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はじめてのおつかい⑦

「猫用品?」 ふっきーにだよ? 「そう」 「え?ふっきー、猫好きだったの?」 初耳! ふっきーが動物を愛でる姿があんまり想像出来ないんだけど。 梅ちゃんがぷっと吹き出した。 「詠さん、猫好きって感じじゃないよね。でも御台様から贈られた猫を飼ってるはず。雨花ちゃんも5月くらいに、犬を貰ったんでしょ?あの頃、候補全員に御台様から動物が贈られたんだよ」 「……へぇ、そうなんだ?」 シロって、オレが鎧鏡にいるための理由として、母様があの時、咄嗟にくれたものだとばっかり思ってた。でも皆も貰ったなら、そうじゃなかったってことか。 ちょっとガッカリした気持ちになっていると、皇が隣でわざとらしくため息をついた。 「何?」 「そなたは誠、呑気なものだな。御台殿は、そなたにシロを譲ったゆえ、他の候補にも何がしか贈らねばならなくなったのだ」 「えっ?どういうこと?」 「鎧鏡一族は、候補一人を優遇してはならぬと聞いておろう?御台殿はそなたにシロをやったゆえ、そなたばかりを優遇しておると言われぬよう、候補皆になにがしかを贈らねばならなくなったのだ。シロが小さな生き物であれば隠せたやもしれぬが、シロは目立つ。しかもそなたは呑気にシロを連れてフラフラ散歩に出歩くゆえ、そのような裏工作が必要になったのであろう」 「嘘っ?!」 「嘘ではない。そなたには黙っておるよう言われたゆえ黙っておったが、梅が暴露したゆえつい余も話した」 「えー!?今のは兄様が勝手に話したんじゃないですか!だって僕、そんな裏事情知らなかったし!」 梅ちゃん、皇のこと兄様って呼んでるんだなぁ。ま、嫁になる珠姫ちゃんのお兄さんだもんね。 「そうよ!みよしのせいにしないでよね!でも朋ちゃん、そんなことで怒らないでしょ」 珠姫ちゃんは母様を"朋ちゃん"って呼んでるんだ?!お館様とおんなじ!うわー……何か裏事情が知れたようで楽しい! 「御台様からのあのプレゼントにそんな裏事情があったなんて!詠さんも、何か急に御台様から猫をもらったんだけど、って、すごい不思議がってたから教えてあげたいなぁ」 「話すでない。どこから広がるかわからぬゆえ」 「わかってますよ。駒様にも、なるべく他の候補と接触しないようにとか言われるし。僕はどれだけおしゃべりだと思われてるんですか。心外だなぁ」 ってことは、駒様は梅ちゃんの正体を知ってるってこと? 「詠さん、猫の存在自体忘れてそうじゃない?雨花ちゃんが猫用品でもあげたら思い出すかもよ?」 梅ちゃんがそう言って笑うと、皇が『そうでもない』と、持っていたお椀を置いて、梅ちゃんの話を遮った。 「え?あの詠さんが猫を可愛がってるんですか?」 「ああ。スミという名を付けて可愛がっておる」 それを聞いて、胸がチクチクした。 皇からふっきーのいいところを聞くのって……何かやっぱり、胸が痛い。 「へぇ。じゃあ猫用品をあげたら、詠さん普通に喜ぶんじゃないの?」 「あ、うん。……そうだね」 「近くにペットショップあったっけ?」 「あるある!買う物が決まったんだから、早く買い物して、水族館でも行かない?ね?いいでしょ?お兄ちゃん」 水族館? 「ああ。お前たちはそのために付いて参ったのであろう」 「当たり前じゃない!」 「毎回毎回、余をだしに使いおって」 「今回はお兄ちゃんだって雨花ちゃんが一緒なんだから、一人でぼーっとしてなくていいじゃない」 ああ!梅ちゃんと皇がよく一緒に出掛けてたのって、珠姫ちゃんと梅ちゃんのデートのためだったってこと?! うわぁ、そうだったんだ。 今日もそれが目的で一緒に来たのか。 「だしだなんて、今日は違いますよ?雨花ちゃんが一人で兄様と出掛けるなんて言ったら、それこそ一人だけ優遇してるって噂を立てられるでしょう?その噂予防ですよ」 「よく言うな」 皇は梅ちゃんを睨みつけたあと、優しい顔で笑った。 料亭を出たあと、水族館に早く向かいたいらしい珠姫ちゃんは、あれ?あっちだっけ?と言いながら、ペットショップを探しつつ、オレたちよりだいぶ先を歩いていた。 「兄様、あの料亭すごくいいですね」 そう言った梅ちゃんに、オレは大きく頷いた。 「うんうん、ホント!長居したくなるような落ち着くお店だったよね。奥座敷なんていうから、どんなすごい部屋かと思ったら、掘りごたつで……こたついいなぁ。うちの実家も、毎年こたつ出してたから」 梓の丸にも置きたいけど、完全なる洋室だからなぁ。 「こたつ……」 「え?」 呟いた皇を見上げた時、すぐ隣にいた梅ちゃんが急に走り出した。 「えっ?どしたの?」 梅ちゃんが走って行く先を見ると、随分先を歩いていた珠姫ちゃんが、知らない男に声を掛けられていた。 「うわ!え?大丈夫?」 「下手に手を出すとあとでうるさい。そなたも黙って見ておれ」 皇がそう言うので、立ち止まって見ていると、梅ちゃんが珠姫ちゃんを自分の後ろに下がらせて、男の前に立った。 しばらく話しているようだったけど、相手の男が梅ちゃんの肩を掴んだのを見た瞬間、相手の男は宙に浮いて、地面に叩きつけられていた。 「う……わぁ!」 梅ちゃん、ホントにすごいんじゃん! 「今日はまだ穏便だな」 「え?」 相手、飛んでたけど。あれのどこが穏便なの? 梅ちゃんは珠姫ちゃんの手を取って歩き出した。 うわぁ。 「梅ちゃん、カッコイイなぁ。オレに護身術教えてくれないかな?」 そう言ったオレを皇が冷たく見下ろした。 「梅になど教えさせぬ」 「え?」 「余が指南してやろう」 皇が口端を上げた。

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