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はじめてのおつかい①
2月2日 薄曇り
今日は、鎧鏡家に来てから初めてのおつかいです。
でも……一昨日の夜から気分は凹みがちです。
「雨花様、忘れ物はありませんか?」
「え?はい、多分。えっと、ハンカチとティッシュと、携帯。お財布とカード、万が一のための絆創膏」
いちいさんとの持ち物チェックは、すでにこれで三回目だ。
小学校の時の遠足だって、持ち物の再チェックなんてここまで念入りにしなかった。
「何かあったら、すぐに私共にご連絡くださいね?」
「ふぁい」
あ!ついあくび混じりの返事になってしまった!いけない、いけない。
「寝不足、ですよね」
「あ、ごめんなさい」
夕べ、今日オレが着ていく服が決められないと言うとおみさんに、とっかえひっかえ色んな服を着せられた。
ドクターストップならぬいちいさんストップがかかって、何とか決めたとおみさんから解放されたのは、夜中の1時過ぎだった。
で……今朝5時過ぎにはもう起こされていたっていう。
『もしかしたら若様は早めにいらっしゃるかもしれませんので』って。
皇がここに迎えに来るって言ってた時間は10時だ。
……現在8時。
いちいさん、いくらなんでも早過ぎます。
「もう少し長く寝ていらしても、大丈夫だったかもしれませんね。申し訳ございません」
「約束は10時でしたしね」
「若様のことですから、お約束よりも早くお迎えにいらっしゃるかもしれません」
「そうですか?それにしても早過ぎなんじゃ……」
いくらなんでも二時間前に来ないでしょ?
「お正月のことがありますので……」
「え?」
お正月?何かあったっけ?
「若様が雨花様をご実家までお迎えに行かれた時……あ!そうでした。雨花様はご存知なかったのですよね」
「え?」
出た!『雨花様はご存知ない』。
オレを実家に迎えに来てくれた時のこと?
あれ、何かあったの?
そういえばここに帰って来た時、いちいさんがなんか、思わせぶりなことを言ってたっけ。
「話すなと命令されてはおりませんので、お話してもいいですよね。あの日、前もって頂いていた予定では、若様は毒見役と朝食を召し上がったのち、雨花様をお迎えに行かれることになっていたのです。それが、朝早く若様自ら私に連絡していらして、梓の丸で雨花様を迎える準備が出来ているなら、早めに迎えに行っても良いかと、聞いていらっしゃいました」
「え……そう、だったんですか」
実家で皇と電話をした時、明日だったら時間が取れるとか言ってた割には、毒見役さんを待たせるから急げ!なんて言ってたから、本当は忙しいんじゃん!って思ってたんだよね。
何か予定があったのに、無理して迎えに来てくれたってこと?
こっちはヨロヨロのパジャマで帰らされるわ、父上たちに挨拶もろくに出来ないわでバタバタだったんだ。忙しいならわざわざ皇が来てくれなくても、ちゃんと帰れたのに。
って……オレは今、皇にちょっと意地悪かも。
だって……。
「はい。若様から時間を早めた理由は聞いておりませんが……その日、他に何かご用事があってお迎えの時間を早めた訳ではないようです。でしたら普通に考えて、早く雨花様にお会いしたかった、ということになりませんか?今日もそうなら……」
「それはないと思います」
いちいさんの言葉を遮って否定した。
お正月はどうでも……今日、皇がオレに早く会いたがってるとか……絶対ないよ。
「どうなさいましたか?」
だって……。
「金曜日……渡ってこなかったじゃないですか」
いつも金曜日に渡ってくる皇が、一昨日の金曜日は、来なかった。
会いたいとか思ってくれてるなら、一昨日だって来るはずじゃん。
「ああ、先日からお元気がないのはそのせいでしたか」
「げっ……元気です!」
「若様が一昨日いらっしゃらなかったのは、今日雨花様にお会いになるからですよ?候補様をお一人だけ特別扱いしてはいけませんので、若様は各候補様へのお渡りの回数を、きっちり同じになさっていらっしゃいます」
「え?そうなんですか?」
オレに会いたくなかったからじゃなくて?
あ……凹んでた気分が、今、一気に浮上した。
「はい。ご心配いりません」
「心配、してたわけでは……」
いや、してたけど。
いちいさんはふふっと笑った。
「さて、若様がいらっしゃるまで、少し横になりますか?せっかくのお出掛けで、あくびばかりではいけませんし」
「あ、はい。そうします」
『すぐ出られるようにして寝てくださいね』と言って、いちいさんは部屋を出て行った。
「……」
オレ、多分ものすごいニヤニヤしてる。
落ち着け!オレ!
金曜……渡りがなくて、確かにオレ、すごいショックだった。ついさっきまで。
でも側仕えさんたちの手前、元気にしてたつもりだったのに、落ち込んでるのがバレてたなんて!
まさかオレって顔に出やすいの?
そうだとしたら、このウキウキを落ち着かせないと!
こんな浮かれてるのが皇にバレたら……恥ずかし過ぎる!
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