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オーディエンス③
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「雨花、入るぞ」
「うえっ?!」
お風呂から出て、脱衣所でパンツを履いた時、外から皇が声を掛けてきて、オレが『いいよ』とも言っていないのに、中に入って来た。
ちょおおおっ!!
急いでシャツを着ようとしたら、ぐるぐると丸め込んでしまったシャツが頭で引っかかって、皇から見たら、めちゃくちゃ間抜けな格好だろうなぁ……みたいなことに……。
皇がぷっと吹き出した音が聞こえた。
「何をしておる?」
鼻で笑うなよっ!鼻でー!
急ごうと思えば思うほど、うまく着られないし……あーもうっ!
「着替えだよっ!見りゃわかるだろっ!」
シャツのグルグルがうまく解けずに、もがきながらそう言うと、皇はまた鼻で笑った。
「着るのか?脱ぐのか?」
「着るんだよっ!っていうか!お前ね!声を掛けたからって、すぐにドア開けるなよ!普通は『いいです』って言われてから開けるもんだろ!」
皇は『曲輪の中で、余自ら扉を開けることはそうそうない』と言うと、笑いながら、ぐるぐるになっているオレのシャツを、下まで引っ張ってくれた。
顔が出たー!と思ったら、皇の顔が目の前にあって……。
で、ちゅって……。
「……うっ!」
恥ずっ!何なの?!こいつはっ!
まずは謝れ!とか、思ったんだけど……。
「……ありがと」
それ以上、怒れなくなっちゃった。
「そなたは誠、世話が焼ける」
お前が急に入って来なかったら、こんなことになってないんだよ!
……とも、言えなかった。
だって、皇、嬉しそうなんだもん。
「支度、もう終わったの?」
オレのところに来てていいの?
「気になってな。少し抜けて参った」
気になった?
「何が?」
「側仕えとはどうであった?未だ気まずいか?」
それを気にしてわざわざ来てくれたの?
何だよ、それ。
さっきはそんなの気にすんなーくらいのこと言ってたくせに。
……喜んじゃうじゃん。
「ううん、大丈夫だった。ご宣託のおかげで皆がバタバタしてて……何か、オレも皆と一緒にバタバタしてるうちに、あっという間に普通に戻ったって感じ」
「そうか」
「あ……ぼたんとは、まだ会ってないけど」
オレはあの時……思いつく限りの人のせいにして、苦しい気持ちから逃げようとした。
人のせいにしてまで、苦しい気持ちから逃げようとした自分の弱さが、嫌なんだ。
思いつくままそんなことを皇に話すと、ぎゅうっとオレを抱きしめた。
「他人のせいにするなぞ、誰でもする。余もそうだ。そのようなことでそなたを責めるでない」
皇も?
そう思うと、強く抱きしめられた腕の中で……なんか、ちょっと心が軽くなった。
「この先、誰かのせいにしたいと思うことがあれば、全て余のせいに致せ」
「は?」
「そなたは余のもの。そなたが苦しむほど心を動かす理由が、余以外にあるなぞ許さぬ」
なんていうか……言ってること、すっごい殿様で笑っちゃうくらいなのに……泣きそうになった。
「す……」
「ん?」
『好きだよ』と、言ってしまいそうになって、慌てて口をつぐんだ。
好き、だなんて言っちゃったら……皇が違う誰かを選ぶ時『選べずすまぬ』なんて、思われるかもしれない。
そんなふうに思われるのは、いやだ。
オレが皇のことを好きだなんて、もうバレバレなんだろうけど……。
でもハッキリ好きだって伝えなければ『別に好きじゃなかったし』って、嘘をつけるかもしれない。
そしたら皇だって、気が楽だと思うし……。
そんな嘘なら、ついてもいい。
『ありがとう』って言って、皇の胸に顔を埋めた。
本当は、キス、したかったけど、しなかった。
今キスしたら……ようやく止めた言葉が、勝手に出て行っちゃうような気がしたから。
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