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独禁法⑧
「そうだ!ねぇばっつん、修学旅行の持ち物プリント、見た?机の中に入れておいたんだけど」
「え?ホント?ものすごくたくさんプリント入ってたから、まだ見てないや。とりあえず、休んでる間のノート写すので精一杯だった」
休み時間ごとに湧いてくる、あの廊下の人だかりにジロジロ見られながらだと、ノート写しも全然進まなかったんだよね。
早く戻って、また田頭に写させてもらおう。
あいつ字が綺麗だから、ノートも見やすいんだ。
っていうか、修学旅行、パリに行くってこと以外、まだ何にも内容を知らないや。
「修学旅行って、パリだよね?どこらへんを廻ることになってるの?自由時間とか、どれくらい取れるかな?」
はーちゃんがパリに来るとか言ってたし、出来るだけ自由時間が多いといいなぁ。
「え?」
目の前のサクラの顔が、ハテナでいっぱいになっている。
「え?」
オレ、何か変なこと聞いた?
「それは行ってみないとわかんないんじゃん?」
「は?」
「あれ?……あ、そっか!ばっつん、知らない?転入生には説明ないの?うちの学校の修学旅行って、毎年サプライズ旅行なんだよ?」
「……は?」
サプライズ旅行?
って、何?
「なんかね、毎年すごいことをさせられるんだって。でも先輩たちに修学旅行の内容を聞いても、絶対に教えてくれないんだ。後輩に話すと退学なんだって」
「ええっ?!」
そんなことで退学?
どんだけサプライズなの?
ってか、すごいことをさせられるって、何をさせられるの?
修学旅行って、楽しいことばっかりの観光中心旅行だと思ってた。特にパリだし。
「どんな旅行だろうと、がいくんとばっつんがイチャイチャ出来るように、僕、張り切るからね!」
「え?」
「楽しみー!」
サクラはきゃっきゃっしたまま『僕戻るね!ばっつんがいなくてソワソワしてるがいくんの観察しなくっちゃ!』と、出て行ってしまった。
「……」
皇がそわそわなんて、するわけないじゃん。
に、したって……結構楽しみにしていた修学旅行が、俄然心配になってきた。
はーちゃんには会えないかもしれないって、連絡しておいたほうがいいかも。
いや、そっちより何をさせられるんだろう?
「あ!いそがなくちゃ!」
残りの書類をファイリングし終えたところで、予鈴が鳴った。
オレは急いで教室に戻った。
「はぁー、セーフ!」
廊下の人だかりは綺麗になくなっていた。
良かったぁ。普通に教室に入れるじゃん。
「あ、雨花ちゃん!」
教室に入ろうとしたところで、後ろから声を掛けられた。
ふっきーだ。
「ちょうど良かった」
「え?」
何?何?
「休んでる間のノートの写し、終わってないんだって?」
「え?」
うん、全然終わっちゃいないけど。
何でそんなこと知ってるの?
「朝からずっと、休み時間たびノート写してたでしょ?でも全然終わってないよって、田頭から聞いたから。はい、これ」
ふっきーが紙の束をオレに渡した。
「え?」
「今、僕のノートのコピーをとってきたんだ」
「え?……どうして?」
どうしてふっきーがそんなことしてくれちゃうわけ?
「え?余計なお世話だったかな?」
「え……ううん。すごく助かる、けど……」
ふっきーに親切にされるのって、何か、違和感……。
「雨花ちゃん、朝も言ってたね」
「え?」
「すめと雨花ちゃんがうまくいかないほうが、僕にとってはいいんじゃないかって」
「……うん」
「雨花ちゃんからしたら、僕がこんな風にノートを渡すのも、理解不能って感じなのかな」
「……」
まぁ、そうだよね。
オレならきっと……ここまでしない。
「雨花ちゃんにとって僕は……憎い敵、なのかな」
「えっ?」
思っていることをズバリと指摘されたみたいな気がして、ものすごいドキドキした。
憎い……わけじゃないけど。
『敵』とは……思っ、てる。
「なんとなく雨花ちゃんって、僕に対してギクシャクしてるかな、とは思ってたけど」
バレてる。
『そっか』と言ったふっきーは、小さくため息をついて、メガネをくっと上げた。
口をきゅっと結んで『普通はそうか』と、小さく呟くと、軽く頭を掻いた。
その様子がやけに様になってる。
同じ日に会った梅ちゃんが、派手で可愛いからだろうけど、ふっきーはオレの中でずっと地味キャラだった。
でもふっきーって、よく見るとカッコイイ人なんだよね。
納涼祭の時のふっきー、すごくキレイだったし。
背も高いし、共学校にいたら、絶対モテるタイプだと思う。
頭もいいし。でもガリ勉タイプじゃなくて、嫌味っぽくならずに誰にでも優しくて、気がきいて……。
「……」
ふっきーのいいところをあげればあげるだけ、自己嫌悪……。
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