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独禁法①
1月27日 晴れ
今日は三学期初日です。かっこオレだけかっことじ。
変な緊張感に包まれる、神猛学院二年下駄箱……。
ものすごく早い時間に登校してしまった。
楽しみだからってわけじゃなくて、妙に緊張して眠れなかったからだ。
ふたみさんが作ってくれたご馳走朝ご飯も、ほとんど喉を通らなかった。
「はぁ……」
深いため息をつきながら下駄箱を開けると、バサバサと音をたてながら手紙が何通も落ちていった。
「うおっ!」
まだこんな状態だったの?
しばらく休んでたし、もういい加減、落ち着いたと思ってた。
皇は手紙をもらうのは許してもいい、とか、相変わらずの上から発言をしてたけど、こんなところを皇に見られたら、またうるさそう。
急いで手紙を拾っていると、隣で手紙を拾ってくれる指が見えた。
「っ!」
「おはよ」
顔を上げると、ふっきーが笑っていた。
「あ……」
ふっきー、笑ってる。
え?オレのこと、怒ってたんじゃないの?
お見舞いに来てくれた時、すごい怒ってたじゃん。
「もう体調は大丈夫?」
「……うん」
「雨花ちゃん、すめに病気をうつさないように避けてたんだって?聞いたよ。何も知らないくせに、雨花ちゃんのこと怒ったりして、ごめん」
そんな話になってるんだ?
ふっきーはオレに頭を下げた。
「あ!やめてよ!」
オレが皇を避けてたのは、本当は、ふっきーが言ったみたいなそんな綺麗な理由じゃないんだ。
そんな風に謝られちゃうと、めちゃくちゃ申し訳ない気持ちになるじゃん。
「でも……」
「オレが本当に悪かったんだし……。あの、それよりふっきーはさ」
「ん?」
「ふっきーは……皇とオレがうまくいかないほうがいい、とか、思ったり、しないの?」
ふっきーは、皇を避けていたオレをわざわざ怒りに来た。オレが皇を避けていたほうが、ふっきー的には都合がいいはずじゃないの?
しかもふっきーはオレと仲良くしようとしてくれるし。
梅ちゃんとも仲がいい。
ふっきーは梅ちゃんの正体を知らないんだよね?それなのに……。
オレはライバルとは認められてもいないからなのかもしれないけど、それでも、オレと皇がうまくいかなきゃ、競う相手が一人消えることになるのに。
「え?」
「オレが皇と仲良くしないほうが、ふっきー的にはいいはずじゃないの?」
「ああ……そっか。そうだよね」
「え?」
ふっきーはそこで笑い出した。
「んん……そうだよね。すめが苦しんでるのを見てたら、そんな風に考えられなかった、っていうか……。そっか。雨花ちゃんとすめがうまくいってないほうが、候補としては助かるよね」
ふっきーは他人事みたいにそう言って、しばらく笑い続けた。
「でも、今また同じ状況になっても、僕はきっと同じことを言うと思う」
「え?」
「すめが苦しんでる姿は見たくないんだ。すめには幸せでいてもらいたい。それが例えば、僕以外の候補と、うまくいくことだとしてもね」
「……」
「それが僕の気持ち。……おかしいかな?」
そう言ってふっきーは、綺麗に笑った。
ものすごく……ショックだった。
ふっきーにはかなわない。かなわないよ、全然。
「あ、噂をすれば……すめ!」
皇の姿が視界に入った瞬間、心臓が大きく跳ね上がった。
「早いね、すめ。おはよう」
「ああ」
皇は上履きに履き替えながら、床に落ちているオレ宛ての手紙を拾った。
「あ」
「……全部、寄越せ」
ギロリと睨んできた皇に、素直に手紙を全部渡した。
「この者らには、余が断る」
「え?」
「あ!そういえば僕が交際を申し込まれた時も、すめが断ってくれたよね。ね?すめ」
「え?」
「……」
皇は何も言わず、オレが渡した手紙を、自分の鞄に押し込んだ。
そっか……ふっきーにも、同じことをしてたんだ。
やっぱりオレだけ特別なわけじゃないんだ。
「あー、ボク日直なんだった。先に行くね」
ふっきーは急いで階段を登って行ってしまった。
「体調はどうだ?」
「うん……大丈夫」
ドキドキが……収まらない。
皇にとってオレは特別じゃないとしても、オレにとって皇は、特別、で……。
前から、まぁ、カッコイイとは思ってたけど……なんか今日は、さらに異常、なんだけど。
「どうした?顔が赤い。熱でも……」
そう言って伸びてきた手が、おでこに当てられた瞬間、体がビクリと震えた。
「……どうした?」
「な、んでも、ない」
自分でもわかんない。
皇にちょっと触られただけなのに……反応、したりして。
体が、熱くなってる。
ものすごく、恥ずかしい。
「……参れ」
皇はオレの手を取って、近くのトイレに入った。
「ちょっ!」
個室に押し込められてすぐ、皇に強く抱きしめられた。
「余が恐ろしいのか?」
皇は、小さな声でそう聞いた。
「違う」
皇の腕の中は、すごくあったかい。
「では何故、震える?」
「オレにも……わかんないよ」
ただ、熱があるか確認しようとしただけの皇の手に……どうしてあんなに反応しちゃったのか、なんて……。
「余に触られるのを、恐れているのではないのだな?」
「それが怖かったら……今もう……逃げてる」
皇の制服の袖を握った。
「そうか。……そなたが未だ余を恐れておるなら……」
皇は、オレの頬を撫でて、キスをした。
「……なら、何?」
「恐れなくなるまで、触り倒してやるところだった」
「なっ!」
皇はニッと笑って『行くぞ』と、オレの手を引いた。
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