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独禁法⑤
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「あの……会計業務、代わりにしてくださってたんですよね。ありがとうございました」
オレが頭を下げると、先輩は『大したことはしていない』と言って、これまで代わりに処理してくれていた業務の関係書類を持ってきた。
年末年始の処理が山ほどあったようだ。目の前に書類が山のように積まれた。
「うわっ」
「こっちの入金処理はここまで終わってる。これは書類の不備で未払いになっている分で、こっちが……」
先輩は、オレが休んでいる間に処理してくれたものについて、説明してくれた。
「オレからは以上だ。あとはもう大丈夫だろう?何かわからないところがあったら、適当に処理するか……連絡してくれ」
そう言った先輩が、チラリと皇を窺ったのがわかった。
オレもつられて皇を見ると、ソファにどっかり座り込んで、組んだ足を上下させていた。
……あれは、見るからに不機嫌だ。
「あ、はい」
「……じゃあ」
先輩は鞄を持つと、急いで生徒会室を出て行ってしまった。
「あ!」
先輩に言いたいことがある。
咄嗟にあとを追おうとすると、皇に手首を掴まれた。
「どこへ行く?」
「え?……先輩に言っておきたいことがあるんだ。大丈夫だから放してよ」
「そなたの大丈夫はあてにならぬ」
「本当に大丈夫だから。……皇」
早くしないと先輩が行っちゃう。 きっともう、今しか言えない。
放して欲しいと目で訴えると、皇はすっと手を放した。
「本当に大丈夫だから!」
「……」
皇の返事を待たずに、生徒会室を出た先輩を追った。
「先輩!」
エレベーターに乗ろうとしていた先輩の背中に声をかけた。
「あの!」
「……もう、体調はいいのか?」
「え?あ……はい。あの……」
「……悪かった」
先輩は、ずっとこちらに背中を向けたままだ。
何とか聞き取れるくらい、小さな声の謝罪だった。
それに対してオレは、なんと返事をしたらいいのかわからなかった。
『いえ』とも『はい』とも、言葉が出てこない。
オレはまだ、先輩の謝罪を受け入れられないでいる。
「あの、オレ、先輩にずっと言わなきゃって、引っかかってたことがあって」
先輩の謝罪をスルーして、話を切り出した。
「……」
「先輩、何度かオレに聞きましたよね?青葉は鎧鏡くんのものなのか?って」
先輩の目の前で、先輩を乗せないままのエレベーターの扉が、静かに閉まっていった。
先輩が、ゆっくりこちらを振り返った。
「オレ……皇のものです」
ずっと、言えなかった。
皇のものだって、思えなかったから。
オレがどんなに好きでも、皇が『自分のものじゃない』って言えば、オレは皇のものじゃないって、ずっと思ってた。
だけど……皇の気持ちは、この際もうどうでもいいんだ。
教えてもくれないし。
皇の気持ちはわからないけど、オレが誰のものか、それを決めるのはオレ自身だ。
皇がどう思っているかは、関係ない。
だってもう、皇にどう思われていようが、オレはもう、どうしようもなく、皇のものだから。
「返事が遅くなって、すいませんでした」
もっと早く、答えが出せていれば、あんなことにはならなかったのかもしれない。
先輩に傷付けられたと思っていたけど、より深く傷付けたのは、オレのほうかもしれない。
「そうか。……わかった」
先輩はそこで、大きく息を吐いた。
「それにしてもお前、大変なヤツに気に入られたんだな」
「え?」
先輩が、エレベーターのボタンを押した。
扉はすぐに開いて、乗り込んだ先輩が、こちらを振り返って、また一つ大きく息を吐いた。
「ホント、悪かった。……何かあったら、遠慮なく連絡くれよ。もうお前にちょっかいかけないから」
「え?」
「……まだ死にたくないからな」
先輩は困ったように笑った。
エレベーターの扉が、先輩を乗せて、ゆっくりと閉まっていった。
「……」
大変なヤツ?死にたくない?
皇、先輩になんか脅しをかけたの?
だけど……先輩のあの感じ。
なんていうか、吹っ切れた感っていうか……"ただの先輩"に、戻ってた。
そう思ったらすごく嬉しくなって、ニヤニヤしながら生徒会室の扉を開けた。
「あ……」
さっきと同じポーズでソファに座っている皇が、さっきよりもさらに不機嫌オーラをまとって、オレをギロリと睨んだ。
「随分と楽しそうだな」
「楽しいっていうか……言いたいことを言ったら、スッキリしたっていうの?」
ここに来る前は、朝からずっと怖くて逃げたかったのに。
「……そなたが良ければそれで良い」
皇は相変わらず不機嫌だ。
でもこの不機嫌は、全然怖くないやつだ。
「あ!そういえば、さっきお前、知ってるって言ってけど、先輩がオレの代わりに会計の仕事をやってくれてたことを知ってたの?」
「ああ。余が依頼したゆえ」
「……は?」
「そなたが休んでいる間、代わりに会計の仕事をしておいて欲しいと、先輩に依頼した」
「え?」
どういうこと?
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