってことだ。
皇が先輩に何もしなかったんだと思うと、少しホッとする自分がいる。
本多先輩がどうかされていたら、やっぱり……気持ちがいいものじゃない。
先輩が怖いと思いつつ、こんな気持ちにもなるから、皇が、怒ったのかもしれない。
「……」
先輩は何度も『青葉は鎧鏡くんのものなのか?』って聞いてきたのに、オレは一度もハッキリと答えなかった。
だから本多先輩が、オレにあんなことをしてきたんじゃないの?
オレの気持ちを先輩にハッキリ言っていれば、あんなことには、ならなかったかもしれない。
『そなたに隙があるからだ』って、よく皇が言ってたけど……本当に、そうなのかもしれない。
だけど……皇のものなのか、なんて聞かれたって、オレは皇のものだ!なんて、自信を持って、言えなかったんだ。
本当にオレは、皇のものなの?
ぼうっとベッドで横になっていると、ドアを小さくノックされた。
返事をすると『お詠の方様がお見えです。どうなさいますか?』と、いちいさんがドアの外からそう聞いてきた。
ふっきー?
今は、ふっきーにもなるべくなら、会いたくない。
だけど『いいです』とも言わないうちに、ふっきーが部屋の中に入って来た。
「体調、壊したんだって?はい、これお見舞い」
小さなケーキの箱を差し出された。
「……」
何も言えず、ただそれを受け取った。
「すめのこと、避けてるんだって?」
「え?」
急に投げられた質問に、心臓がバクバクいい始めた。
皇に聞いたの?
何を?
「どうして避けてるの?」
「理由、聞いてないの?」
「教えてくれない。ただ、避けられてるって。でも……ここのところずっと、苦しそうだよ」
「……」
オレのほうがよっぽど苦しいよ!でもふっきーは、いつでも皇の味方なんでしょう。
「どうして避けてるの?」
「……」
言えるわけない。
「ボクは、大事な人はわかりやすく大事にしたいと思ってる。すめはボクにとって大事な人だから、雨花ちゃんがすめを傷付けてるんだとしたら……許せない」
「っ!」
ふっきーの冷静な口調が、怖い。
「家臣が雨花ちゃんのこと、すめの嫁候補ナンバーワンとか噂してるみたいだけど……ボクはすめを苦しめてるような今の雨花ちゃんに、すめを渡す気なんてないから」
ふっきーはそう言って、部屋を出て行った。
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