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独禁法⑥
何で皇が先輩にそんなこと……。
「詠に咎められた」
「え?」
ふっきーに?
……っていうか、何の話?
「そなたが休んで幾日か後に、そなたの様子を詠に聞かれ、わからぬと答えた。雨花は余を避けておるゆえ、と」
それを聞いたふっきーが、オレのところに怒りに来たのか。
「何故避けられているのか問われたが、答えずにおった。詠は余がそなたに何か酷いことをしたのだろうと、言うて参った」
「え?皇が?」
皇がオレに酷いことをしたんだろうって?
ふっきーって、皇にそんなこと言う人なの?皇至上主義者じゃなかったの?
「詫びたい気持ちがあるなら、そなたに誠意を見せろと言われた」
「え……」
その日、ふっきーは田頭から、会計業務が滞っていて困っているという話を聞いたらしい。
会計業務は特殊だから、オレの代わりが出来るのは、もと会計の本多先輩しかいないんだって。
皇のせいでオレが休んでいるのなら、休んでいる間の憂鬱を、一つでも減らしてあげるべきだ、本多先輩に頭を下げたらいいと、皇に言ってくれたんだそうだ。
オレを襲った先輩に、絶対頭なんか下げないと言った皇にふっきーは、鎧鏡の若殿が小さいことを言うな、誠意を見せたいのであれば、どれだけ気に食わない相手であろうと頭を下げるくらいのことをしてみせろ、みたいなことを言ってくれたんだそうで……。
ふっきーが皇にそんなことを言ってくれたなんて!
……でもそれも、オレじゃなくて皇のためなのかも。
ふっきーは、皇が幸せなら、自分以外の候補と上手くいってもいいって、言ってた。
ふっきーは、自分が有利になることは二の次で、いつも皇のことを考えてるような人なんだと思う。
皇のためになるのなら、自分がどう思われようが皇のことも怒れるし、敵に塩も送れる人なんだ。
オレはいっつも、自分のことでいっぱいいっぱいなのに。
オレ以外の候補様たちが、仲良くしているのが、ずっと不思議で仕方なかったけど……そうすることが、皇にとっていい環境だからってこと、なのかもしれない。
ふっきーは普通にそれが出来る人なんだ。
自分のことより先に、皇のことを考えられるような人だから……。
「皇」
「ん?」
「あの……ありがとう。会計のこと。助かった」
気持ちが複雑で、ありがとうに全然気持ちが込められない。
「礼は詠にするがいい」
「……うん」
笑いかけようと思ったのに、うまく笑えなかった。
「あ、ごめん。ふっきー、待ってるよね。教室に戻った方がいいんじゃん?」
皇をここにとどめておくことが、すごくいけないことのような気がした。
鎧鏡の嫁になるつもりなら、ふっきーみたいに、悠々と敵に塩を送れるくらいじゃなくちゃダメなんだ、多分。
駒様だって、皇が夜伽に出掛けるのを送って行ってるくらいだし。
オレみたいに、皇を独り占めしたいなんて思っているようじゃ、鎧鏡の嫁は務まらないんだ、きっと。
「オレ、書類片付けてから戻るから、先に教室戻って」
机に置かれたファイルを抱えた。
なるべく普通に話しかけたつもりだけど……うまくごまかせたかわからない。
皇がふっきーのところに戻るんだって思うと、苦しくて……泣きそうだよ。
だってオレは、ふっきーや駒様みたいにならなくちゃって思っても、今はまだ、全然そんな風に思えない。
「ホントありがとう」
皇の顔も見ずに礼を言って、ファイルを棚に入れようと、手を伸ばした。
思い切り手を伸ばしても、届かない場所しか置き場所は空いていない。
……皇みたいだ。
どれだけ手を伸ばしても、届きそうにない棚を見つめてそう思った。
諦めて踏み台を持ってこようとすると、ぐわっと体を持ち上げられた。
「うあっ!」
「これで届くか?」
皇がオレの両脇を抱えて、持ち上げている。
「ちょっ……」
「早う致せ」
「あ、うん」
ファイルを棚に入れたあと、足が床に付くと、後ろから皇に抱きしめられた。
「な、に……」
「もう余は用済みか」
「え?」
「早う戻れなぞ……」
耳に囁いて、キスをしてくる。
あの日の行為が、ぶわっと蘇って……小さく体が震えた。
耳たぶを甘噛みされて、体ごと崩れそうになる。
「はっ……」
短く吐いた息が、熱い。
「求めておるのは、余だけか」
皇はオレの顎を持って、自分のほうに向かせると、唇を合わせた。
「んんっ」
「そなたは、余を求めぬのか」
「どうしてそんなこと言うんだよ!」
せっかく鎧鏡の嫁にふさわしい、懐の深い人間にならなくちゃって……だから皇をふっきーのところに戻さなくちゃって……頑張るつもりだったのに!
皇の肩を掴んで、オレから何度もキスをした。
余を求めぬのか?
そんなことを聞かれたら……頑張れない。
欲しくて、欲しくて……たまらない。
お前を誰にも、触らせたくない。
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