134 / 584
……転…②
「雨花様には、夜伽のなんたるかをお教えせねばなりません」
「やっ……やだ……駒様っ!」
目の前の、何の感情も読めない駒様は、怒った顔をしているよりも、怖い。
「や、め……」
駒様はそのままオレを抱き上げて、ベッドに乱暴に放り投げた。
「っ!」
「若様を拒み続けるのであれば、拒めぬようにするのが、候補の教育係である私の勤めです」
「な、に……」
拒めぬようにって、何、するの?
「男根がなければいられぬ体にして、若様の前に差し出しましょう」
「っ?!」
「若様を拒むどころか、自ら求めるようになるまで……」
「や、だ……やだ!駒様っ!やだっ!」
そんな風になるわけない!
だけど駒様は真剣な顔で、オレの手首を押さえつけた。
「や!駒様!やめてっ!」
「喚けば喚くだけ、無駄な体力を使いますよ」
駒様は、オレのパジャマのボタンに手をかけた。
「やだっ!駒様!……いちいさん!いちいさんっ!」
ドアの外にいるだろういちいさんを大声で呼ぶと、外からノックされ『雨花様!?どうなさいましたか!』と、いちいさんの声が聞こえた。
「一位殿を中に入れれば、一位殿を処罰します」
ドアの外で『雨花様!』と、何度もオレを呼び続けているいちいさんに、駒様は『今入れば雨花様が恥をかくことになりますよ!』と、声を掛けた。
それを聞いて、いちいさんの声が止んだ。
「……」
駒様の指が、オレのパジャマのボタンをはずした。
恐怖しか、ない。
何とか逃げようと力を入れても、駒様の力が強くて、逃げられない!
「やだ!駒様っ!」
「下手に暴れて怪我をなさってはいけませんね。拘束させていただきます」
駒様はさっと自分の着物の紐を抜いて、オレの手首を縛った。
あの時の、皇と、一緒だ。
また体が、大きく震えた。
駒様がオレの顎を掴んで、顔を近付けた。
「やだっ!」
駒様とキスなんかしたくない!
誰か助けて!
誰か……。
「皇っ!」
皇しか……頭に浮かばなかった。
「あれだけ拒絶なさっていたのに、若様を呼ばれるのですか?」
だって、あれだけ拒絶してても……オレの頭には、皇しか浮かばない。
「皇っ!」
「無駄ですよ」
「皇!」
助けて!
助けてっ!
お前のものだっていうなら……お前が助けてよ!
皇……。
駒様の手がパジャマを開こうとした時、ダンっという大きな音がして、ドアが勢いよく開かれた。
「やめよっ!」
「す……」
皇?!
息を切らした皇が、駒様を掴んでオレから引き剥がした。
オレに布団を掛けて、駒様からオレを守るように、ベッド脇にすっと立った。
「そこをおどきください」
「ならぬ!」
「候補様方のご教育に関しては、私に一任くださっているはず。そこをおどきください!」
「ならぬ!」
「雨花様に関して若様は、他の候補様とは明らかに違う対応をなさっていらっしゃる。小姓しかり、湯殿係しかり、側仕えしかり。今はまだ騒がれてはおりませんが、いずれ必ず火種になりましょう。此度の渡りに関しても、申し出を候補に断られ、それでも許すとは何事ですか!鎧鏡の次期当主ともあろうお方が!お情けのうございます!」
明らかに対応が違うって……どういうこと?
「そこをおどきください!雨花様に甘く見られるのは、若様が甘やかした結果です!若様に出来ぬなら私が雨花様を……若様を拒めぬ体に教育し直し、若様に差し出します!」
「そのように申すな!差し出すなど……雨花は、そのように簡単にやり取りできるような”物”ではない!」
そこで大きく息を吐いた皇が『頼む、駒』と、駒様に向かって頭を下げた。
う、そ……。
皇が……駒様に、頭を下げるなんて。
「おやめください!」
駒様は慌ててその場に土下座した。
「駒、頼む」
「このようなことを許しては、いずれ鎧鏡は……」
「わかっておる!だが……此度ばかりは、許せ」
駒様は、それ以上何も言わず、出て行った。
「すまぬ」
オレに背中を向けたまま、ポツリと呟いた皇の背中に、手を伸ばした。
そっと触れると、皇の体が、ビクリと揺れた。
「皇……」
来てくれた。
「余を……拒んでおったのではないのか」
そんなのいいから……こっち向いてよ。
手首を縛られたまま、皇の着物をギュッと握ると、皇はようやくこちらに振り向いて、強くオレを抱きしめた。
オレ……お前のこと、こんなに……待ってたなんて……。
「雨花……」
皇は、オレの手首の紐をほどいて、そっと手首に、口づけた。
ともだちにシェアしよう!