132 / 584

…承……⑥

何だよ!あれ!好き放題言って! 理由も何にも知らないくせに! ふっきーは皇に大事にされてるからいいよね! ふっきーは……皇にあんなこと……あんなひどいこと、絶対にされたことないに決まってる。 皇に大事にされて、喜んで……皇に抱かれてるんだろう? だけどオレは……。 オレは……。 「……」 大事な人……。 皇は、ふっきーの大事な人。 大事な人は、わかりやすく大事にしたいって、ふっきー、言ってた。 それは、見てればわかるよ。 皇とふっきー、すごく、仲良くて……楽しそうで……大切な人なんだなって、オレが見ていて、ツラくなるくらいだ。 ふっきーだけじゃなくて……皇も、お互いが大事にしてるんだなって、わかる。 オレは……。 オレは? あんなことがあったあと、一度も見ていなかったチョコプレートの箱を開けた。 『あなたの存在に感謝する』 あんなことがあったのに、これは貰った時のままだ。 でも……皇の気持ちは、変わっちゃったんだ。 実家に帰るか帰らないかは、オレが決めること? 皇はどうでもいいの? オレが決めたらそれでいいの? オレがこのプレートを捨ててもいいの? 皇は……無表情でわかりづらいとこばっかりで、偉そうだし、人の手紙勝手に読んだり、無茶苦茶なこともするけど……それでも、いつでもオレのこと、優先してくれてた。 このプレートをくれた誕生日だって、わざわざモナコから帰って来てくれたし。 生徒会のことを相談しに行った時だって、駒様に、自分の支度よりもオレの話を聞いてやれって言ってくれた。 皇はオレのこと、大事に、してくれてた。 だけど、オレは皇を大事にしてきた? いちいさんが、皇よりもオレの気持ちのほうが心配だったって言うのも、当然だ。 皇がこのプレートを見て、オレの気持ちはここにあるって言ってくれた日も、オレは学校で『お前のものになんかならない』とか『平気で犬とか捨てるんだろう』とか、すっごく酷いことを皇に言った。 なのに皇は、オレを許してくれた。 でも……。 皇はすぐオレに『許さぬ』って言うけど、今まで皇が言う『許さぬ』を……怖いなんて思ったことなかった。こんな風に怒られてるなら、ずっと怒られててもいいって思ったくらいだ。 だけど……オレを無理矢理縛り付けた時の『許さぬ』は……本気で……怖かった。 あの時の皇、本気でオレのこと、許さないって思ってた。 何でそんなに、怒るんだよ。 本多先輩とオレが、何かしたみたいに言って……そんなわけないのに! オレはあんなに……怖かったのに。 今思い出しても、鳥肌が立つ。 だって、先輩は男だよ?!男に自分から触られるわけないじゃん! ……皇も男だけど。 「……」 皇だけ……違うんじゃん。 皇だけ……特別なんだ。 皇が怒ってること、全部皇の勝手な思い込みなのに! でもオレは……いっつも素直になれなくて……皇を傷付けてばかりいた気がする。 全然皇のこと、大事にしてなかった。 だって……ずっと怖かったし、恥ずかしかったんだ。 いつか皇がたった一人を選ぶ時、オレじゃない誰かを選ぶなら、オレがこんなに皇のことが好きだなんて……知られていたくなかった。だってカッコ悪いじゃん。 『そなたを選べぬが許せ』なんて言われたら……カッコ悪過ぎて、死んじゃうよ。 「はぁ……」 こんなオレより、ふっきーが選ばれて当然だ。 そうじゃなきゃ、おかしいよね。 だったらもう……実家に戻してもらったほうが……。 「……」  チョコプレートを取り出して、床に投げつけようと手に取った。 「……っ……」 ……出来ない。 出来ないよ。 オレには出来ない! だって……すごく嬉しかったんだ。 オレがここにいるだけで、皇は『ありがとう』って思ってくれてるんだって……。 お前が命令してよ! 殿様なんだから! こんな候補はいらないから帰れ!って、お前が……。 だってオレには……このプレートを捨てるなんて、出来ない。 ……出来ないよ。 オレは、皇が望むようなこと、何一つ、出来ない。 誰にも触らせるなって約束も、守ることが出来なかった。 でも、触らせたかったわけじゃないのに。 自分だけじゃ、逃げられなかった。それでも精一杯、逃げようとしたのに。 それでも……ダメなの? 皇に会うのが……怖い。 もう……何もかもから……逃げ出したい。

ともだちにシェアしよう!