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はじめてのおつかい⑯
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翌朝、外から聞こえてくるガタガタという、何だかわからない大きな音で目が覚めた。
「っ!?……うわっ!」
目を開けると、すぐ近くにいた皇と目が合って、さらに驚いて飛び退いた。
「化け物でも見たか?」
皇はそう言って笑うと、腕を引いてオレを胸に抱きしめた。
その途端、皇の下半身が固くなっているのが、ダイレクトに肌に伝わった。
「ちょっ……」
……っと待ったー!
オレも、同じ状態……だよね、これ。
知られまいと腰を引くと、皇にぐっと戻された。
「ちょっ、と……」
まずい!
ただの生理現象だっていうのに、お互いこんな状態になってると、おかしな気分になってくるじゃん!
生理現象だから!ただの生理現象だから!
「……何だ?」
皇はニヤリと笑って、囁くようにそう言うと、体をピッタリつけたまま、何度か腰を小さく動かした。
「っ?!」
も……ダメだってー!
皇の胸に額を押し付けると、鼻で笑った皇が、自分とオレのペニスを一緒に掴んで、一気に扱いた。
「あっ!はっ……んっ……すめ、ら、ぎっ!」
「っ……青葉……」
もう!……朝から何してくれてんの?こいつ!とか思うんだけど……皇に、切なげに名前を呼ばれたら……止められないんだよ!バカ!
だって皇が、オレのこと欲しがってるとか思うと、すっごい……嬉しくなっちゃうんだもん。
夕べ、相当イカされたはずなのに……オレは、皇の手の中に、あっけなく吐精した。
「本丸に戻る」
吐き出された二人分の精液を手で受けた皇は、そのまま洗面所に消えて行ったと思ったら、寝巻きを羽織って戻ってきた。
ささっと白い寝巻きを着ていく姿に、思わず見とれた。
「そなたも余ばかり見ておらぬで、早く着替えよ。一位が起こしに参るであろう?そのような姿、余以外に見せるでない」
「え?……あっ!」
布団の中のオレは、真っ裸だ。
ぎゃあっ!
そこら中に散らばったままだった部屋着を取って、ささっと着替えた。
そのあとすぐに、いちいさんが起こしに来た。
ハッとして時計を見ると、もう5時を過ぎている。
「車を回してございます。朝のお支度に間に合いますでしょうか?」
「ああ。問題あるまい」
皇を玄関まで見送りに行くと、外は一面の銀世界になっていた。
「うわっ!雪?!」
「はい。これでは本日は、休校になるかもしれませんね」
「休校に……休校にぃ?!」
「どうなさいましたか?」
「あ……課題が……」
終わってなかったー!!
うおおおっ!休校になってー!
ふっと鼻で笑った皇を、ギロリと睨みつけた。
誰のせいで、課題が終わらなかったと思ってるんだよ!バカー!
って……皇の、せいじゃないか。
夕べ弱音を吐いた皇が、オレから離れてしまいそうな気がして、手を伸ばしたのは……オレのほうだ。
課題が終わらなかったのは……オレが、それを選んだから。
「寒いであろう。早う中に入れ」
オレの頭にポンっと手を置いて、皇が車に乗り込もうと背を向けた。
ギシッと、胸が締め付けられる。
いつからか、皇の背中を見送るのが辛かった。いつか皇と離れる時の苦しみが、会えた時の喜びを超えてしまいそうだと思ってた。それでもまだ、大丈夫だったんだ。ついこの前まで。
なのに。
それに気付くのが、どうしてこんなに、幸せだなって思えた、今朝なんだろう?。
今……超えちゃったよ。
今日休校だとしても、明日になれば会えるのに、今、皇と離れるのが、めちゃくちゃ辛い。
他にも大事な人がいる皇を求めても、傷付くだけって怖がって、逃げることばっかり考えてた。
でも……皇といたい。
今はもう、傷付きたくないってことより、そっちのほうが全然……オレの中で大きくなってる。
運転手さんが車のドアを閉めようとしていた。
「皇!」
ほんの一歩、前に出た。
「……参れ」
車から身を乗り出した皇が、オレの手を引いて車に引きずり込んだ。
「うわぁ!」
「行くか?行かぬか?」
昨夜もそうだった。
ほんのちょっと自分から手を伸ばしただけで、皇はオレを一番近くまで引っ張ってくれた。
あとはオレが、決めるだけ。
「いちいさん、ごめんなさい!皇のこと本丸まで送ってきます!すぐ戻りますから!」
外のいちいさんが『いってらっしゃいませ』と、ニッコリ大きく頷いた。
本丸まで送るだけの短い時間でも、ちょっとでも長く、一緒にいたい。
オレ……皇と、これから先も……一緒にいたい。
一緒にいられるように、頑張る。
もうそれしか、選べない。
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