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独禁法③

「何、喜んでるんだよ、サクラ」 「え?僕、喜んでた?ヤダなぁ。ばっつんが三角関係で苦しんでるっていうのに、喜ぶわけないじゃん!」 いや、確実に喜びが顔に出ちゃってるけど。 サクラはたまに、普通なら口に出さないよね、みたいな心の声が、口から出ていることがある。 っていうか、三角関係じゃないし。 じーっと見ていると『だってさ』と、サクラは開き直り始めた。 「がいくんとふっきーのイケメンと優等生メガネのCPっていうのもアリかな、とは思ってた。一見フツメンメガネ受けはさ、実は美少年でした的展開がお約束でしょ?でもふっきーは、メガネ外すとただのイケメンじゃん?僕の信条は"イケメンは攻めてろ"なんだよ。その点がいくんとばっつんは、もうそれこそ完璧な2.5次元!三角関係なら、僕は断然ばっつん派だよ。だって美しさは正義だからね!」 「は?」 シーピー? ニイテンゴジゲン? サクラが何を言ってるのか全くわからない。 サクラは前々からおかしな奴だと思ってたけど……本当におかしな奴だったんだな。 「綺麗なものを見ると幸せを感じるでしょ?がいくん一人だけでも漫画から抜け出てきた臭がプンプンしてるのに、そこにこのばっつんがくっつなんて!なんて俺得!全腐女子が泣くよ!いや、少なくとも全僕が泣いた!」 「……」 やっぱりサクラが何を言ってるのかわからない。助けて、田頭! 「写真撮ってもいい?」 「は?」 「うちの学校のガチップルです!って」 ガチップルって何? 「あの……オレ、先に教室入るね」 「えええええ?!ばっつーん!待ってよ!」 「……」 そそくさと教室に入ると、田頭が申し訳なさそうにオレを見ていた。 「サクラ、あれでいいのか?」 「あれがいいんだよ。ばっつんとがいくんが今一番推しのホモップルだとか言って、ものすごい盛り上がってんだわ、あいつ」 「は?」 イチバンオシノホモップル? 何それ?田頭も何を言ってるのかわからない。 ……。 うん、そうだ。よくわからないことは、深く考えないことにしよう。 そう思った時、何かが胸につかえてることに気づいた。 あれ?なんだっけ? あ、そうだ!本多先輩のことだ。 ……昼休みが来なきゃいいのに。 昼休みがなくなれなんて思っていたら、休み時間たび、どうやらオレを見に来ているらしい輩が何人かいるということがわかって、昼休みどころか、休み時間ごとなくなって欲しいと思った。 『やっぱりフラれたんじゃね?』とか『がいくんのとこに行かないじゃん』とか『ふっきーとべったり』とか、そんな声が聞こえてくる。 ……みんな暇なのか? 「人気者は大変だなぁ、ばっつん」 「顔が笑ってるぞ!田頭」 「本多先輩との三角関係の次は、ふっきーとの三角関係か。よっぽどばっつんとがいくんがくっつくのがイヤらしいな、皆」 「何言ってんの?きみやす!」 オレの後ろからサクラが飛び出してきて、田頭に飛びかかった。 おー!サクラの"きみやす"呼びを初めて聞いた! 本当にこの二人、付き合ってるんだなぁ。 「ばっつんとがいくんがくっついたほうがいいに決まってんじゃん!誰であろうと、それを妨害するやつは、この僕が許さない!」 「はあ」 「それより生徒会室に行かなくていいのか?ばっつん」 「あ、うん。行ってくる」 もう昼休みか……ああ……。 やっぱり本多先輩と会うと思うと気が重い。 あの日、保健室でオレが先輩に何をされたのか、皇も知ってるって言ってたけど、先輩がオレの仕事を代わりにやってくれてたってことは、皇は先輩に何もしなかったってことだ。 学祭の時、ちょっと前に立ちふさがった先輩に、存在自体を消すなんて言ってたのに、今回何もしなかったなんて……ちょっと、いやだいぶ意外だった。 先輩のこと、何とも思ってないの? ……何とも思ってないかもしれないけどやっぱり、これから先輩に会うってことは、皇に言っておいたほうがいいよね。 「……」 廊下の人だかりの反応がウザそうだけど……。 オレは教室を出ようとしている皇に声を掛けた。 「皇」 「ん?」 その瞬間、廊下からどよめきが聞こえてきた。 ううっ。 「あの」 「どうした?」 皇の手がオレの頭に置かれたと同時に、廊下から『うわああ!』という、声が響いた。 「……」 めちゃくちゃ話しづらいけど、皇とあとでまた揉めるほうが嫌だし。 「これから本多先輩に会わないといけないんだけど」 「あ?」 廊下の反応が面倒で、早口で用件を伝えると、優しげだった皇の顔が急に不機嫌になった。 皇の顔色と共に、廊下が再びざわつき始めた。 「どういうことだ?」 「オレがいない間、先輩が会計の仕事をしてくれてたんだって。それの引き継ぎをしておけって、田頭が……」 「……」 「出来れば会いたくないけど……会いたくない理由を田頭に説明したほうがおかしなことになりそうだし……それに、仕事だし……だから……」 しなくていい言い訳をしているような気がする。 「だから、何だ?」 だから何だ?って言われても……。 だから……なんだろう? すぐ近くで皇を待っているふっきーを見ると、にっこりされた。 「だから……一緒に、来て」 ふっきーに対抗したくて、そんなことを言ったわけじゃない。 ……多分。 ふっきーに『行ってくる』と言った皇が、オレの手を掴んだ。

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