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はじめてのおつかい⑪
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「うわぁ!」
気分が落ちたままダイニングに入ったのに、並べられた料理を見て、少なからずテンションが上がった。
今夜の夕食は一段と豪勢だ。昼の料亭の料理にも全然見劣りしない。今夜は皇がいるからか、ふたみさん、頑張ったんだろうな。すごい美味しそう!
「機嫌が直ったか?」
後ろに立っていた皇が、オレの背中を軽く押した。
「え?」
機嫌が直ったかって……。
顔に出したつもりはなかったのに、やっぱりオレってわかりやすいのかも。
「雨花様はまた何か落ち込んでいらしたのですか?」
いちいさんがご飯を渡してくれながら笑った。
「落ち込んでおったのか?」
「はい。雨花様は金曜日、若様のお渡りがないからと……」
「いちいさーんっ!」
それは言ったらダメなヤツー!
皇を見ると『ん?』というような顔をしたあと、オレを見て口端を上げた。
……バレた!
あの顔は、オレが落ち込んでた理由がわかった顔だ!
いちいさぁん!
「そうか」
皇がすごく……優しく、笑った。
何か全部……どうでもよくなっちゃうじゃん!そんな風に笑われたらさー!
恥ずかしくて、ぶつかった皇の視線から逃れるように顔を逸らした。
「梓の二位の腕は相当だと、仲居頭 が申しておったが、そなたの機嫌を直す程とはな」
「機嫌はもともと悪くない!でもふたみさんのご飯、お昼の料亭並みだろ?普通テンション上がるじゃん!美味しそうな料理を見たらさ!」
「そうか?」
「そうだよ!」
皇がふっと笑った。
そこから今日のお昼の料亭の話が始まって、ふっきーへのプレゼントを何にしたかとか、今日あったことを、側仕えさんたちに話していると、あっという間に、夕飯が終わった。
楽しい食卓って、癒し効果があるのかも。あんな落ち込んでたのに、ご飯を食べ終えた頃には、胸がほんわかあったかくなっていたから。
「お風呂はどうなさいますか?駒様にご連絡いたしましょうか?」
夕飯を終えて、部屋まで一緒に来たいちいさんが、そう皇に訊ねた。
皇、いつもは本丸でお風呂を済ませてから、渡って来てたんだよね、多分。
また皇の世話係がたくさん来るのかと思ったら、皇は『呼ばずとも良い』と、断った。
「一人でお風呂入れるの?」
「あ?そなたは余をなんだと思っておる?」
皇が顔をしかめながら、風呂場に入って行った。
なんだと思ってるって……一人じゃ日常生活送れないヤツだと思ってる。
「あ!雨花様も若様とご一緒なさっては?」
「うえっ!?なっ!なさいませんっ!」
「若様は貴重なお休みに、雨花様のお買い物にご一緒してくださったのですよ?お背中をお流ししてさしあげても良いのでは、と、思ったのですが」
そっ!そんなの!そんなの無理です!皇の背中を流すとか、高等技術過ぎる!だってオレ、皇の裸とか……ぜ、全然っ見慣れてないし!絶対無理!
でも……いちいさんの言うことは、確かにそうだ。今日、皇にとって貴重なお休みだったろうに、オレの買い物に付き合ってくれたんだもんね。
「では、若様のお着替えを、あとで風呂場にお持ちいただいて良いでしょうか?」
「あ……はい!」
それくらいなら……。
「うちにも湯殿係がいれば良かったのですが……」
「え?」
「あ、いえ。では私は失礼致します」
いちいさんは『明日5時過ぎに起こしに参ります。ごゆっくりなさってください』と言って、部屋を出て行った。
「着替え……持っていかなきゃ」
いちいさんに渡された、皇の寝巻きを持ってお風呂場に向かった。
「皇!入っていい?」
風呂場のドアの前で大声を出すと、中から『ああ』と返事があった。
脱衣所に入ると、皇の脱いだ服が、綺麗にたたまれている。
皇って、服たためたんだ?そう思って、ちょっと吹き出した。
「着替え、置いてあるからね!」
白い寝巻きを置いて出て行こうとすると、風呂場の中から皇に『雨花』と、呼ばれた。
「ん?」
「早う入って参れ」
「はあっ?!」
「入って良いかと尋ねたであろう」
「え?」
何言って……あ!さっき言った『入っていい?』ってやつ?こいつまた、おかしな勘違いしてるし!
「一緒に入っていいか聞いたわけじゃないから!」
風呂場から、皇の『あぁ?』という不機嫌な声が聞こえた。
「オレ、これから課題やるし」
「ああ、休んでいた時の課題か」
「うん。……あ、あの、さ、皇?」
「ん?」
「今日、さ」
「……ああ」
「一緒に行ってくれて……ありがと」
そう言って、逃げるように脱衣所を出た。
背中を流すとか、それは無理だけど!でも、お礼はちゃんと、言っておきたかったから。
って、そのわりに言い逃げしちゃったけど!もう!何照れてんの?オレのバカ!
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