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……転…④

隙間なく重なった唇の、優しい感触。 寄せられた皇の頬が、冷たい。 三歳からずっと、皇の泣き顔を見たことがないって、母様が言ってた。 そんな皇が……泣いたの? 切なくて、胸が張り裂けそうだよ。 オレが……皇を、泣かせたの? ギュッと目を閉じると、皇の指が、オレの頭を撫でるように、髪の上を滑っていった。 「余の……ものだ」 小さく呟いた皇が重ねてきた唇を、離したくなくて、皇の着物の衿を握った。 重なっては離れて行く唇を追いかけるように、自分から舌を絡めた。 オレ……お前のものだって、思って、いいの? 「皇……」 唇から漏れる吐息が、熱い。 きつく抱きしめられているのに、それでももっとと、抱きつく腕に力を入れた。  「今でなければ、離してやれぬぞ」 皇の指が唇をなぞって、顎へと向かう。 揺れた喉仏を軽く押されて、体がピクリと反応した。 「今なら離せるってこと?!」 余のものだって言ったくせに! 今なら離せるみたいなことを言う皇に、不安で不安で……腹が立つ。 見上げる位置にある皇の顎に軽く噛み付くと、ふっと笑った皇が、オレの頬に頬を寄せた。 「いや……もう出来ぬ」 さっき留め直したばかりのボタンが、皇の指で一つ一つ外されていくのを、ドキドキしながら、感じていた。 部屋の奥でゆらゆら揺れてる、小さくて温かい色の灯り……。 あんな小さな灯りだけなのに、皇の顔が、よく見える。 「幾度……夢でそなたを、抱いたか知れぬ」 首筋にあたる、唇の感触。 そんなことを言われて、ゾクリと背筋が震えた。 あの時……皇から与えられる怖いくらいの快楽に、溺れた記憶が甦った。 「夢で見るほど、そなたが……欲しい」 皇の唇が、躊躇なく乳首を包んだ。 「っ!んぅ……」 すでに疼いていた胸に、待っていた刺激……。 オレの体は、意図せず大きくしなった。 「青葉……」 大事そうにオレの名前を呼んで、皇の手が、太ももに置かれた。 オレの体は、またゾクリと背筋から大きく震えた。 「……怖いか?」 「んっんぅ……」 すでに勃ち上がっているそこは、皇の指を……待ってる。 皇は夢でオレを何度も抱いたって、言ったけど……オレは何度、皇の指を想像して……自分で……しただろう。 「怖いのであれば……余にしがみついておれ」 皇の手が、パジャマのズボンの上から、オレのペニスをそっと撫でた。 「んっ!」 下着の中で、ぴくんっと大きくペニスが揺れる。 「そなたの恐れも……余のものだ」 「す、めらぎ……」 皇の手が、ズボンの上からギュッとオレのペニスを握った。 「んんっ!」 形を確かめるように、皇の手は、ペニスの付け根から先端に向けて、ゆっくり動いていく。 亀頭の張りで一旦止まった手が、雁首を撫でるようにゆっくり動くと、たまらず声が漏れた。 「あっ……」 自分の口を両手で塞ぐと『どうした』と、皇がオレの指にキスをした。 「聞こえちゃう、よ」 外にいる側仕えさんたちに、こんな声が聞こえたら、恥ずかしい。 この前はもっと、酷い声を聞かせちゃっただろうけど……。 優しく見下ろしていた皇の顔が、明らかに不機嫌になった。 「今そなたの中に、誰がおる?」 瞳の奥まで覗き込もうとするような、皇の視線。 「え……」 不安に眉を寄せると、皇も眉を寄せて、オレの髪をさらりと撫でた。 「外の者らなど、気にするでない」 「……」 「そなたを、余だけで……満たしたい」 皇は、オレのズボンと下着を剥いで、床に放った。 「余だけを、見ておれ」 皇に全てを晒すのは、これが初めてじゃない。だけど、やっぱり……恥ずかしい。 自分で望んで、こうなったんだけど……。 そう思うと、余計恥ずかしくなって、オレを見ている皇の目を、両手で塞いだ。 「何を致す」 「そんな……見ないでよ」 「見るなと申すなら、この目を潰せ。そうされねば、そなたの願いを聞いてはやれぬ」 皇は目を覆うオレの手を握った。 「そなたが見えねば、不安に思う。余の腕の中におるそなたを……この目で、確かめていたい」 そんな風に言われたら、見ないでとか、言えないじゃん、バカ。 おとなしく皇の目から両手を離すと、皇がふっと微笑んだ。 「そなたも、その目で余を確かめておれ」 帯をほどいた皇が、着物を脱いで、床に放った。 最後の肌襦袢が開かれた瞬間、ふわっと皇の香りに包まれた気がして、一気に体が熱くなる。 「どれだけそなたを望んだか知れぬ。余は……そなたからも、同じように望まれたい」 その言葉に、泣きたくなった。

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