161 / 584

はじめてのおつかい④

「おは、よ……」 え?梅ちゃん? ……が、なんで乗ってるの? 「雨花」 先に車に乗り込んだ皇が、梅ちゃんに驚いて固まっているオレを呼んだ。 「あ、うん」 なんで?え?二人じゃ、ないの? 何が何だかわからないけど、確実にガッカリしたオレを乗せて、車は滑らかに発進した。 しばらく走った車は、駅前のターミナルで止まった。 ここが目的地? 窓の外を窺うと、こちらに向かって走ってくる女の子が見えた。 あれは! 「珠姫!」 梅ちゃんが車から降りて、走って来た珠姫ちゃんを抱きとめた。 そのまま手を取り合って、二人でぴょんぴょん跳ねている。 ……何だ?この可愛いカップル。 っていうか、珠姫ちゃんも一緒なの? ……何か急に、緊張してきた。 「降りるぞ」 隣に座っていた皇が、先に車を降りてオレに手を伸ばした。 「え?ここで降りるの?」 皇の手を取って車を降りた。 「そなた、(えい)への贈物は何にするか決まったのか?一位からは、そなたが贈物を決めかねておるゆえ、街中を歩きながら見繕って欲しいと頼まれた。決まっておるなら店に向かう」 「あ……決まってない」 今日の目的、完全に忘れてた! サイアク。 浮かれてる場合じゃないじゃん! ふっきーに対しては、色々思うことがあったけど……ふっきーはオレを仲間だって思ってくれてる人で……。 きっとそう思ってくれてるのは、本当だと思う。だってふっきー、オレのことちょいちょい助けてくれてるし。 そんな日頃の恩を返せるような物を贈ろうって思ってたのに。 皇と出掛けるってことばかり頭の中を占めてて、ふっきーへのプレゼントを何にするか、全然決まってなかった! しかも金曜日に皇が渡ってこなかったことで、めちゃくちゃ落ち込んでたし……。 ふっきーや駒様みたいに、もっと広い視野で、鎧鏡全体のことを考えられるような人にならなきゃ!とか、思ったのに……皇のことばっかりじゃん、オレ。 何度目かわかんない自己嫌悪だよ。 「あ、ねぇ、ふっきーってさ、どんな物が好きなの?」 皇にふっきーの好きな物を聞くとか、何か……モヤモヤするけど……。 いやいや!そんなつまんないヤキモチ焼いてる場合じゃない! 「そうだな、あれは変わった趣味をしている。誠、喜ぶ物となると、難しい」 「変わった趣味って何?」 「自分でパソコンを作っては、名前を付けておる」 「は?」 そこに、しばらくぴょんぴょんしていた二人がやって来た。 「雨花ちゃん、久しぶり!」 珠姫ちゃんは、オレに向かって片手を上げた。 え?待って待って!珠姫ちゃんってオレのこと、あんまり良く思ってなかった、よね? 最遠の方様の話が頭に浮かんだ。 オレは今の今まで、珠姫ちゃんがちょっと怖くて……珠姫ちゃんのこのノリにどう返したらいいの? さらに緊張して固まった。 「あ、うん。久しぶり、デス」 「ええー?何、緊張してんの?」 珠姫ちゃんが吹き出した。 だって緊張もするでしょ、そりゃあ! 珠姫ちゃんとは、学祭の時に会っただけで、あの学祭の時の珠姫ちゃんとオレって、打ち解けるような要素、ほぼなかったじゃん! 『雨花ちゃん』とか、呼んでくれたから、ちょっとは候補として認めてもらえたのかな、とは……思ったけど。 でもどう考えたって、珠姫ちゃんから好かれてると思える要素ゼロだったじゃん! 「雨花にとって、お前との出会いは最悪であったろう。お前は雨花に嫌われておっても文句は言えぬ」 「ちょっ!嫌ってなんかないよ!」 なんてこと言うんだよ!皇のバカ! せっかくいい感じで、珠姫ちゃんが話してくれてるっていうのに! 確かにちょっと怖い、とは、思ってるけど。 だって珠姫ちゃん、皇の威圧感半端ない睨み方とか、そっくりだし。 「確かに……あの時の私、最悪だったって思う」 珠姫ちゃんがしゅんとした。 「そ、そんなこと!本当に嫌ってなんかないから!」 しゅんとしてる珠姫ちゃんって、ちょっと可愛い、とか思った。 「ホント?!あ、言っとくけど私だって雨花ちゃんのこと嫌ってないからね?」 「えっ?!ホント?」 あ、すごい喜んじゃった。恥ずっ。 「あんな意地悪しておいて、何言ってんだって思うかもしれないけど……」 「思うに決まっておる」 「お兄ちゃんは黙ってて!」 皇が顔をしかめて黙った。 言われた通り黙る皇とか……案外皇ってシスコンだったりして。 「でもお兄ちゃんのお嫁さんとして認めるかどうかは、また別の話だから」 「あ、はい」 ですよね。 「誰がお嫁さんに決まっても面白くないだろうけど」 珠姫ちゃんは小さい声でそう言うと『行こ!』と、梅ちゃんの手を引いた。 珠姫ちゃんって、皇に言いたい放題で、皇のこと困ったお兄ちゃんだと思ってるのかと思ってけど、実はブラコン? ……あんなお兄ちゃんなら当然か。 珠姫ちゃんは誰が嫁に決まっても面白くないって言ってたけど、嫌われてはいないみたいだし……とりあえず良かった。 「行くぞ」 皇がオレの背中をポンっと押した。

ともだちにシェアしよう!