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独禁法⑦

「んっ……はぁ……」 どんどん、深くなる、キス……。 すぐにこの前の夜の皇が、頭に浮かんだ。 皇に触られた記憶が、次々と肌に蘇ってくるようで、まだ直接肌に触れられてもいないのに、期待するように、体中のそこここで、小さく反応し始めてる。 もっと、もっと……繋がり、たい。 皇の腕にしがみつくと、急にキスを止めた皇が、オレを強く抱きしめた。 「は、あ……」 何? そのまま力を込めた皇が、一つ大きく息を吐いた。 「ならぬ」 腕の中から皇を見上げると、オレの唇を指でなぞって、また強く抱きしめてきた。 「これ以上はならぬ」 何、で? 「今抱けば、余はまたそなたを……傷付ける」 「え?」 オレの体を放した皇が、持って来たお弁当を掴んだ。 「先程……嬉しそうに戻って参ったそなたを見てから、そなたが先輩に笑いかけたのかと……腹が立って、おさまらぬ。そなたに余の存在を、これでもかというほど、わからせてやりたくてたまらぬ」 「笑いかけてなんか……」 さっき嬉しそうだったのは、先輩に言いたいことが言えたからで、オレは先輩に笑いかけてなんかない。 「そなたの行動が問題なのではない。余の心の狭さが、許せぬ。今そなたを抱けば……あの日のように、そなたを思いやれる自信がない」 皇は『もう二度とそなたを傷付けたくないのだ』と、自分の言いたいことだけ言って、生徒会室を出て行ってしまった。 「な、んだよ……それ……何だよ!」 胸がモヤモヤっていうか……ムカムカする。 皇が出て行ったのは、それだけオレのことを、大事にしてくれてるからなんだろうけど……。 「違うよ、バカ」 傷付けないで欲しいなんて……言ってないじゃん。 それよりオレは……。 「バカ……」 ここに、いて欲しかった。 落ち着いたあと、ファイルの整理をしながら、皇のあとを追えなかったオレだって、バカじゃんって思った。 皇を追えなかったってことは、オレを傷付けたくないって言った皇に『そうですね。傷付けないでくださいね』って、返事をしたのと同じことだ。 「はぁ……」 ファイルを片付けて、ソファにどっかり座ると、エレベーターが開く音が聞こえた。 「っ!」 もしかして、皇が戻って来た?! 急いでドアに駆け寄ると、入って来たのは、サクラだった。 「あ……サクラ」 「うわぁ、何?その、明らかに、がいくんじゃなくてざーんーねーんー的反応は!」 「えっ?!」 図星、なんだけど……『ごめん』とか言うと、さらに突っ込まれそうで、何も言えなかった。 「せっかくお弁当持って来てあげたのにー!」 「あ、ありがとう!」 お弁当を見て、ぐうぅとお腹が鳴った。 「あははっ。はい」 「ありがと。サクラはもう食べた?」 「うん」 お弁当をオレに渡したサクラが、ソファに座ってニヤリと笑った。 「ねぇねぇ、ばっつん」 「ん?」 サクラの前に座って、早速お弁当を開いた。 「どうして僕がお弁当持って来たのか、不思議じゃない?」 「え?……別に」 ここにオレがいるのは、サクラは知ってたんだし、オレが遅いから届けてくれたってことじゃないの?何も不思議じゃない。 でもわざわざ聞いてくるってことは、サクラがお弁当を持って来た理由を聞いてくれってことなんだろうけど。 朝からのサクラを思い出すと、その理由を聞くのがためらわれる。 「本当は聞きたいんでしょ?」 「……」 いや、お前が言いたいんでしょ? 「もー!ばっつんの知りたがりさん!あのね?がいくんが僕のとこにやって来て『柴牧はまだかかりそうだから弁当を持って行ってやってくれ』って、頼んできたんだよぉ!」 「嘘?!」 「嘘?僕だって、むしろ夢なら良かった!もー!この激しい萌えをどうしたらいいの?ねぇ!僕、攻めのデレに巻き込まれてる!もうこれ、一人じゃ処理しきれないよ!うちの学校のホモップル事件簿ブログを更新だ!」 何、そのブログ? サクラがおかしいのはわかったけど、まさかここまでとは……。 まあ、ある意味、親近感が沸いた気もするけど。 「ほっぺたつねって!」 「え?はい」 言われた通り、サクラのほっぺたを思い切りつねってやった。 「ぎゃっ!痛っ!うおおお!夢オチじゃない!」 「……はぁ」 うん。もうサクラは放っておこう。 オレは叫び続けるサクラを無視して、お弁当を食べ始めた。 「ねぇねぇ、おいしい?がいくんが持って行けって言ったお弁当!」 お弁当がおいしいかどうか聞くのに、"皇が持って行けって言った"ってくだり、いらなくない? ……とか思ったけど。 いつもより、おいしいよ。 皇が、持って行ってなんて、サクラにわざわざ頼んでくれたお弁当。

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