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……転…⑤

「そなただけはいつまでも、余のものだと、確信出来ずにおった」 ついばむみたいに、何度も重なる唇と、確かめるように体中を這う指。皇の全てが、オレを求めていると思うと、たまらない気持ちで泣きたくなる。 皇の胸にそっと手を置くと、初めて皇の素肌に触れられた気がして、ドキドキした。 「だが、もう迷わぬ」 顔の両脇に置かれた皇の手。 強い視線に囚われて、皇から目を逸らせない。 「皇……」 「そなたは余のもの。もう誰にも……触れさせぬ」 心臓のズキンとした痛みに胸を抑えると、皇がオレの手を取って、指先を咥えた。 「っ!」 ダメだよ、もう……。 瞳を閉じると、さっきよりも強引に唇が重なって……頭が惚けて、思考が止まる。 ホントにもう、ダメだってば。 恥ずかしさも理性も……強く吸われた舌と一緒に、全部皇に、飲み込まれていくみたいで……。 もう、何にも隠せない。 体も……気持ちも。 ……好きだよ。 好きだよ、皇。 首にしがみついて、もっと吸って欲しいと、舌を差し出した。 もう本当に、お前以外の誰にも……触らせないで。 どんどん激しくなっていく……キス。 触れ合う唇の音に、水音が混じって、耳に響く。 いやらしい、音……。 聞いているだけで、気持ちが高揚して、もっと欲しいと、皇の髪を引いた。 皇の、柔らかくて……明るい色の髪。 ほんの少し癖のある髪が、皇の頬にかかって、瞳を隠す。 覗くように見つめられて、また唇を求められると、どこまでも、あげてしまいたくなる。 何もかも……全部。 「青葉……」 皇の息が、あがっていく。 たまらない気持ちで、皇の背中を抱きしめた。 「今日は薬を持ってはおらぬ。痛みがあるやもれぬが……やめてはやれぬぞ」 「あっ、あんな、変な薬……もう、使わないでよ」 あの薬を入れられたあと、我慢出来ない快感に、理性が飛んだ。 ただ喘ぐしかない、どうにもならない快楽だった。 そんな薬を使った皇だけじゃなくて、薬のせいとはいえ、あんな風になってしまった自分のことも……何度も、責めた。 あの日の記憶は、曖昧に浮かんでくるけど、確かに覚えてるのは、登りつめていく、恐怖だ。 強い快楽が、あんなに怖いと、思わなかった。自分を保っていられなかった。そんな自分を晒しても、それでも快楽に溺れる自分が……怖かった。 どこまで行っちゃうのかわからない怖さに、助けてって叫びたかったのに、声を塞がれて、腕も縛られて、助けてって……すがることも、出来なかった。 もう、あんなの、絶対にイヤだ。 「おかしな薬なぞ、使っておらぬ」 顔中に音を立ててキスをする皇が、顔をしかめた。 「使ったじゃん!」 「そなたにおかしな薬など使うわけなかろう。鎧鏡に代々伝わる痛み止めだ。候補との初夜には使うよう、持たされておった」 「えっ!?」 痛み止め?え?媚薬、とかじゃ、なくて?ただの痛み止め? 「そなたの体を傷付けぬよう、あれでも気を使ったつもりでおったが……痛んだか?」 皇の手がお尻に伸びて、ビクリと体が反応した。 「んっ……」 言われてみれば、痛いっていうか……違和感はあったけど……何度も貫かれたと思うのに、切れても……いなかった。 ただしばらく……皇が入ってるみたいな感覚が続いて、何か……うまく、歩けなかった、っていうか、まぁあのあとほとんど寝てたけど……。 いや、でも、だけど……ホントに痛み止め? 痛みがなくなっただけでオレ……あんな風に、なったの? 「……」 なんか、怖い。 「どう致した?」 心配そうに、顔を覗いてきた皇にしがみついた。 「怖い、よ」 あんなふうになったのは、薬のせいじゃなかったの?だとしたらオレは、お前に触られただけでまた、あの真っ白な世界に、行っちゃうかもしれない。 「余を……恐れておるのか?」 悲しそうに、皇の瞳が揺れた。 「ちがっ!……そうじゃ、なくて」 皇がオレをギュッと抱きしめた。 「また……飛んじゃったらって思うと……怖い」 だって……ほんの少し、皇の指先が乳首に触れただけで……皇の舌先が舌をつついただけで……体が熱くて、今も……溶けそうなんだ。 そんななのに、これ以上されたら、またこの前みたいに、頭が真っ白になっちゃうかもしれない。 そう思うと……すごく、怖い。 「そなたを手放すような真似は、二度とせぬ」 オレの頭を撫でる皇の手が、すごく……優しい。 「そなたが意識を飛ばすような、無茶な真似は二度とせぬ」 動きを止めた皇が、じっとオレを見下ろした。 「余を、信じるか?」 少し目を伏せた皇の首に、思いっきりしがみついた。

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