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……転…②

「雨花様には、夜伽のなんたるかをお教えせねばなりません」 「やっ……やだ……駒様っ!」   目の前の、何の感情も読めない駒様は、怒った顔をしているよりも、怖い。 「や、め……」 駒様はそのままオレを抱き上げて、ベッドに乱暴に放り投げた。 「っ!」 「若様を拒み続けるのであれば、拒めぬようにするのが、候補の教育係である私の勤めです」 「な、に……」 拒めぬようにって、何、するの? 「男根がなければいられぬ体にして、若様の前に差し出しましょう」 「っ?!」 「若様を拒むどころか、自ら求めるようになるまで……」 「や、だ……やだ!駒様っ!やだっ!」 そんな風になるわけない! だけど駒様は真剣な顔で、オレの手首を押さえつけた。 「や!駒様!やめてっ!」 「喚けば喚くだけ、無駄な体力を使いますよ」 駒様は、オレのパジャマのボタンに手をかけた。 「やだっ!駒様!……いちいさん!いちいさんっ!」 ドアの外にいるだろういちいさんを大声で呼ぶと、外からノックされ『雨花様!?どうなさいましたか!』と、いちいさんの声が聞こえた。 「一位殿を中に入れれば、一位殿を処罰します」 ドアの外で『雨花様!』と、何度もオレを呼び続けているいちいさんに、駒様は『今入れば雨花様が恥をかくことになりますよ!』と、声を掛けた。 それを聞いて、いちいさんの声が止んだ。 「……」 駒様の指が、オレのパジャマのボタンをはずした。 恐怖しか、ない。 何とか逃げようと力を入れても、駒様の力が強くて、逃げられない! 「やだ!駒様っ!」 「下手に暴れて怪我をなさってはいけませんね。拘束させていただきます」 駒様はさっと自分の着物の紐を抜いて、オレの手首を縛った。 あの時の、皇と、一緒だ。 また体が、大きく震えた。 駒様がオレの顎を掴んで、顔を近付けた。 「やだっ!」 駒様とキスなんかしたくない! 誰か助けて! 誰か……。 「皇っ!」 皇しか……頭に浮かばなかった。 「あれだけ拒絶なさっていたのに、若様を呼ばれるのですか?」 だって、あれだけ拒絶してても……オレの頭には、皇しか浮かばない。 「皇っ!」 「無駄ですよ」 「皇!」 助けて! 助けてっ! お前のものだっていうなら……お前が助けてよ! 皇……。 駒様の手がパジャマを開こうとした時、ダンっという大きな音がして、ドアが勢いよく開かれた。 「やめよっ!」 「す……」 皇?! 息を切らした皇が、駒様を掴んでオレから引き剥がした。 オレに布団を掛けて、駒様からオレを守るように、ベッド脇にすっと立った。 「そこをおどきください」 「ならぬ!」 「候補様方のご教育に関しては、私に一任くださっているはず。そこをおどきください!」 「ならぬ!」 「雨花様に関して若様は、他の候補様とは明らかに違う対応をなさっていらっしゃる。小姓しかり、湯殿係しかり、側仕えしかり。今はまだ騒がれてはおりませんが、いずれ必ず火種になりましょう。此度の渡りに関しても、申し出を候補に断られ、それでも許すとは何事ですか!鎧鏡の次期当主ともあろうお方が!お情けのうございます!」 明らかに対応が違うって……どういうこと? 「そこをおどきください!雨花様に甘く見られるのは、若様が甘やかした結果です!若様に出来ぬなら私が雨花様を……若様を拒めぬ体に教育し直し、若様に差し出します!」 「そのように申すな!差し出すなど……雨花は、そのように簡単にやり取りできるような”物”ではない!」 そこで大きく息を吐いた皇が『頼む、駒』と、駒様に向かって頭を下げた。 う、そ……。 皇が……駒様に、頭を下げるなんて。 「おやめください!」 駒様は慌ててその場に土下座した。 「駒、頼む」 「このようなことを許しては、いずれ鎧鏡は……」 「わかっておる!だが……此度ばかりは、許せ」 駒様は、それ以上何も言わず、出て行った。 「すまぬ」 オレに背中を向けたまま、ポツリと呟いた皇の背中に、手を伸ばした。 そっと触れると、皇の体が、ビクリと揺れた。 「皇……」 来てくれた。 「余を……拒んでおったのではないのか」 そんなのいいから……こっち向いてよ。 手首を縛られたまま、皇の着物をギュッと握ると、皇はようやくこちらに振り向いて、強くオレを抱きしめた。 オレ……お前のこと、こんなに……待ってたなんて……。 「雨花……」 皇は、オレの手首の紐をほどいて、そっと手首に、口づけた。

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