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独禁法⑨

「雨花ちゃんに言われて思ったんだけど……僕はさ、雨花ちゃんのこと、すめの奥方様候補同士っていうより、鎧鏡の家臣として同胞っていう意識のほうが、強いんだと思う」 「え……」 「同胞が困ってたら、助けるのは当たり前じゃない?だから僕にとっては、雨花ちゃんに手を差し伸べるのは、当たり前のことなんだよ」 「……」 ふっきーとオレの意識の違いに、愕然とした。 「まぁでもさ、一般的には雨花ちゃんが普通なんだよね、きっと」 「え?」 「僕は小さいうちから、何かっていうと、鎧鏡の家臣たれって言われながら育ってきたんだ。先祖が受けた恩を忘れるなって。だから何をする時も、鎧鏡家のためになるかどうかをまず考える癖がついちゃってる。柴牧家なんて重臣だし、雨花ちゃんはもっときつく言われてきたんじゃない?それでも僕みたいな考え方になってないってことは、雨花ちゃんってバランス感覚のいい人なんだろうね」 「……」 何の返事も出来なかった。 オレは奥方教育どころか、鎧鏡家との関係すら、父上から教えられていなかった。 その事実は誰にも話さないようにって、駒様から言われてる。そんなことを言ったら、父上の鎧鏡家への忠義心を疑われて、大変なことになるかもしれないからって。 ふっきーはオレが普通って言ったけど、普通なのはきっとオレじゃない。 鎧鏡の家臣の家に生まれたら、ふっきーみたいに育てられるのが普通なんだ。 駒様だって言ってたじゃん。 『私は奥方候補の前に若様の上臈です』って。 駒様だって、皇の嫁候補って前に、家臣ってことだ。 ふっきーの話で、痛いくらい自覚してしまった。 小さいうちから鎧鏡についての教育を受けているかいないかで、どれだけ意識が違うのか。 どうせ皇に選ばれないなら、一家臣として皇に接したほうが気が楽だなんて思ったりもしたけど……そんな生易しいものじゃ、ないんだ。 オレは皇の役に立つ人間でいたいと思ってた。今も思ってる。 でも皇の助けになるには、オレみたいに、鎧鏡の家臣としての意識が低い人間には、無理なんじゃないの? ただ皇が好きっていうだけじゃ、全然、ダメなんじゃないの? ふっきーが鎧鏡の家臣たれって育てられてきたとしたら、皇は、鎧鏡の殿様たれって言われて育てられてきた人だ。 誰より、鎧鏡の殿様でいたい人なんだ。 そんな皇を助けられるのは……こんなオレじゃ、ダメなんじゃないの? 「ノート、ありがとう」 渡されたノートのコピーを胸に抱えた。 やっぱりモヤモヤは消えないけど、突き返すとか、そんなこと出来ない。 「ううん。何か……余計なお世話だったかな?でも雨花ちゃんの役に立てるとしたら、嬉しいなって思うよ」 そう言って笑ったふっきーの言葉には、何の裏もないって思った。 もう一度ふっきーに『ありがとう』と言って、席についた。 席についてから、休んでいた間、ふっきーが皇に色々言ってくれたことのお礼を言ってなかったことに気が付いた。 「……」 ふっきーは敵に塩を送れる人だと思ってたけど、違う。 ふっきーはオレを敵だなんて思ってない。 それどころか同胞だって……仲間だと思ってくれてるなんて。 ふっきーを敵扱いしてた自分が、ものすごく……小さく思えた。 ふっきーも駒様も、なんていうか、オレより全然、上のほうから世界を見てるみたい。 オレは皇しか見えてなくて……皇に好かれたいってことしか考えてなくて……。 でも二人は、皇の先に『鎧鏡家』が見えてる。 それは皇が見ている世界と、同じ……なんじゃないの? 二人はきっと皇と同じ視点で、世界を見られる人なんだ。 つまらない嫉妬なんかしないはずだよね。 だってふっきーと駒様は、オレよりもっとずっと……高い次元で生きてるんだから。 皇を独り占めしたいと思ったさっきの自分が、ものすごく恥ずかしく思った。 皇は鎧鏡の殿様になる人だ。 独り占めなんて……出来たとしても、本当に独占してしまうような人間が、鎧鏡の嫁になんてなったらいけない。 でも!オレだって……独り占めしたいとは思うけど……でも……皇にオレのことだけ見てて、とか、鎧鏡家のことよりオレを大事にして、とか、そんなこと、言うつもりなんか、ないよ? ……ホントはちょっと……そんな風にも思ったり、したけど。 でも、そうじゃなくて、全然いい。 もうそんなこと、思わないようにする。 「……」 だけど……やっぱり一番近くに、いて欲しいよ。オレだけ見ててとか、言わないから。 皇の一番近くで、皇が大事にしてる全部を、一緒に守るのが当たり前の人に……なりたいよ。

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