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はじめてのおつかい⑫

学校を休んでいた間の課題を、鞄から出して机に向かった。 でも、勉強どころじゃない! ドキドキしちゃって……っていうか!半端なくドキドキしちゃってー! 休んでた間の課題を今日で全部終わらせて、明日からは普通に授業に付いていこうって思ってたのに! 明日学校だし、皇が今夜渡るとか、頭の中に全然なかった。だから買い物から帰ったら、課題を終わらせようって思ってたんだ。でもこのままじゃ終わらない。 だって……渡るって、そういう、ことになる?のかな? もうそんなことばっかりが頭の中を占めてる。 どうしよう……。また、どうしてこんな時に限って、シロはどっかに行っちゃってるんだよ!もー!どうしよう。 だって……皇と、そういうことになるのって……三度目に、なるんだろうけど……でも一度目は、オレの心の準備とか、全然関係なかったし。二度目の時も……なんかその、そういう流れ、だったし。 だから言うなれば!今日が初めての"心の準備"な、わけで。 ちょっ、待っ、これ……転校の挨拶とか、入試とか、もう比べ物にならないくらい緊張なんですけど。 展示会に出た時も、父上が首をはねられるかもとか思って変な緊張感はあったけど……今のほうが、断然緊張してる。 ……どうしよう。どんな顔してたらいいの? さっきまで落ち込んでて、そんなこと全然考えられなかったのに、皇がお風呂に一緒に入れとか言うから、急に意識しちゃったじゃん!バカ! ちょっと待って!お風呂?え?オレもお風呂に入っておいたほうがいいんじゃ……いやいや、何をヤル気になってんの! うおおおお!ど、え……ホント、どうしよう。 いや別に……前みたいに、皇とそういうことをするのがイヤとか……じゃ、ないんだけど。むしろ……。 むしろーっ!?むしろ何?!何考えてんだよ、オレ! でも……もし逆に、何も……されなかったら? そ……それはそれで……。 そっちのほうが……イヤ、かも。 うああああっ!いや、でも! あああああっ!……どうしよう。 ああ!課題!もう全然、課題が終わらない! その時、風呂場のドアが開いた。 「うおっ!」 音に驚いて体が跳ねた。 ちょっと時間を置いて、ほんわかいい香りが漂ってくる。 シャンプーだかボディソープだかの香り。 ちょうどお風呂場は机の真後ろで……何故か、振り向けない。 あ!そうだ!課題!課題に集中するんだ!オレ! 「終わったのか?」 「っ?!」 すぐ後ろに、ほかほかしている人が立っているのが雰囲気でわかる。 背中からふわっと漂ったいい香りが、オレの周りの空気を一瞬で包んだ。 「え……うん。あ、ううん。ちょっと、わかんなくて……いや、でも!ふっきーのノートが……あ、コピーとってくれて……ほら、これで大概、わか、る……」 あたふたしながら、ふっきーからもらったコピーを見せようと後ろを振り返って、皇と目が合った瞬間、言葉を失った。 白い寝巻きを緩く着て、濡れた髪を拭きながら立っている皇は……サクラじゃないけど、漫画とか、どっか違う世界から抜け出てきちゃったみたいだ。 皇を見つめたまま黙り込むと、強く肩を掴まれて、椅子の背もたれに押し付けられた。 「っ?!」 唇が重なるのと同時に、頬に雫が落ちてきた。皇が泣いているのかと思ってびっくりしたけど、重なっている皇の唇の端が上がったのに気が付いて、涙じゃなくて、ただ髪を乾かしていないせいだってわかって、何かちょっと、ほっとした。 でもほっとすると同時に、ぼたぼた垂れてくる雫がめちゃくちゃ気になって、キスどころじゃない! 「つ……めたいっ!」 皇が角度を変えてキスするたび、オレの顔に雫が落ちてくる。 「気にするな」 そう言って皇はオレの頬を包むと、またキスをしてくる。 「だっ……気になるっ!」 皇の胸を押すと、手首を掴まれた。 「ちょっ……ホントに……」 「雨花」 皇が急に真面目な顔で、オレを見つめた。 な……に? ちょっと……そんな見られると……何か……逃げたくなるじゃん。 「余を……拒むな」 「え?」 「やはり余では……ならぬか?」 「え?」 何、言ってんの? 「余のように、心の狭い人間では……ならぬか?」 「え?」 「先刻、余は心が狭いと言うてから、そなたは機嫌を崩した」 皇が、座っているオレを、上からぎゅうっと抱きしめた。 「もっと広い心で、全てを許せるようでなければならぬか?余では……駄目か?」 皇が、更に腕に力を入れた。 駄目なわけ、ないじゃん、バカ。 皇を思い切り抱きしめた。 「雨花……」 そんなお前だから……こんなに……好きになっちゃったんじゃん。

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