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はじめてのおつかい⑭

「余は……これほどまでに、腑抜けだったか」 オレの胸に顔を埋めたまま、皇はオレの背中に腕を回した。 「そなたがどう思うておるのか……そればかり、気になる」 小さくため息をついて、皇はふいに顔を上げた。 「そなたは余を恐れず、家の名に縛られてもおらぬ。……余が気に食わねば、苦もなく余から離れてゆくであろう?」 そこでふっと目を伏せて、皇はオレの指に、指を絡めた。 「そなたはもとから男色ではあるまい。余がこのように触れることに……嫌悪しておるのではないか?」 皇の指が、離れていった。 一番最初に触られた時は……本当にイヤだと思った。怖かったし。男と、そういうことをするとか……オレの人生において、そんなことが起こるなんて、それまで一ミリだって考えてなかった。 あの頃はあんなに……イヤがってたのに。 いつからオレ、変わったんだろう? 鎧鏡家では、男同士の婚姻が当然だとしても、それは一般的には受け入れられないことだっていう考えは、今も変わってない。 なのに……オレはいつ、常識的でありたいなんて思っていた自分を飛び越えて、皇の一番近くにいたいなんて、思うようになったんだろう。 お前が言う"嫌悪感"なんて、少しもない。 離れていった指を、オレのほうから繋ぎたい。 こんなに切実に想っているのに、皇はどうしてわかんないんだよ。 何の返事もしないオレを、皇は上体を起こして見下ろした。 『駄目か?』っていう、皇の苦しげな問いに、返事をしないといけないって思うのに、どう言ったらいいのか……わからない。 心の中そのままを、素直に言葉にしたらいいだけなんだろうけど……。 でも……皇を前にすると、素直な言葉が、出ていかない。 「お前……鎧鏡の若様なんだし……わざわざそんなことオレに聞かなくたって……」 好きにしてくれたら、いいのに。 イヤがってないのなんか、わかりきってるはずだろ? 「そなたの許しが欲しいのだ!」 今まで囁くようだったのに、急に大きな声を出されて、ビクリと体が跳ねた。 「……すまぬ」 皇はオレをあやすように、頭を何度か撫でた。 「いちいち……許されたい。そなたも同じように、余を求めているのだと……思いたい。御台殿に、大事に出来ぬなら柴牧家殿にお返ししろと言われてから……そなたはいつでも実家に戻れるのだと、気が気でない」 もしかしたら、お正月に予定より早く迎えに来てくれたのも、そのせい? 実家に帰りたくなったら、チョコプレートを捨てろって、そうしなきゃ実家には返さないって、言ってくれたのはお前じゃん。捨ててないんだから察しろよとか、思うけど……。 オレだって、こんなに大事にされてるのに、言葉にしてくれない皇の気持ちを、いつも不安に思ってる。 態度だけじゃ不安で、言葉が欲しいって思うのは、オレも同じだから、わかるけど……。 他の候補様たちにも、そんなことを言ってるんでしょ? そう思うと……不安をオレに曝け出してくれている皇に、優しく囁いてあげることが出来ない。 「オレ……プレート捨ててないじゃん!だから……」 オレには、こんな風に伝えるのが精一杯だ。 「駄目じゃないって、ことじゃん」 駄目じゃないって……して欲しいって言ったも同然なんじゃないの?! どうしよう……めちゃくちゃ恥ずかしい。 顔を手で隠すと、皇に手首を掴まれた。 「そんなことは、わかっておる」 そう言って、皇はゆっくり、唇を合わせた。 わかってるって何だよ!せっかく勇気を振り絞って言ったのに! 睨み付けると、皇の眉が下がった。 「わかっておっても、恐ろしい」 離れた唇は、すぐに触れそうなくらい近くにあって……。 「そなたが欲しいと思えば思うほど……そなたが恐ろしくて、堪らない」 そう小さく囁いた皇の唇が、離れていった。 オレが怖い?なんで?わかんないよ。 だけど、このまま素直になれなきゃ、今この瞬間、腕の中にいる皇が離れていっちゃう気がした。 それはイヤだ! 離れていく皇の頬に、指を伸ばした。

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